349 セラの大ピンチ? 必死の特訓大作戦!
「クウちゃん……。わたくし、耐えていたのですが、もう限界です……」
「どしたの?」
「世界の――。世界の危機なんですっ!」
「えー!?」
ランチの時にはおしとやかだったセラが、部屋に入った途端、いきなり大きな声でそんなことを言った。
これにはクウちゃんさまもびっくりですよ、びっくり。
なにしろ私、悪魔がどうとか難しい話をしてきたところなのです。
あまりに難しいので逆に頭は空っぽになったのですが、それでも世界の危機と言われれば驚くところもあるのです。
まさかセラ、何かを感知している!?
「詳しく! 詳しく聞かせて!」
「……マリエさんです」
「ん?」
深刻ぶったセラの口から出た名前に、思わず私は首を傾げた。
「マリエさんが世界を破壊しようとしています」
「えっと」
「わたくし、それを止めようとしたのですが――。したのですが――」
セラがわなわなと震える。
一体、どういうことだろうか……。
マリエ?
うん。
知ってるけど。
善良で、裏表のない、いい子だ。
そんなマリエが世界を破壊しようとしている……。
実は悪魔だったとか?
そんなバカな。
私もユイも大精霊たちも、誰もマリエから悪意なんて感じていないけど。
でもセラは深刻そのものだ。
「……倒さねば、ならないのです」
セラが言う。
私は返答に困った。
セラが誰かを陥れるための嘘をつくとは思えない。
でも、だからと言ってマリエが……?
そちらも信じられなかった。
「クウちゃん。助けてくれませんか? もうわたくしだけでは無理なんです!」
「え……。と……」
私は困って、シルエラさんに目を向けた。
するとシルエラさんが教えてくれる。
「姫様がおっしゃっているのは、すべてゲームのことです」
「え。あ。なーんだぁ」
ほっとした。
一体、何事かと思ったよ、ほんとに。
「60戦、0勝60敗」
シルエラさんが言う。
なんのことだろか。
「姫様とマリエ様の勝負の結果です」
「まさか、0勝なのって……」
「姫様です」
なんと。
「……すごいね。一体、なんの勝負をしていたの?」
「クウちゃん様のいいところを言い合う勝負、で、ございます」
「そかー」
コメントに困る勝負だね、それ。
私、クウちゃんだし。
「でも、セラ。私のいいところの言い合いで、一回も勝てなかったんだね」
「うわぁぁぁぁぁぁん! 許して下さいクウちゃぁぁぁぁん! わたくし、わたくしはお友だち失格ですぅぅぅぅぅ!」
「あああぁぁぁ! 泣かなくていいからあぁ! ほら、うん! 元気だしてこ? べつに私も気にしてないし」
「気にしてほしいですぅぅぅぅぅぅ! わたくしがぁぁぁぁ!」
「あああぁ! わかった! わかったからぁぁぁ!」
「と、このように――。セラフィーヌ様は連戦連敗で情緒不安定なのです。ここはぜひともクウちゃん様にお助けいただきたく」
「と言われても……。私のいいところを言い合う勝負で私が助けるって……なんか死ぬほど恥ずかしいんですけど……」
「そこをなんとか」
うーん。
困った。
「具体的には、どんな感じのゲームなんですか?」
「リズムに合わせてクウちゃん様のいいところを言い合うのです。3秒以内に言えなければ負けとなります」
「なるほど。連想ゲームか」
「はい」
「とりあえず、やってみようか……」
なんか恥ずかしいけど。
というわけで。
セラが落ち着くのを待って、勝負をしてみた。
先行は私がもらった。
「クウちゃんのー、いいところ、言ってみよー!」
タン、タン、タタ、タン♪
う。
勢いでやろうとしたけど、恥ずかしいぞこれは!
「3秒経過。クウちゃん様の負けでございます」
シルエラさんが告げる。
「しまったぁぁぁ!」
不覚ぅぅぅぅぅ!
「え。あの」
セラがまばたきして私とシルエラさんのことを見つめる。
「おめでとうございます、姫様。1勝です」
「わ、わたくし……。ついに?」
「はい」
「やりました……。やりましたぁぁぁぁ!」
セラが飛び跳ねて喜ぶ。
今のでいいんかい!
