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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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341 閑話・漢メガモウ、夜の死闘


 森に近づく頃には、すっかり世界は夜になっていた。


 俺は冒険者だ。

 暴れ牛のメガモウと言えば、聖都では勇猛で名が知られている。

 夜の森に入る程度のことで臆したりはしない。

 普段なら――。


「こりゃ、ひでぇな……」


 森から漂う瘴気に、度胸が凍りつくのを感じる。


 ガキの言う通りだった。


 むしろ、もっと早く来るべきだった。


 耳を澄ますまでもなく、森の中からは魔物――いや、もっと禍々しい何かの唸り声がいくつも聞こえる。


 森の中に入ることをためらっていると――。

 地面が揺れた。

 突然のことに俺は驚き、足をもつらせて尻餅をついた。


 揺れは、すぐに収まる。


「……チッ。クソが。情けねぇ」


 大した揺れじゃなかった。

 俺がビビって、勝手にバランスを崩しただけだ。


 俺は森を睨む。


 ビビって尻込みしたら、俺は俺でなくなる。

 だいたい俺は何のために森に来た。

 俺は、自分で自分に格好をつけるために来たのだ。

 誰かに見せるためじゃねえ。


 ただ俺が、聖女様の信者として、聖女様なら放っておくはずがないと――。

 だから行くと決めただけのことだ。


 だが、だからこそ、引き返せない。


 それは、ゴミクズ同然だった俺を救ってくれた、まだ幼女でしかなかった聖女様の、あの時の笑顔を――。

 汚すのと同じだ。


 俺は森の中に入った。

 瘴気が悪寒となって、全身に絡みついてくる。

 恐怖がこみ上げる。

 並の人間なら、すぐに悲鳴を上げて逃げ出すことだろう。


 空は晴れている。

 月も出ていた。


 森の中は暗闇だが、樹冠が開けて月明かりの届く場所もあった。


 俺はそこを歩いていく。


 月明かりは、まるで道のように伸びていた。

 こっちへ来いと……。

 まるで、この森に潜む何者かが――、俺を誘うように。


 どうしてか魔物はいない。


 気配は感じる。

 というか、唸り声が聞こえてくる。


 だが俺に襲いかかってくることはなかった。


 そして――。


 俺はたどり着いた。


 森の中の大岩に座っているのは、一体の魔物だった。


 身の丈3メートルはある人型。


 額に角を生やし、俺のことを見てニヤリと笑う口元からは牙を伸ばし――。


 その肌は赤色。


 オーガだ。


「おい、人間。おまえ、1人か?」

「……ああ」


 オーガの問いかけに、俺は肯定する。


 ただのオーガじゃねぇ……。

 高い知性を持った上位種だ。


「なんだよ、つまんねぇな。せっかくこっちに来たんだから強ぇヤツと戦いたいと思って待ち構えてたのによ」

「……てめぇ、オーガか? ただのオーガじゃねぇよな?」


 ここまで流暢にしゃべるオーガなど、見たことも聞いたこともない。


「俺はオーガじゃねえよ。ただの悪魔さ。おまえらと遊びに来た、な」

「悪魔だと……。悪魔っていうと、アレか……? 異界から呼ばれて、人の命と引き換えに願いを叶えるっていう……」


 悪魔についての噂はたまに聞く。

 黒魔術で呼び出されて、術者の願いを叶えるという存在だ。

 そんなものはただの噂だと笑う奴も多い。

 だが実際に悪魔との取引が噂されるトリスティン王国では、支配の首輪までもが生産されている。

 普通の魔術では作ることのできない呪われた品だ。


 悪魔と名乗った男が岩から降りる。


「さあ、遊んでやるから攻撃してきてみろ。そうすれば少なくとも、町にいる連中と同じくらいには長生きできると思うぜ?」

「それはどういうことだ……?」

「決まってんだろ。町にも遊びに行った奴がいるのさ。あーあ。おまえみたいな雑魚しか来ないなら、俺も町に行けばよかったぜ。こうやって瘴気の中で待ってればよ、最強の連中が来ると思ってたのによ」


 こいつの言葉が真実なら――。


 聖都は今、悪魔の襲撃を受けているのか――。


「てめぇ!」


 俺は戦斧を振りかざし、斬りかかった。


 許せねぇ!


