356 クウえもん、再び
悪魔のことを知る話し合いは続く。
まず私が心配になったのは、5000年前のように――。
魔界からの大侵攻があるんじゃないか、ということだったのだけど……。
その心配なさそうだった。
なぜならば。
大侵攻のきっかけとなったのは、精霊女王。
彼女が酔っ払って大暴れして、世界に穴を開けてしまったのが原因らしい。
私か!
と、思わず突っ込んだのは内緒だ。
自分できっかけを作って……。
自分で壊滅させたんだね……。
それがすべて計画通りなら、素晴らしいことだね!
まさに天才だ。
フラウには、にっこりと笑顔で言われた。
クウちゃんが酔っ払って暴れない限り、
魔界の大軍が押し寄せるようなことにはならないのである。
――と。
いや私しないからね!?
お酒なんて、こっちの世界に来てから一滴も飲んでないし!
そもそも私、お酒で酷い目にあってるし!
同じ失敗はしないよ!?
まあ、私と相棒の神話武器『アストラル・ルーラー』なら……。
世界に穴を開けることもできそうだけど……。
気をつけよう……。
成人したら、お酒、飲んじゃうかもだし……。
うん。
たぶん飲むし。
うん。
絶対に飲むし。
こっちの世界の人たちって、少なくとも帝都の人たちって――。
みんな倫理観が高い。
なので、今はお酒なんて勧められないけど。
むしろ飲んじゃ駄目と言われるけど。
成人すれば、きっと勧められる。
私は断らない。
そんな失礼なことはしない自信が私にはある!
ブリジットさんと飲み明かしたい!
まあ、いいか。
エリカとユイには疑い深そうな目で見られたけど――。
少なくとも君たちには!
私のことを言う資格ない!
なぜならば!
一緒にお酒で人生おわった仲だからね私たち!
お互いに気をつけよう!
というわけで。
世界の心配をしたはずなのに、
なぜか私のことを心配されたりもしたけど。
今は悪魔対策なのだ。
私は自分の考えを述べた。
「とにかくさ、悪魔っていうのは簡単には呼べないんだよね。
で、その貴重な悪魔が動いた作戦を、私たちは完璧に阻止したわけだ。
偶然の要素も強かったけど。
召喚主は、確実に焦るよね。
何がどうなった!
ちがうか――。
なぜ、消えたはずの聖女ユイリアが陰謀の現場にいるのか!
まさかすべて、聖女の計略なのか!
許さん!
許さんぞぉぉぉぉ!
って、思う気がするんだけど、どう思う?」
「私、狙われるの? ヤだよー!」
ユイが涙目で悲鳴を上げた。
「でも、現実的に考えるとそうだよね? 帝国の禁区にも、聖都にも、ユイがいてユイが片付けたわけだし」
「話を聞いている限りでは、そうですわね」
エリカも同意してくれた。
「私、怖いのヤダよー! 助けてよー、クウー!」
「ていうか、そもそもユイにはリトがいるから平気だと思うよ?」
あれでリトは光の大精霊だし。
光の力って、悪魔には特効みたいだし。
「リトとは仲良しだけどぉ……。クウも助けてよー!」
まあ、うん。
頼ってくれるのは嬉しいけど。
「2号はもう少し、自分に自信を持つべきなのである。2号と光の大精霊が共にあればニンゲンの社会で勝てぬ者などない――」
と、フラウは言いかけて、私のことを見た。
「ということはないのであるが、あんまりいないのであるな」
あー。
フラウが断言しないから、ユイが泣いちゃったよー。
「ヤダヤダヤダー! 私、怖いのヤダよー! なんとかしてよクウえもーん!」
そのネタ、まだ忘れてなかったのね。
「もう。しょうがないなー、ユイ太くんは」
せっかくなので乗るけど。
「大丈夫だと思うよ?
だって、結局――。
悪魔を呼び出しているのって、トリスティン王国なんだよね?」
他に候補もないし。
「だとすれば、さ。
トリスティン王国に乗り込んで、残りの悪魔も始末すればいいよね?
ちがうか。
正体を暴いてやればいいよね。
どうせ大臣か国王が、成りすました悪魔なんだろうし」
お約束の展開だよね。
本物の大臣なり国王は地下牢に幽閉されていて、
悪魔が成りすましている。
「またそんなゲームのようなことを――」
エリカは呆れた声で言ったけど、すぐに考えを変えたようだ。
「と、言いたいところですが、そうですわね……。トリスティンであれば、すでに中枢が悪魔の思うままでも変ではありませんの……」
「トリスティンの連中は、ザニデアで瘴気の谷も作っていたのである。悪魔に関する真偽は不明であるが、連中が黒魔術に手を染めているのは確実なのである。クウちゃんが天罰を食らわすならば応援するのである」
「ねえ、フラウ。手伝ってはくれないのかなー?」
腕組みしてうなずくフラウに、私は聞いてみた。
「クウちゃんがその気なら、究極魔法で王都を更地にすれば良いのである。それで綺麗に解決なのである」
あー。
フラウは、私のスターライトストライクを見ていたよねえ。
「クウ! 頑張って! 私、期待してる!」
両手で拳を握って、ユイが無責任に応援してくる。
「いや、うん……。さすがにそれは……」
無実の市民まで消し去るのは、私には無理だよ。
良心が痛みすぎる。
「ですわよ、ユイ。無関係の人まで巻き込んでどうするのですか」
「……あ。うん。そうだよね、ごめん」
エリカにたしなめられて、すぐに反省してくれてよかった。
そもそも、本当にトリスティンの仕業だとわかっているわけではないのだ。
いろいろと黒い噂はあるけど。
あくまでも噂。
確たる証拠があるわけではないのだから。
ただ、はっきりしていることもある。
ナオはトリスティンで奴隷にされていた。
そして、瘴気の谷に落とされ、黒魔術の生贄にされた。
酷い行いはされている。
支配の首輪等が、その力で作られている。
それは事実だ。
それだけでも、十分に黒ではある。
とはいえ――。
いきなり究極魔法をぶっ放すのは、さすがに度が過ぎている。
私には無理だ。
なにかいい手はないものだろうか。
市民は害さず。
悪魔は、どうにかする。
あと、めんどくさくない。
そんな手が……。




