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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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338 老いた火竜との出会い


 さて。


 1人になって寂しがってばかりはいられない。


 私は気を取り直して、山に行くことにした。


 私だけなら移動は早い。


 銀魔法の『飛行』で空から一直線に向かった。


 町から山まではすぐにも見えていたけど、飛んでみると多少の距離があった。


 飛行の魔法なら、あっという間だけど。


 山の麓に着いた。


 私は低空から、山の斜面に合わせて上に向かっていくことにした。


 山には、たくさんの魔物が生息していた。

 なるほど人間には近づけない場所だ。


 速度を落として、魔物くんたちの様子を見ていく。


 ナオたちと来なくてよかった。


 ワイバーンのような飛行型の魔物も生息していた。


 私が飛んでいると近づいてきて、悲鳴のような声を上げる。

 助けて、と言ってるかのようだ。


 魔物たちに敵反応はない。


 岩陰で身を潜めているコカトリスの群れも同じだった。


 山の中から、まるで地響きのように咆哮が響いた。

 苦しげであり、狂気を感じるような咆哮だった。

 たぶん、赤竜だろう。


 魔物くんたちが、いっそう怯えたように身を震わせる。


「大丈夫だよー。すぐに解決してあげるからねー」


 私は精霊さんとして、みんなに声をかけつつ、山頂に向かって飛んだ。


 山にある敵反応は、たったひとつだけだ。


 山の中――。


 おそらく洞窟があるのだろう。


 入り口はどこだろうなぁ……。


 真っ先に思いつくのは火口だったけど、火口は煙を吐いている。

 入り口があったとしても今は使えない。


 最悪、『透化』して山の中をすり抜けていけばいいんだけど……。

 さすがに長距離のすり抜けは怖い。


 途中で透化が途切れて……。


 いしのなかにいる!


