346 報告会です
こんにちは、クウちゃんさまです。
私はこれから、『帰還』の魔法でおうちに帰るところです。
バデア山での噴火騒動に一段落がついた後――。
念の為に近くの町で泊まって、その翌日です。
万が一にも何か起きたら大変かなーと思って待機していたのですが、どうやら大丈夫そうなので帰ることにしました。
ナオとユイのことは心配だけど、2人はそれぞれ、ようやくというか、ついにというか早くもというか――。
自分の道に戻ったわけなので――。
いきなりの余計なお節介は、邪魔になるだけだろう。
ナオは隠密一人旅なら余裕だろうし、ユイにはリトがついているしね。
私は一旦、のんびりしよう。
まあ、もっとも、帰ったら帰ったでお店があるので仕事なのですが。
精霊ちゃんとエリカとナオのぬいぐるみの販売勝負をせねば。
大商人のウェーバーさんに委託した聖女ユイの公式ぬいぐるみがどうなったのかも気になるところだ。
ロックさんたちが帰って来たら武勇伝も聞きたい。
セラとも遊びたい。
うーむ。
やることいっぱいだ。
お茶会からここまで、大忙しだったからねえ……。
やっと日常に戻れるというものだ。
嬉しいね。
というわけで――。
「帰還」
さくっと大宮殿の奥庭園、願いの泉のほとりに着地する。
するとすぐに、待ち構えていた執事さんに恭しくお辞儀をされた。
「お待ちしておりました、クウちゃん様。
さあ、陛下がお待ちです。
どうぞこちらに」
左右にはメイドさんたちもいる。
あ、はい。
報告会ですね、わかります。
というか、いつものことなのですが、いつ来るかもわからない私を待っていて本当にお疲れさまです……。
どうしようもないのだけど、申し訳ありません……。
というわけで。
広い奥庭園を歩いて、広い大宮殿を歩いて。
私は陛下の執務室の前まで来た。
ドアは閉まっている。
今、執事さんが、ドアをノックして入室の許可を求めているところだ。
ふむ。
考えてみると、私、今回もやらかしているよね。
普通の冒険者として普通に冒険するはずだった禁区調査では、立ち込めていた瘴気を綺麗さっぱり消し去った。
まあ、あれは、対外的には、私じゃなくてユイの仕業だけど……。
禁区には遺産があるから、更地に返すのは禁止で、そのままにしておいてほしいと言われていたのにね……。
まあ、更地にしたわけではないからセーフだけど……。
セーフだよね……。
でも、アレかな……。
普通の冒険はしなかったわけだし……。
ここは、ひとつ、誠意を見せるべきか……。
きちんと謝れない人間は駄目だって、なんか言われたことある気がするし。
私は精霊さんだけど……。
駄目ではないので……。
ちゃんと、謝るべきところは謝らねばだね……。
よし……。
私は覚悟を固めた。
ドアが開き、入室が許可される。
行くぞ……!
私は表情を整える。
当然、真顔だ。
私は姿勢を整える。
当然、直立だ。
「おい、クウ。いきなりどうした? 早く入って来い」
陛下が怪訝そうに眉をひそめる。
私は呼吸を整える。
ふう……。
落ち着きも大切だ。
慌ててはいけない。
「おい、クウ? おまえ、まさかまた……。おい、やめろ?」
よし。
気持ちは整った。
床を蹴る。
宙に浮き上がったところで、膝を折り曲げる。
そのまま着地。
足の痛みをこらえて、体を前に倒す。
腕は折り曲げる。
頭の左右に手のひらをつける。
これぞ謝罪の奥義。
ジャンピング土下座!
「この度は――。
申し訳ありませんでしたぁぁぁぁぁ!」
額を床にこすりつけ、誠意、叫ぶ。
沈黙が降りた。
私の誠意は、通じたのだろうか。
まだわからない。
相手からの反応を待つしかなかった。
廊下を誰かが駆けてきた。
「――お父さま!
クウちゃんが大宮殿に来ていると聞いたのですが!
今、どこにいるのかご存知でしょう
――か」
「……セラフィーヌか。
いや、これはだな……」
「お父さま……。
一体、クウちゃんに……。
わたくしの大切なお友だちに……。
なにをさせているのですか……?」
「ちがうぞ、セラフィーヌ。
まずは話を聞け。
このバカの学習能力のなさに困惑しているのは、まさにこの俺だ」
「なにが困惑ですか! お父さま! 恥をお知りください!」
「……おい、クウ。おまえ、また、なんのつもりだ?」
呼ばれたみたいので、私はおそるおそる顔を上げた。
「……あの」
「なんだ?」
「許してくれましたか……?」
「ああ……。許したから早く入って来い……」
「クウちゃん、大丈夫ですか? 戻ってきたのなら、まずはわたくしのところに来てくれればいいのに」
セラに助けられつつ、私は身を起こした。
「いきなり連れてこられちゃってねー」
「……はぁ。ともかくセラフィーヌは下がれ。これからクウにはいろいろと話を聞かねばならんだ。おわったらそちらに行かせるから2人で昼食でも楽しめ。クウは早く椅子に座れいつまでそこにいるつもりだ」
「あ、はい。じゃあ、セラ、また後でね」
「わかりました……。
お父様、くれぐれもクウちゃんに失礼なことをしないで下さいね?」
「何度でも言うが、俺は無実だ。俺は何もさせていない」
疑いながらもセラが廊下を戻っていく。
陛下はため息をついた。
「まだ昼前なのに、お疲れなんですね。大変なことでもあったんですか?」
「ああ。あったな」
「そかー」
陛下も大変だね。
「いいから早く座れ」
「あ、はい」
私は席についた。
部屋にはバルターさんもいたので挨拶する。
バルターさんも同席するようだ。
「えっと。許してくれたんですよね?」
私は一応、陛下に確認する。
「もちろんだとも。そもそも俺は怒ってなどいないぞ」
陛下がわざとらしい笑顔でうなずく。
「笑顔が怖いんですけど」
「安心しろ。俺は元からこうだ」
「ホントに……?」
「もしも違うとすれば……。そうだな……。おまえの態度にほんの少し苛ついているだけだから気にするな」
「いやそれ、気になりますよね!?」
私当事者じゃん!
「まあまあ、お二人とも」
そこにバルターさんが割って入った。
バルターさんの笑顔は柔和だ。
「それで、クウちゃん――。実はクウちゃんには、先日の南方旅行から始まって、今回の禁区調査まで――。確認したい事柄がいくつか御座いまして――。帰ってくるのを待っていたのです」
「はい。なんでしょうか?」
「まずは、そうですな……。アヤシーナ商会についてお伺いしたいのですが」
「アヤシーナ商会って……なんかすごい名前ですね」
怪しすぎる。
「おまえが潰した港町リゼントの商会だ」
「ああ。あれかっ!」
陛下に言われて思い出した。
ゼノと2人で丸裸にしたトリスティン王国の諜報機関だ。




