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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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322/1362

322 深夜の防衛戦(ギルガ視線)

 禁区調査の責任者として、この俺、ギルガ・グレイドールには、撤退か防衛かを決める権利がある。

 とはいえ、よほどのことでなければ撤退は許されない。

 何故なら土魔術師によって作られた岩壁は、無敵の盾ではないからだ。

 巨大な魔物が突撃を繰り返せば破壊される。

 一部の魔物は、岩壁にへばりついて乗り越えてくる。


 ワイバーンを始めとした飛行型の魔物であれば、壁など無視して、獲物を求めて町へと飛んでいくだろう。

 それだけでも大惨事となる。


 ただ、幸いにも魔物は目の前の獲物に過剰な反応を見せる。


 俺達が防衛している限り、連中は俺達に襲いかかる。

 俺達を無視して、外に出ていくことはない。


 すでに伝令は出した。

 大発生となれば、軍が動く。


 俺達は冒険者の集団だ。

 国を守るために命を賭ける筋合いがあるかないかで言えば――。

 ない。

 だが、大量の魔石を集めて、大金を得る機会ではある。

 俺個人には帝国への忠誠心もある。

 冒険者達を鼓舞して、できるだけここで粘りたいところだった。


 幸いにも、瘴気から出てきた魔物の群れは、すぐには突撃して来なかった。

 こちらの様子を窺いつつ、じわりじわりと近づいている。

 一気に来られたら、正直、危なかった。

 だが今は、ほぼ準備は整った。


 俺は岩壁の上で指揮を取る。


 魔術師と弓を構えた者が、攻撃態勢を取って岩壁の上に身を潜める。

 下には近接武器を構えた冒険者達。


「いいか、まだ弓も撃つなよ。撃つのは魔術の射程に入ってからだ」


 俺は冷静に攻撃のタイミングを窺う。

 攻撃すれば、魔物は反応して怒涛のごとく攻め寄せてくる。


 幸いにも攻撃型の魔術師は10人もいる。

 属性は、風が3人、火が7人。

 弓を構えた者は40人。


 50人で、最大ダメージの先制攻撃を行うのだ。


 最前列にいるゴブリンとウルフの群れが、じわじわと距離を詰めてくる。

 だが、狙うのはそいつらではない。

 その奥にいる4体のオーガだ。

 オーガは身の丈が3メートル近くもあって、腕力も凄まじい。

 鈍重なので敵としては中程度の脅威だが、接近を許せば力任せに振るってくる大鎚で岩壁を壊されてしまう。


 そしてついに――。


 攻撃魔術の射程距離に入った。


「今だ! 撃て!」


 俺達の先制で戦いが始まる。


 放たれた矢と魔術が、ゴブリンやウルフを越えてオーガに直撃する。

 矢は、ほとんどがオーガの硬い皮膚に弾かれた。

 魔術は効いた。

 火の玉や風の刃を受けて、オーガ達がよろめく。


 興奮状態に入った魔物達が咆哮を上げる。


「弓はゴブリンに狙いを変えろ! 魔術師はもう一度、オーガに攻撃だ!」 


 次の魔術攻撃の直撃を受けて、1体のオーガが地面に倒れた。

 残りは3体だ。

 ついに緊張の糸は切れた。

 いや、切ったのだ。


「よし! もういい! 後は打って出るぞ!」


 俺は地面に駆け下りた。


 立てこもりはしない。

 続けて死霊の大群がやってくる可能性が高いのだ。

 時間はかけられなかったし、ここで岩壁を壊されるわけにはいかなかった。


「オーガは傷ついた! もはや勝ったも同然だ!」


「「「「おおお!」」」」


 俺が戦鎚を振り上げると、冒険者達が勇ましく大声を上げて応える。

 戦意は上等だ。


 岩壁にいた連中が、弓を近接武器に持ち替え、魔術師達はギルドが支給したマジックポーションを飲みつつ、仲間に合流する。

 正直、魔術師達は後方で待機させたいところだったが――。

 冒険者は兵士ではない。

 あくまで個人であり、パーティー単位で動くことを基本とした自営業者だ。


 2名しかいない貴重な水魔術師も、後方には待機せず、仲間達と共に動く。


 ボンバーズにいる、ここでは1名だけの土魔術師も同様だ。

 戦術的に考えれば、土魔術師こそ待機させて、全体の支援活動や崩された岩壁の修復を行わせたかったが――。


 もちろん、今回のような危機の時には力を合わせて戦うし、ある程度の全体指示には従う義務があるが――。

 あくまでパーティー単位で、だ。


 なので、土と水の魔術師は全体のために使うから後方に置く、あとの連中は回復支援なしで勝手に戦ってこい――。