 なんてことになったら泣ける。


 ていうか、死ねる。


 まあ、ゼノが言うには精霊や悪魔は死んでも死なない。

 体から離れて、精霊界なり魔界なりに戻るだけらしい。


 とはいえ――。


 体を失くす経験なんて、したいとは思わない。

 痛そうだし、吐きそうだし。

 私、正気度チェックに失敗しそうだし。


 なので、できれば、洞窟への入り口を見つけて、ちゃんと実体のまま、敵反応のある場所まで行きたかった。


 幸いにも見つけることができた。


 断崖の途中に、わかりやすくぽっかりと空いていた。


 洞窟の中に入る。


 さすがは火竜が住むだけはあって、広い洞窟だった。


 洞窟の中には凶暴そうなコウモリくんがたくさんいたけど、彼らも私に襲いかかってくることはなかった。


 寄っては来られたけど……。


 正直、ほんの少し、気持ち悪くて「うっ」ってなったけど……。

 私、ほんと魔物くんたちとは仲良しだね。

 追い払うこともできず、たくさん触られてしまった。


 ホント、ナオたちと来なくてよかった。


 その後も巨大なサソリや昆虫くんと遭遇しつつ、私は洞窟を進んだ。


 途中から真っ暗になって、白魔法『ライトボール』で周囲を照らしながら進む。


 洞窟は広い。

 しかも、けっこう分岐していた。


 ただ、私がアシス様からもらった個人能力『ユーザーインターフェース』にはマップ機能がついている。

 マップを広げてよく確認しつつ進めば、なんとなかった。


 かなり迷ったけど……。


 噴火口の中腹に出て、白煙の中、煮え立つマグマを見下ろしつつ崖際を進んだ時には本当にひやひやしたものだった。


 ホント、ナオたちと来なくてよかった。


 敵反応のある広い空洞は、噴火口を経由した先にあった。


 床や壁に群生する苔が、青緑の光を幾重にも広げている幻想的な空間だった。


 巨大な赤竜が、そこにはいた。


 黒いモヤに包まれて、身をよじらせている。


 必死に抵抗しているのだろうか――。


 苦しそうだった。


 私はすぐに白魔法をかけた。


 全部、一式。


 その後で念の為、いつもの古代魔法「エンシェント・ホーリーヒール」をかけた。


 黒いモヤは綺麗に取ることができた。


 外傷も癒えた。


 ただ、心はどうだろうか……。


 私はドキドキしつつ、巨大な赤い竜に話しかけた。


「ねえ、私の声、聞こえる?」


 長く生きた竜であれば人間の言葉もわかるだろう。

 私は反応を持った。


 赤竜が、ゆっくりと目を開ける。


 そして、私を見た。


「……貴女は。……貴女様は。……ヒトであるはずはない。……一体」

「ただの精霊だよー」

「精霊……様……。我を――お救いに――?」

「うん。邪悪な力に苛まれていたけど、一体、どうしたの? 何があったの?」


 私がたずねると、赤竜は苦しげに表情を歪めて――。

 しばらくしてから答えた。


「申し訳ありませぬ……。わからぬのです……。我は見ての通りの老体故、すでに自由に飛び回ることもままならず……。ほとんどの時間を寝て過ごしていました……。気づけば悪夢の中にあり……。心と体に入り込んでくる『魔』に……取り込まれてはならぬと……必死に抗っていたのです……」

「なるほど……。とにかく、間に合ってよかったです」

「ありがとうございます、精霊様……。しかし……」

「どうしたの?」


 たずねたところで、空間が揺れた。


「地震かな?」


 私は首を傾げた。

 小さな揺れでしかなかったので驚きはしなかったけど。


「いえ、これは……。この山の噴火の予兆かと。我が悪夢に囚われたことで、我の魔力が山を刺激したのでしょう……」

「それ、大変ですね……」


 山に住む魔物くんたちも灰かぶりの町も、ただでは済まない。


「あ、そうだ。私、クウ。精霊のクウ・マイヤ。そちらは?」

「これは失礼を。我は赤竜のバデアと申します。長くを生き、今はこの地で死を待つばかりの老体です」


 確かに私の目から見ても、バデアさんはすでに老竜だ。

 瞳にも鱗体にも長い歳月の積み重ねを感じる。


「じゃあ、バデアさん。噴火って、どうすれば止められますか?」

「正直、難しいかと……。噴火は、あまりにも巨大な力です……。我が全力を出したところでどうにも……」

「そかー」

「精霊様ではいかがでしょうか?」

「うーん。私でも難しいかなぁ」


 すぐに思いつく案はなかった。


 山ごと吹き飛ばす?

 山ごと氷漬け?


 それだと、魔物くんたちはどうなるのか。


 そもそも氷漬けなんて無理か。

 いくらなんでも、山ごとというのは面積が大きすぎる。

 第一、永久には無理だ。

 気合を入れて凍らせても、夏の陽射しを浴びてやがて溶けるだろう。


 山を吹き飛ばしたとしても、マグマは地下から噴出するだろうし。


「精霊様のおかげで、我はすっかり体調を取り戻しました。老骨なれど、しばらくならば抑えることができると思います。どうかその間に、山に住む獣と里に住む人を逃してはくれませんでしょうか」

「……しばらくっていうと、どれくらいになりますか?」

「申し訳有りません、具体的には……」


 ともかく、猶予はあるか。


 しかし、こうなると、ユイを転移魔法で飛ばしてしまったのが悔やまれる。

 ユイがいれば、人々の説得は簡単だ。


 ユイを連れ戻そうか……。


 そうも思ったけど、できるだけそれは避けたい。


 せっかくユイは聖国に戻ったのだ。

 ユイにはユイの道を、頑張って歩いてほしい。

 そもそもここは帝国だ。

 聖女様の威光ばかりが増すのは、正直、よいことではない気がする。

 ……今更ではあるけど。


 誰かに頼むなら、相手は陛下だろう。

 陛下の名前で避難命令を出してもらう方が適切だと思える。


 ともかく、私だと説得は難しい。


 一応は私、精霊さんだけど、


 話は聞かせてもらった! この山は噴火する!


 と叫んだところで……。


 な、なんだってー!?


 くらいは、言ってくれそうな気もするけど……。


 じゃあ、即座に避難してくれるかと言えば、してくれないだろう。


 というかそれ以前に、魔物くんたちをどこに逃せばいいのか。

 このままだと山から溢れて町に行きそうな気もする。

 そうなれば大惨事だ。


 魔物も人間もみんな仲良く避難なんて無理だろうし。


 困った。


「我は、我の名を冠したこのバデア山の主として晩節を汚したくないのです。どうかよろしくお頼み申し上げたい」


 バデアさんが、地面にこすりつけるように頭を下げてくる。


「わかりました! わかりましたから! 頭は上げてください! そもそもなんとかするつもりでここに来たんですから、私!」




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― 新着の感想 ―
[一言] >話は聞かせてもらった! この山は噴火する! お笑い芸をやって沈静化でもさせるのかな? クウ「お笑い大会はじめまーす!」 火山「( ˙-˙ )スン・・・」
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