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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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348 閑話・皇帝ハイセルはかしこい精霊さんの話を聞く 後編



「……そうですな。

 実は我々も、悪魔についてはあまり詳しくないのです。

 認識としては、クウちゃんが持っているものに近いのですが――」


 俺ハイセルはこの国のトップであり、盟友のバルターは内務卿としてこのバスティール帝国の内務を司る。

 しかし、そんな俺達をしても――。

 バルターの言う通り、悪魔についての知識は少ない。


「まず、悪魔というのは、この世界の存在ではなく――。別の世界――魔界と呼ばれる異世界の住人であり――。こちらの世界には、黒魔術によって呼び出されているのだと我々も認識しております」

「黒魔術っていうと……。やっぱり、生贄とかなんですか?」


 クウが眉をひそめてたずねる。


「そうですな……。噂では、悪魔は生贄を媒体とし、定められた門から、定められた呪文によって呼び出されるようです」

「帝国にはいないんですよね?」

「おりません。そもそも我々は黒魔術の知識に乏しいので」

「やっぱり、トリスティンっていう国なんですか?」

「恐らくは。リゼス聖国が光の魔術を秘匿しているように、トリスティン王国も黒魔術を秘匿しているのでしょう」

「ハッキリとはしていないんだ?」

「はい。我々も今まで、本気で追求をしたことがなかったもので」


 黒魔術に悪魔……様々な情報が漏れ聞こえてくる中で、何故、今まで本気の追求をしてこなかったのか。

 それは我々も、その恩恵を受けていたからだ。

 トリスティンからもたらされる魔道具や薬品は、今では、特に治安維持活動において欠かせないものとなっている。

 女神の瞳による鑑定と、人の心身を囚える魔道具や薬品。

 それによって、帝国の平和は守られてきた。


「なんにしても、じゃあ、悪魔って、呼ばれないと来れないんですよね?」

「恐らくは」

「……セラに呪いをかけた男爵とか、前に帝都で呪いをかけようとしていた商人さんとかいましたよね――。あれは邪神でしたっけ――。ああいう、恨みとか怒りとか絶望とかで導かれる力は、悪魔とは関係ないんでしょうか」

「判明はしておりませんが、無関係というわけではないでしょう」

「ですよねぇ……」

「実は、件の商人からは話が聞けておりましてな」

「どんなですか?」

「いわく、囁く声が聞こえていた、と」

「囁き、ですか……。それって、恨め、恨め、憎め、憎め、とか、みたいな?」

「ええ。そうです。クウちゃんには心当たりが?」

「んー。そういうわけではないんですけど……。邪神の力を引き寄せるように悪魔が誘導しているのかなぁ、と」

「実は、これもクウちゃんが救った者ですが――。ディレーナ嬢からも、似た供述を得ているのです。囁く声が聞こえて――。自分でもよくわからない内に、アリーシャ様を酷く憎むようになっていた、と」

「悪魔を呼び出したのがトリスティンだとしても、それなら、悪魔は悪魔で邪神の召喚とかを目指しているとか、なんですかね……」

「その可能性は否定できませんな」

「それは困りますねー。くまったくまった」


 腕組みしてクウが偉そうにうなずく。


「何がくまっただ。おまえ、本当はまったく困っていないだろう」


 つい俺は突っ込んでしまった。


「ランチの前だけに?」

「……どういう意味だ?」

「くまっただけに、くうまえに、的な? くうちゃんだけに?」


 こいつは!


