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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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336 灰かぶりの町





 きっとここだろうなーという場所は、意外と簡単に見つかった。

 場所は帝国の西部。

 その山は、なだらかに続く緑の平野の向こうにあった。

 もくもくと灰色の煙を吐く山だ。

 いかにも火竜が住んでいそうな火の気配を感じる。

 近づくと、今にも噴火しそうな山なのに近接する平野には町が広がっていた。

 土壌がいいのだろうか。

 空から見下ろす町は灰色だ。

 屋根という屋根が灰をかぶってしまっている。


 敵感知を広げてみた。

 山の中に大きな反応がある。

 うん。

 間違いなさそうだ。


「ガラスの靴が落ちていそうな町」


 ユイに脇の下で抱きかかえられたナオが、ぶらーんとしながら言った。

 上空で人に見られる心配もないので透明化は解いている。


「その心は?」


 パッと思いつかなかったので、私はたずねた。


「灰かぶり」


 と、ナオが言う。


「あ、私、わかったよ! シンデレラだね!」

「あー」


 ユイに言われて私も理解した。

 シンデレラって、和名では灰かぶりって言うんだよね、たしか。


「じゃあ、次のクエストは、あの町でガラスの靴探しだねっ!」


 ユイはあくまでお気楽だ。


「今度こそ普通の冒険」

「頑張って探そう」

「おー」

「いやナオ、そこは同意するところじゃないからね?」


 思わず私は突っ込んだ。

 靴を探してどうするの。


「わかっている。冗談。あのもくもく山に火竜がいるっぽい?」

「うん。たぶん」


 いかにもだよね。

 敵反応もあるし。


「じゃあ、まずは聞き込みだね! 町の人に何がどうなっているのか聞いてみよ。その後で必要があれば山だね」

「いえす」


 私的にはまっすぐ火竜に会いに行ってもよかったけど……。

 まずはユイとナオに任せようか。

 2人とも、ちゃんと聞き込みをする気みたいだし。


 というわけで。


 姿を消して、空から灰かぶりの町に降りた。

 物陰で透明化の魔法を解いて、広場に出る。


 広場には人が集まっていた。


 台の上に立った神官らしき男の人が何やら叫んでいる。


「火の精霊様はお怒りなのです!

 我らが祈りを欠かしたばかりに!

 我らが感謝を忘れたばかりに!

 それ故にバデアの山は火を吹き――。

 今まさに、火の精霊様の眷属である眠れる赤き竜が目覚め――。

 我らに災いをもたらそうとしているのです!

 このままではおしまいです!

 この町は、火の精霊様の怒りに触れるのです!

 しかし!

 まだすべてが手遅れではありません!

 我々には希望があるのです!

 皆さん、どうぞこれを御覧ください!」


 神官が白い石を高々と掲げる。


「この石こそ!

 かの聖国の名高き聖女、ユイリア様が祈りを込めた聖なる石!

 この石があれば!

 我々の祈りは届くのです!

 さあ、皆さん!

 この聖なる石を、しっかりと両手で握りしめて――。

 火の精霊様に祈りを捧げるのです!

 許しを請うのです!

 この聖なる石さえあれば、許されることができます!

 貴方は許されるのです!

 今ならば、まだ聖なる石の在庫はあります! 

 今ならば、たったの銀貨1枚で貴方は許されるのです!

 皆さん、共に許されましょう!

 今を逃せば、次の機会はありませんよ!」


 うわぁ。

 神官が怪しい商売しちゃってるねえ……。


 ちゃんと販売ブースもあるし。

 販売員たちが、臨戦態勢でお客さんを待ち構えている。


「うおおおおお! 俺は買う! 俺は買って、許されるぞおぉぉ!」

「俺もだ! 俺にもくれ! 俺のばあちゃんも昔、聖なる石で許されたって言ってたからこの話は本当のことだ!」

「俺も!」

「俺も!」


 4人の男の人が大きな声をあげてブースに駆け寄る。

 そして聖なる石を買うと、


「やったぞおおお! 俺は救われる! いや、もう救われた気さえするぞおお!」


 聖なる石を掲げて、全身で喜びを現す。


 それを見ていた聴衆は購買意欲を掻き立てられたようで、何人かが迷いつつもブースへと近づいていく。


「さあ! 聖なる石には限りがあります! なくなればおしまいです! 今だけの機会なのですよ、皆さん!」


 神官がそう声を上げると、迷っていた聴衆が一気に動いた。


 大勢が銀貨を出して石を買い求める。


 ひとつ、銀貨1枚。


 約1万円だ……。



 しかし、聖なる石って……。

 私にはわかる。

 あれは、なんの魔力もない、ただの石だ。

 間違いない。


 でも石は、意外に正規品だったりするのだろうか。

 私には詐欺の匂いしかしないけど。

 最初に買った男たちなんて、明らかにサクラだし。

 ユイが祈りを捧げたのは本当なんだろうか。

 私にはわからないだけで、なにか神聖な力が宿っているのだろうか。

 聖女様なら今、私のとなりにいるけど。


 あと火の精霊は怒っているのだろうか。

 リトからもゼノからも、火の精霊の話は出たことがないけど。


 私はユイとリトに聞いてみようとした。

 のだけど――。


 横を見るとそこにユイの姿はなかった。

 ユイの肩に乗っていたフェレットなリトも当然のようにいない。


 ナオだけがぽつんと立っている。


 あれ。


 ユイはどこいった?


