33 セラとの再会
願いの泉に帰ってきた。
「よっと」
石畳の上に降りる。
バスティール帝国の帝都ファナス、その中枢である大宮殿の奥庭園。
よく手入れされた静かで美しい場所だ。
「……セラは、いないか」
まわりには誰もいなかった。
まあ、仕方がない。
何しろ約束よりも随分と遅くなったし、まだ朝だ。
ベンチに腰掛けた。
寝転ぶ。
朝なのに、寝転ぶと眠くなった。
木漏れ日が心地よい。
ああ、意識が溶けるねえ……。
…………。
……
「――クウちゃん。――クウちゃん」
ん。
呼びかけられて目を開けると、身だしなみの整った金髪碧眼の美少女がいた。
「おはよ、セラ」
アクビをしつつ身を起こす。
「おはようございます。やっと帰ってきたんですねっ! 10日を過ぎても帰ってこないから心配していたんですよ?」
「ごめんね、ちょっと頑張りすぎちゃった。ただいま」
「おかえりなさいっ!」
セラのうしろにはシルエラさんもいる。
「シルエラさんもお久しぶりです」
笑いかけると、ぺこりとおじぎされた。
「それでクウちゃん、石集めはうまくいったのですか?」
「うん。バッチリ」
勝利のブイ。
「おめでとうございますっ! これでお店が開けますねっ!」
「ありがとう。それで私、どうすればいいんだろ」
「お父さまに連絡は行くと思いますので、まずはわたくしの部屋に行きましょう」
「じゃあ、遠慮なくおじゃまさせてもらおっかな」
「どうぞどうぞっ!」
えっと。これは。
押すの?
押せばいいのかな……?
とりあえずセラの背中を押して歩いた。
「あの、クウちゃん……?」
「はい?」
「この歩き方だとおしゃべりがしにくいのですけれども……」
「そ、そうだね。あはは」
なにをやっているのだろう私は。
笑ってごまかしてセラのとなりに並んだ。
「実は、クウちゃんの旅先での活躍はいろいろ聞いているんですよ」
「そうなんだー」
「それで実は、謝らなきゃいけないことがあって」
「セラが?」
「はい」
なんだろ。
私が首を傾げると、セラが申し訳無さそうに言った。
「実は、クウちゃんの活躍が、わたくしの活躍みたいに噂されているようなんです」
「というと?」
セラが言いにくそうにしていると、シルエラさんが代わりに教えてくれる。
「皇女殿下の世直し旅――と世間ではもっぱらの噂です」
どこの時代劇っ!?
あやうく突っ込みかけた。
いかんさっきから前世の記憶に引っ張られている。
「――好き放題していた男爵の息子を姫様が正義の剣で成敗なされた、と」
「あー。あれか」
オダンさんとエミリーちゃんのいた町。
ネミエの町だったかな。
フロイトとかいう貴族のボンボンと喧嘩したね。
「ダンジョン町では、無謀に挑んで死にかけた若者を光の魔術で助けると共に諭し、体だけでなく心をも救った、と」
「あー。あったあった」
心まで救ったかは知らないけど、護衛クエストで苦労させられた彼だね。
名前はなんだっけ。
頑張り屋のオリビアさんが妹ってことは覚えてるけど。
「城郭都市アーレでは拉致された少女を救い、悪党どもを蹴散らしたと」
「それは心当たりが……。あるような? ないような?」
話が湾曲しているけどアンジェのことだろう。
元気でやってるかなぁ。
たぶん元気だろうけど。
「さらにコンテストに出場し、見事な剣舞で観客を魅了したと」
…………。
えと。
「……そ、それだけかな? コンテストの噂は?」
「はい。それだけでございます」
「ホントに?」
「本当でございます」
た、助かったぁぁぁぁ!
あのアレなアレは、広まっていないのか!
まあ、そうか。
皇女様になっているなら、不敬罪で処罰されて当然になるからね……。
「ありがとう、セラ!」
「え。な、なんですか!? わたくし、謝るほうですけれども……」
「そんなことはないよっ! 私は助かったようです!」
本当によかった。
泣ける。
「それにしても、私こそごめんね。迷惑かけちゃったみたいで」
「いえ、わたくしのほうは特に。よい噂ばかりですし。むしろクウちゃんの活躍が聞けて誇らしいです」
大宮殿についた。
そのままセラの部屋に行く。
あれこれしゃべっていると執事の男性が迎えに来た。
「クウちゃん様、応接室で陛下がお待ちです。ご案内いたします」
「わかりました」
恭しくクウちゃん様と言われると、どうにも突っ込みたくなるけど我慢だ。
「わたくしは?」
「セラフィーヌ様はお部屋で待つようにとのことです」
「そんなー」
「セラ、ちょっと行ってくるよ。待っててね」
「……わかりました」
案内されて廊下を歩き、階段を上って執務室に入る。
「来たか、まあ座れ」
陛下はすでに部屋にいて、鷹揚な態度で椅子に座っていた。
テーブルを挟んで対面に座る。
「朝から騒がしくして申し訳有りません」
「気にするな。執務は始めていた」
「それで、あの……」
「家は準備してあるぞ。案内役をつけるから後で見てくるといい。ついでに商業ギルドで登録もしてこい。こちらも手配済みだ」
「ありがとうございます」
「君は大活躍だったそうだな。話は聞いているぞ」
頭を下げると、ニヤリとして言われた。
「いやあ、それほどでも」
照れる。
「例の男爵の子息は、3年の間、騎士団に強制所属となった。心身ともに叩き直されることになろう」
「それって罪としては重いんですか?」
「軽くはなかろう? まさか投獄するわけにはいかぬ。これで許せ。領主にも住民の安全は保証させたから安心しろ」
「ありがとうございます。……わざわざ処理してくれたんですよね?」
「当然だ。あのまま放置するわけにはいくまい」
陛下に尻拭いをさせてしまった。
申し訳ない。
「あの時にいた覆面の人って、陛下の部下なんですか?」
「ああ。帝国でも五指に入る凄腕の密偵だ」
「やっぱり! すごかったですよ、あの人。いつの間にか横にいたし」
まさに忍者だった。
「その凄腕を以ってしても、君の足取りは追いきれなかったがな」
「あはは」
そもそも足取りを追うなー。
とは、言えない状況なのが悲しい。
正直、助かったし。
「それにしても、青く輝く聖剣の一撃で、相手の剣と服を粉微塵に切り刻んだそうじゃないか。クウちゃん君には剣の心得もあるのかな」
「ショートソード系は得意ですよ」
「あの剣はどういうものなのかな? 凄腕も驚いていたが」
「精霊専用の神話武器です」
見られていたなら言うしかない。
ごまかしはするけど、嘘はできるだけつかないのが私のポリシーだ。
「神話武器? 聞いたことがないな……」
「抜いていいならお見せしましょうか?」
「構わん。見せてくれ」
「いいのかな……?」
部屋には何人もの執事の人や護衛の騎士がいる。
そちらの人たちの顔色を窺う。
「えっと、立ち上がりますよ? ダメなら言ってくださいね?」
特には反応がなかったので、装備することにした。
立ち上がって、鞘から剣を抜く。
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