と、突っ込みかけたけど、やめた。
セラ、本気で嬉しそうだし。
「クウちゃん、ありがとうございます。わたくし、自信がつきました。今度こそマリエさんを倒してみせます!」
「う、うん……。頑張ってね……」
なんとなく流れで、まあ、いいかと思ったけど。
いや。
よくはないよね。
というわけで、改めて対決。
「私のいいところは恥ずかしいから、セラのいいところにしよう!」
「ええー! そそ、そんなの無理ですー!」
「いいからいいから、さ、行くよー」
たん、たん、たた、たん♪
「セラのいいところー。さらさらの髪ー」
「ええっ! そ、そそ、それはシルエラがいつも手入れしてくれているからで……。恥ずかしいですぅぅ」
「なるほど」
「――で、ございます」
私が納得すると、シルエラさんが同意した。
たぶん、私のいいところ勝負でも、いちいち反応していたのだろう。
結局――。
セラが弱点を克服するまでに半日かかった。
「……ど、どうでしょうか」
「うん。バッチリだね」
ついに途中で脱線することなく、言い合うことができた。
「おめでとう、セラ」
「おめでとうございます、姫様」
私とシルエラさんで、拍手してセラの健闘を称える。
「ありがとうございますっ!」
喜び合っていると、見計らったようにドアがノックされた。
夕食の報せだった。
私の分もあるみたいだった。
せっかくなので、今夜は大宮殿で豪華なディナーをいただくことにした。
またもや皇帝御一家と一緒だった。
なんかもう慣れてきたし、普通に同席させてもらう。
お兄さまにしゃべりかけられたのは、そんな夕食の最中だった。
「ところでクウ、明日は店にいるのか?」
「はい。いる予定ですけど」
「昼前――10時過ぎに行くので頼む」
「お兄さまがですか? 仕事の依頼なら今のうちに聞きますけど?」
「俺ではない。ウェイスのことは覚えているか?」
「はい……。お兄さまのお友だちですよね。あと、ブレンダさんのお兄さん」
「そう、そいつだ」
「何の用なんですか?」
「それなんだがな……」
私がたずねると、どうしてかお兄さまは言葉を詰まらせた。
なぜか、アリーシャお姉さまを気にしているようだ。
「わたくしがどうかしまして?」
アリーシャお姉さまも視線に気づいたようで、フォークを止めてたずねた。
「いや……。大したことではない。そもそも俺の用件ではないのだ。とにかくクウ、明日はよろしく頼む」
「はぁ。わかりました」
なんだろか。
「はははっ! おまえたちも随分と仲良くなったな」
「そうですね、本当に」
陛下と皇妃様が笑う。
「だから、俺の用件ではありません」
「そういう問題ではない。カイスト、おまえ、最初、クウにどんな態度を取っていたのか覚えていないのか?」
「あー。私、冷たくされましたよねー」
「ふんっ! 当然だ」
お兄さまがそっぽを向く。
「良いでは有りませんか。今では仲良しなのですから」
「だから、お母様――。俺の用件ではありません」
「ねえ、お兄様。面白そうですし、わたくしもご一緒してよろしいかしら?」
「それなら僕もクウさんの家を見てみたいです」
「では、わたくしも」
アリーシャお姉さまに続いて、弟のナルタスくんと、セラまでもが私のお店に来ると言い出した。
「駄目だ」
お兄さまが短い言葉で拒絶する。
「あら。何故ですの?」
「ナルタスはともかく――。おまえとセラフィーヌは駄目だ。男同士の話なのだ」
「あの、お兄さま。私、これでも美少女クウちゃんなんですけど?」
男じゃないですよ?
「おまえはいい」
「ふむ」
まあ、いいならいいけど。
ただ、理由も言わずに拒絶だけするものだから――。
逆にお姉さまは興味を持ったようだ。
ディナーの後はお風呂に入った。
湯船に浸かりながら、お姉さまが私に言う。
「ねえ、クウちゃん。明日なんですけれど――。朝一番にそちらに行って、そのまま裏にいさせてもらうことはできるかしら?」
「お姉さま、それって――」
「ええ。一体、お兄様達が何を企んでいるのか、見てやります」
「あはは。私はいいですけど。怒られませんか?」
「面白そうなので、わたくしも行こうかしら」
「皇妃様もですか!?」
「あ、ならわたくしも――」
「セラフィーヌは駄目です。明日は一日、しっかりと勉強する約束でしょう?」
「そんなー」
なんと皇妃様とアリーシャお姉さまが来ることになった。
セラは駄目でした。
勉強も大切だし、しょうがないね。
明日は面白いことになりそうだ。