 聖女様が守り続けた聖都を穢すなど!


 絶対に認められねぇ!


 こいつをぶっ殺して、聖都を守りにいかねぇと!


 ――だが。


 俺の想いは、どうにも届きそうになかった。


 俺の戦斧は直撃しても、悪魔と名乗る赤肌の大男に傷一つ与えられない。

 俺は必死に撃った。

 だが、何度攻撃を加えても同じだった。


「あーあ。こんなモンか。つまんね」


 悪魔が落胆する。


 俺は吠え、怒号を上げ、全力の攻撃を続けた。


 だが意味はなかった。


「もういいよ。おまえ」

「ぐはぁぁっ!」


 悪魔がつまらなそうに振るった腕で、俺はみっともなく吹き飛ばされた。


 息が詰まる。

 体が燃えるように熱い。


「クソが……」


 俺は必死に立ち上がった。


 我ながら情けねぇ。


 適当に振るわれた一撃で、早くも満身創痍だ。


 勝ち目は――。


 なさそうだった。


 だが、それでも――。


 聖女様の笑顔を曇らせるくらいなら、死んだ方がマシだ。

 俺はそのために命を賭けると決めている。


 俺は力を振り絞って戦斧を振り上げた。


「あ? 最後の一撃か? ああ、いいよ。それだけ食らってやる。だけど、もう飽きたからそれで最後だぞ」


 俺は祈る。


 俺は願った。


「聖女様――。願わくば――。俺に、もう一度だけ光を――」


 俺はどうしてか。

 この時。


 聖女様の姿と同時に――。


 クウと名乗ったクソガキと一緒に飯を食った――。

 夜の食堂での光景を思い出していた。


 俺はあのクソガキに、柄にもなく自分語りをした。


 ……俺は商人の家の子だったんだがな。

 ……親が悪い奴に騙されて、すべて奪われた上に殺されて……。

 ……俺は奴隷にされちまってな……。

 ……でも我ながらブサイクで、殴る蹴るされて体も壊れてたからよ。

 ……銅貨1枚でも売れずに、処分されるところだったんだ。

 ……それを、ユイ様が救ってくれた。

 ……死にかけていた俺に光の力を使ってくれて。

 ……謝ったんだぞ、俺に。

 ……気づくのが遅くてごめんね、って。

 ……信じられるか?

 ……まだ、小さな幼女だったんだぜ、ユイ様は、その時。


 俺は誓ったのだ。

 ユイ様のために死ぬと。


 俺は全身全霊の力を込めて、斧を振るった。


 そして、叫んだ。


「光の加護をぉぉぉぉ!」


「はーい」


 その声は、頭の上から聞こえた。

 緊張感のない、おっとりとした優しい声だった。


 俺は、その声を知っている。


 知らないはずはなかった。


 俺は光に包まれた。


 力が漲る。


 導かれるままに、俺は戦斧を振るった。


 光が、悪魔を斬り裂く。


「ぐ……。が……。バ、バカな……」


 真っ二つになった悪魔が、塵のように霧散して消えた。


 俺は――。


 勝ったのか……?


 すべての力が抜けていくのを感じる。


 俺は、その場にへたりこんだ。


 そして俺は――。


 ああ……。


 溢れる涙の中で、その光景を見つめた。


 それだけで力が溢れる。


 すべての力が抜けたはずなのに、力が溢れるのだ。


 それは、強敵を倒した時に起こるレベルアップと呼ばれる現象なのか、あるいは純粋に俺の高揚なのか。


 自分でもわけのわからない感覚だった。


 輝く翼をはためかせて、夜の空から聖女様が舞い降りてくる。



聖国メガモウ編、あと何回か続きそうです。

クウの帰宅はその後になりますm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです
[一言] メガモウ「光の加護をぉぉぉぉ!」 ??「はーい。よろこんでー。」 ??「加護注文1つ入りました-。」
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