 などと言うことはできない。

 そんなことを言われたら、俺でも確実に激怒する。

 何故なら、そのせいで仲間が死傷したとしても保障は何もないからだ。


 過去のギルドマスターには、戦術を優先させて、強制的にパーティーを分割して兵士のように扱った者もいた。

 上手く行った時はよかった。

 だが失敗した時には――。

 仲間を失い、仲間が再起不能の大怪我を負い――。

 パーティーが壊滅したというのに――。

 何の保障も受け取れず――。

 微々たる参加費だけをギルドから渡されて、冒険者は自己責任と突き放される生き残りの姿があった。

 そのことは国をも巻き込んだ大論争となった。

 緊急時には冒険者を兵士として徴集可能にし、代わりに保障を与える案も出たが、それは冒険者達からの反発で消えた。

 代わりに、8人を上限としたパーティー単位での行動が冒険者の権利として認められるようになった。


 今回は、先制攻撃に協力してくれただけ、良しとするべきだろう。


 門が開いた。


「Cランクの2パーティーは俺と一緒にオーガに突貫するぞ! 他の連中はゴブリンとウルフを蹴散らせ!」


 元Aランクとして俺が先陣を切る。

 すでに引退した身だ。

 体力に不安はあったが、他に任せられる奴はいない。


 戦闘が始まる。


 俺はゴブリンを蹴散らして全力で駆け、オーガの膝に戦鎚を振るった。

 直撃する。

 痛みでオーガが吠えるが、転倒させるには至らなかった。

 俺の頭上に大鎚が振り下ろされる。

 バックステップで逃げるが、わずかに遅れた。

 兜をかすめて、ほんの数センチ前を大鎚が一瞬の速さで通り過ぎる。

 凄まじい音を立てて、大鎚が地面を打つ。


 正直、冷や汗を掻いた。


 危ないところだった。


 威勢よく飛び出して即座に殺されては士気が崩壊する。


 やれる勝てると皆に確信させるためにも、最初の一匹は手早く倒して、仕留めたことを大声で宣言したかった。


 オーガが大鎚を再び上段に構えようとする。

 連中は攻撃一辺倒だ。

 とはいえ、膝に損傷は与えた。

 構えたところで、オーガの巨体がわずかにバランスを崩して揺らいだ。


 ここだ!


 もう一度、渾身の力を込めてオーガの膝を強打する。

 確かに手応えを感じた。


 膝を崩されたオーガが横に倒れる。


 俺は容赦なく、オーガの頭に戦鎚を振り下ろした。

 叩き潰す。


 倒したオーガの姿が消えて、地面には魔石だけが残る。

 魔石を手に取って、俺は夜空に掲げた。


「オーガの一匹目、仕留めたぞ! こいつらは大した敵じゃねえ! ただ数が多いだけの雑魚だ! さっさとおわらせるぞ!」


「「「「「おおおおお!」」」」」


 よし、冒険者に更に勢いを与えることはできた。


 実のところ、今の攻防だけで俺の息はそれなりに上がっていた。

 歳は取りたくないものだ。


 呼吸を整えつつ周囲の様子を見る。


 残る2体のオーガは、それぞれCランクのパーティーが取り囲んでいる。


 1パーティーは、大盾を構えた重戦士が前面でオーガの攻撃を受け止め、左右から攻撃役の面々が斬り込んでいく。

 合わせて、背後に回り込んだ軽戦士が急所に一突きする機会を窺う。

 水魔術師は周囲の状況を見つつ、仲間が負傷した時には即座に回復魔術をかける。

 基本に忠実な戦い方だ。

 さすがはCランクだけあり連携も取れている。


 もう1パーティーの方は完全に力任せだ。

 何しろ全員が戦斧を武器に持ち、鉄鎧を身に着けた重戦士だ。

 役割の分担はない。

 ポーションを飲みつつ全員で攻撃を繰り返すのだ。

 危なっかしいことこの上ないが――。

 連中『斧の嵐』はマーレ古墳の地下に出現するネームドモンスター「タイタス」の討伐実績を持つ実力派だ。

 上位ダンジョンの踏破実績がないのでCランクのままだが――。

 実力的にはBランクに匹敵すると言われている。

 見ていると危なっかしいが、ここは信じて任せるとしよう。


 岩壁の手前では、ボンバーやタタを含めたDランク以下の冒険者達とゴブリンとウルフが乱戦を繰り広げていた。


「ふぉぉぉ! 爆発大旋風! 弱い! 弱すぎます! 本当に雑魚ばかりですね! この私の愛の剣の前に、すべて消え去りなさい!」


 ボンバーの高笑いにも似た大きな声が耳に届いた。

 完全に調子に乗ってやがる。


 あの野郎!


 油断してると死ぬぞ!




ブクマ、評価、いいね、誤字脱字報告、ありがとうございます!\(^o^)/

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