 あやうく怒鳴りかけたが、俺は必死に耐えた。


「あ、そうだ! 冒険者ギルドのマスターとロックさんたちからの報告って、もう届いているんですよね!?」


 いきなりクウが話を変えてきた。


「ああ、届いている」

「帝国が悪魔に狙われていたことも?」

「ああ――。驚くべき内容だった」

「ならよかった。知らないと大変ですよね。まあ、でも、安心してください! このクウちゃんさまがすべて潰したようなので!」


 わっはっはー。


 と、クウは胸を張って偉そうに笑う。


 その態度だけなら張り倒してやりたいところだったが――。


 その功績は事実だ。


「クウ。おまえには感謝してもしきれぬ。我々は悪魔どもの企みを、ほとんど感知できていなかったのだ」

「実は完全に偶然だったんですけどねー。あはははー」


「……クウちゃんには、創造神アシスシェーラのお導きがあるのでしょうか」


 感慨深くバルターがつぶやく。


「あ、かもですねー」


 クウの奴は、なんでもないことのようにうなずいたが。


「クウ、これからも頼む」


 俺は頭を下げた。


 地位も名誉も金も何もいらないというのだ。


 せめて感謝だけは、最大限にする必要があるだろう。


「私にお礼はいいですよー。くすぐったいので、やめてくださいよー。私、帝国でよくしてもらってるし。それに、遊びに行ったり、付き添ったりしていただけなのでー。あ、でもロックさんたちには何かあげてもらえると嬉しいです」


 Aランク冒険者パーティー『赤き翼』の功績は届いている。


 禁区に発生したダンジョンの最下層に赴き、悪魔の元で帝国に死霊の大軍を放とうとしていた敵首魁を討伐したのだ。


「あと、あの……。ユイのことは秘密にしていただけると嬉しいんですが……。普通の冒険者として普通に冒険しただけなので……」

「冒険者ギルドからの報告書にもその旨は強く記されていたが、せめて謝意は示す必要があろう?」

「ギルドマスターたちも余計なことは言わないでしょうし、感謝するとしても地味にでお願いしたいです」

「わかった。そうしておこう」


 俺はクウの言葉を認めた。

 正直、帝国としても、その方がやりやすくはある。


「よかったー。じゃあ、そういうことでお願いしまーす」


 この後は、赤竜についての報告を受けた。

 火の大精霊までをも動員して強引に噴火を止めたという話だった。


 それによって、悪魔ゼルデスバイトが語った、帝国を混乱の渦に落とすための計画はすべて頓挫したわけだ。

 当事者である帝国がほとんど事態を把握できぬままに……。


 悪魔は一体、何を目的としているのか――。


 悪魔に対して、いかに立ち向かうのか――。


 知らねばならないこと、決めねばならないことだらけだった。



「ところでクウ。今更だが、聖女と竜騎士は帰ったのか?」

「はい。帰りました。ありがとうございました」

「そうか。ならばよい」

「あ、そうだ、陛下。ちょっと確認なんですけど」

「なんだ?」

「セラに転移魔法を教えるのって、どう思いますか?」

「……どういうことだ?」

「実は私の転移魔法って、光属性なんですよ。ユイにも使えたんです。なのでセラにも使えると思うんですけど……」

「ほう。それはすごい話だが……。しかし、危険はないのか?」

「それは平気です。飛び先を指定しないと、そもそも発動しない魔法なので。でも危険を感じるのはわかります。私も迷ってて」

「……そうだな。すまんが、もう少し先の話にしてもらってもいいか? セラフィーヌはまだ魔術を習い始めたばかりだ。転移魔法などという明らかに高位の魔法を操るにはまだ経験が足りぬだろう」

「わかりました。そうします」



 今回の話は、それでおわった。



「じゃあ、陛下! 私、セラとランチしてきますねーっ!」

「ああ、楽しんでこい」

「バルターさんもまたでーす!」

「ええ。またです。クウちゃん」


 空色の髪をなびかせて、クウが部屋を出ていく。


 ドアが開き、閉じた。


「いやはや。いつものことですが、クウちゃんは元気ですな」

「まったくだ」


 俺は息をついた。


「……しかし、クウちゃんの重要性は増すばかりですな」

「どう接していくべきか――悩むところだ」

「今まで通りでよろしいかと」

「はははっ! セラフィーヌの父親として気楽に、か?」

「左様でございます」

「……まあ、そうだな。精霊様と祭り上げることができれば逆に楽だが」




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