345 閑話・メガモウの夜、マリエの夏、マリエの夏
【1】メガモウは酒を飲む
俺はメガモウ。
何故かウンモとも呼ばれていた男だ。
夜。
ようやくメガモウに戻れて、俺は存分に酒場で飲んでいた。
酒場は騒がしい。
聖女様が、夜の酒場では騒ぐべし、とのお触れを出してくれたからだ。
酒場は盛り上がっている。
話題の大半は、当然だが聖女様のことだ。
「そういえばよ、メガモウ。おまえ、聞いたか?」
同じテーブルで酒を飲む冒険者仲間のワルダスが、ループしていた聖女様の話を止めて別の話題を振ってくる。
「んだよ?」
「この聖都に、久々に聖戦士が生まれたって話だよ。庶民の英雄だぜ? 悪魔を1人で倒したんだとよ。すげーよな」
「ほう……」
俺は無関心を装う。
「ウンモっていうらしいぜ。名前からして獣人なのかねえ」
「さあな。知らねぇよ」
「んだよ。てっきりおまえの知り合いかと思ったが」
「はぁ? なんでだよ?」
「だっておまえ、メガモウだろ? ウンモとは、モとウが同じじぇねぇか」
「阿呆か、テメェは」
俺は相手にせず、酒を飲んだ。
「ウンモってヤツはかなりの大男らしいが、俺、大男って言われても、おまえくらいしかピンとこねぇんだよなぁ」
ワルダスのヤツは、まさか俺がウンモとは思っていないようだ。
俺もそう思う。
余計なことを言うつもりはない。
いざという時には聖女様の期待に応えてみせる――。
その覚悟は、「その時」以外に見せる必要なんてないものだ。
俺は聖戦士だと威張り散らすつもりもない。
何故なら俺はメガモウ。
ひたすらに酒を飲み、気に入らねぇヤツがいればぶん殴るだけの暴れ牛だ。
だけど今夜の酒は、一際に美味かった。
どれだけ仏頂ヅラを浮かべていようが、それは確かだった。
「……それにしても聖女様、すごかったぜ。
とうとう聖都の人間同士で殺し合いが始まるって寸前によ――。
夜の空から現れて――。
俺は忘れねぇよ……。
聖女様の背中に輝いた、あの光の翼は……。
本当に神聖だった……。
あれは本当に、女神の化身としか言い様がなかった……。
メガモウ、おまえ、本気で大損したぜ。
あの場にいなかったなんてよ……」
ワルダスの話がまたループを始めた。
まったく不快な話ではないので、俺は気にせず酒を飲む。
でもな、ワルダス。
実は俺なんて、聖女様とお話までしちまったんだぜ?
メガモウとしてではなく、ウンモとしてだけどな。
小さな優越感に浸りながら飲む今夜の酒は、本当に最高だった。
【2】 マリエの夏
私、どうしたらいいんでしょうか。
私、マリエは、今、大宮殿の奥庭園にある東屋にいます。
夏休みの、よく晴れた午後。
目の前にはセラフィーヌ様がいて、キッと私のことを見据えます。
「さあ、マリエさん。第3回クウちゃんのいいところを言い合う勝負です。これまでの戦績はわたくしの0勝50敗。今日こそは勝たせていただきます」
「は、はい……」
いやもう私、降伏でいいんですけど……。
「情け容赦は無用です。全力でお願いしますね」
「は、はい……」
セラフィーヌ様はとてもとても敏感な方なので、少しでも手を抜くと、すぐに気づいて怒られるのです。
それはもう、すごい勢いで。
本気で恨まれそうなので、勝ちに行くしかありません。
ちなみに同じテーブルにはアリーシャ様もいて、楽しそうな様子でクッキーを食べながら私達の対決を見ています。
アリーシャ様は、ずっとパクパクです。
太らないのでしょうか……。
さすがです。
「いきますよ! タン、タン、タタ、タン♪ クウちゃんの、いいところ!」
手拍子と共にセラフィーヌ様が言います。
「ふわふわな、ところ」
すかさず私は答えます。
タタ、タタ、タン♪
次はセラフィーヌ様の番です。
「かわいい、ところ。はいっ」
タタ、タタ、タン♪
「空色の髪。はいっ」
「ああ、クウちゃんの髪は本当に素敵ですよねー」
「……セラフィーヌ様の負けです」
「あううううううう」
はい。
うん。
セラフィーヌ様が本当にクウちゃんのことが大好きなのは、よくわかります。
でも、弱すぎなんです……。
これで私の51勝0敗ですね……。
どうして一瞬で乗せられるのですか、セラフィーヌ様……。
学習して下さい、そろそろ……。
どうしたらいいんでしょうか、これ……。
アリーシャ様、クスクス笑ってパクパクばかりしていないで、そろそろ助け舟を出して下さいよー!
【3】 マリエの夏
私、どうしたらいいんでしょうか。
私、マリエは、今、ディレーナ様のお屋敷にいます。
夏休みの、よく晴れた午後。
目の前にはディレーナ様がいて、優雅な仕草で果実水を飲んでいます。
「さあ、マリエさん。そろそろ始めましょうか」
「は、はい……」
「第3回、先日のお茶会反省会です」
「あの、ディレーナ様」
「なんですか?」
「今回は4回目です」
「あら。そうでしたわね。失礼いたしました。では、始めましょうか。第4回、先日のお茶会反省会ですわ」
正直、1回目から内容はループです。
そもそも私達、空気でした。
0でした。
0はかけても0なので、反省会をしても、次も空気かと思うのですけれども……。
さすがに言えません。
なので付き合います。
付き合ってみるとディレーナ様は意外にも気さくで、ループな反省会は疲れますが、雑談は普通に楽しかったりします。
「それでは改めて、次のためにリハーサルしますわよ。パターンAプラスから確認していきましょう」
自作自演の練習は勘弁してほしいです。
これにて聖都メガモウ編は終了であります!\(^o^)/