 私が首を回すと、ナオが無言で指をさす。


 どうやらそちらにいるようだ。


 ナオが示すのは、ブースに押し寄せる人々を満足げに見つめる神官だった。


 私は姿を消して、そちらに行ってみた。


 しばらくすると客を掻き分けて、ローブ姿のユイが神官の前に立つ。


「どうしたのかな、お嬢さん。残念だけど、聖なる石は貴重品だからね。お願いされてもタダではあげられないよ?」

「……ひとつ、聞いてもいいですか?」


 うわ。

 低い声のトーンだけでわかる。

 ユイは怒っている。

 どうやら聖女が祈りを込めたというのは嘘のようだ。


「なんだい?」

「……私、考えるまでもなく、石に祈りを込めた記憶はないのですが、その石はどこの誰が祈りを込めたのですか?」

「はははっ! お嬢さんの祈りは、そりゃ込めていないさ。この石には聖女ユイリア様の祈りが込められているんだ」

「嘘ですよね、それ」

「何を言っているんだい? 私を見たまえ。神官だぞ? 嘘をつくものか」

「私には魔力が見えるんです。神官であれば魔力を持っているはずです。貴方にはないようですが? それに、その石にも」


 ユイがフードの下からそう言うと、神官が舌打ちした。


「チッ。おい、このガキを連れてけ。仕事の邪魔だ」

「へい。ほらこっちに来い」


 最初に石を買った男がユイの腕を掴もうとする。

 まあ、うん。

 つるんでるよね、やっぱり。

 詐欺グループのようだ。


 次の瞬間、光が弾けた。


 ぎゃーっと悲鳴をあげて男がその場に倒れる。


 突然の閃光と悲鳴に驚いて、あたりが静まり返る。


 ユイがフードを取る。


「もう一度、言いますけど――。

 私は、これらの石に祈りなんて込めた記憶はありませんが?」


 ユイのまわりには、いくつかの光の玉が巡る。

 攻撃に対して自動的に反応する防御系の魔法のようだ。

 リトが発生させたのだろう。


「ひっ……」


 ユイに見つめられて、男がよろめいて倒れる。


「せ、せ……。せいじょ……さま……?」


 どうやらユイの顔は知っているようだ。


「ええ。本人ですが?」


 ユイー。

 光のオーラの制御を忘れてるよー。

 その状態で怒ると、本気で威圧感すごすぎて大変だよー。


「ひぃぃぃぃぃ!

 おおおお、お許しおぉぉぉ!

 ほんの出来心だったんですぅぅぅぅ!」


 男が土下座して謝る。


 なんだ、どうしたんだと、まわりの人たちが騒ぎ始める。

 ユイが男の詐欺を教える。

 石はただの石で、祈りなんて込められていないと。


 聴衆たちが怒る。


 怒ったところで目の前に本物の聖女様がいることに気づいていく。

 ああ……。

 結局、みんな跪いてしまった。

 もはやここまで。

 私はいそいそとソウルスロットに黒魔法をセット。


「スリープクラウド」


 私は、一人残らず眠らせた。


 はい。


 聴衆を詐欺から救ったのは立派だけど――。

 まあ、今回の場合は……。

 さすがに自分の名前で詐欺が行われていては、ユイとしては見てみぬふりなんてできないだろうし。

 しょうがないところだけど……。


 残念ながら……。


 普通の冒険者ではないよね。

 聖女様の世直し旅としてなら合格だけど。


 これはもうアレだね。


 宿命だね。


 ユイは、こういう星の下に生まれついたのだ。


 なんだかあきらめの気持ちでそう思いつつ、私はユイとリトを肩に担いだ。

 2人とも寝ている。


 さて。


 撤収しよう。


 みなさんには申し訳ないけど、幻だったと思ってもらおう。


 私はナオのところに戻る。


 ナオは離れた場所で様子を見ていたので魔法の範囲外だ。


「ナオ、行こっか」


 ナオの手を取って、透明化の魔法をかける。

 私たちは広場から離れた。


「クウ、次は私がやる。食堂か冒険者ギルドで情報を集める」

「基本に忠実だね」

「いえす。コツコツと進めていくのが攻略の基本」

「なら任せるよ」


 というわけで、次はナオのターン。


 ナオは、忍者としてなら完璧なムーブを見せたわけだけど……。

 果たして普通の冒険者――。

 リベンジなるか。

 今度こそ、期待したいところだ。



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― 新着の感想 ―
[一言] 聖なる石...ガチャ回れそうなアイテムですね。何が出るかな。
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