32 竜の里に滞在
2人をぎゅっと抱きしめる。
その上で魔法を発動。
「転移、竜の里ティル・デナ、大広間」
視界が暗転。
ローディングのような時間を挟んで、私は転移陣の描かれた小部屋に降り立つ。
「こ、これは……。何であるか」
「ついた」
フラウとナオも一緒に来ていた。
「よし、成功」
素晴らしい。
転移の魔法は便利に使っていけそうだ。
「クウちゃんよ、ここは我等の家であるか?」
「うん」
「で、あるな……」
「この魔法でいつでも来れるようになったんだけど、使ってもいい?」
「毎日来てくれてよいのである。いっそ住んでくれてもよいのである」
「ありがとう。有り難いけど、それはやめておくよ。私、帝都で工房を開くし」
そのために鉱石を集めに来たのだ。
「あ、でも、何日か滞在させてもらってもいいかな?」
「何日でも何年でも構わぬのである。今夜も宴会をするのである。みんなとも交流を深めてあげてほしいのである」
「うん。楽しみ」
「クウ、フラウ、連れて行ってくれてありがとう。私は仕事があるのでこれで」
くるりと身を返して、ナオが広間のほうに歩いていく。
「頑張ってね。また夜に」
「クウちゃんはこれからどうするのであるか?」
「私も仕事に行くよ。鉱石集め」
「で、あるか。それでは妾ともまた夜にであるな」
「うん」
「これ、カメ! 待つのである!
また掃除で1日を潰すつもりであるか!?
もっと有意義なことをするのである!」
フラウがナオを追いかけていった。
「よし、私もがんばるかー!」
私は外に出る。
ソウルスロットに採掘と敵感知と銀魔法を入れて、ゴー。
気合で夕方まで採掘した。
おかげでミスリル鉱石が20個までたまった。
なんと熟練度は80まで上がった。
ただそれ以上は、とんがり山の周囲ではもう上がらないようだった。
80あれば十分だけど、カンストを目指すのならば、さらなる秘境の採掘ポイントを探す必要があるようだ。
夜は宴会。
竜の人たちとおしゃべりして、まだ人の姿になれない子供の竜くんたちと遊んだ。
ナオは今夜も宴会には出てこなかった。
どこにいるのかとフラウに聞いてみたら外に出ていったという。
少し席を外させてもらって私はエントランスに飛んだ。
外に出てみる。
星と月に照らされる岩の大地に、甲羅アーマー姿のナオがいた。
力なく立ち、1人で、じっとしていた。
私は宴会に戻る。
声はかけられなかった。
宴会の後は、お風呂に連れて行ってもらった。
なんとダンジョンなのにお風呂がある。
すごい世界だ。
お風呂は、シンプルだけど普通に銭湯で、心地よかった。
ナオとはお風呂で合流した。
「やあ」
と笑顔で声をかけると、「やあ」と無表情に返事が来た。
いつも通りのナオだった。
その後は部屋に戻って、フラウと一緒に寝た。
次の日は、また朝から採掘。
グリフォンくんやオオトカゲくんや巨大狼くんたちと再会しつつ、あちこちに飛んで鉱石を掘りまくった。
樹海に入って、樹木もたくさん斬った。
木材集めは魔法でやってしまったので熟練度は上がらなかったけど。
そんなこんなで何日かを、竜の里とその周辺で過ごした。
正確な日数は不明。
4日までは数えたけど、それ以降は「あれ、今日で何日目だっけ。まあいいか」ということで数えるのを止めた。
なので、何日か。
少なくとも7日は余裕で超えていると思うけど。
雨の日には鉱石をインゴットに変えた。
竜の人たちが私の生成を見たいというので、大広間で作業をした。
武具やアクセサリーの試作もした。
見せている内、竜の人が自分のものも作ってほしいというので、素材持参ということで作ってあげた。
これがウケた。
あっという間に行列ができた。
お礼にもらった素材が山みたいに積み上がった。
フラウになんて、30個は作った。
まだ人化できない竜の子供たちには首飾りをプレゼントした。
喜んでくれた。
ナオにもプレゼントしたかったけど……。
ナオは受け取ってくれなかった。
ナオには一度、強引なことをして怒られているので、強引にアイテムを渡すのはやめておいた。
あと作っていく内に理解できたのだけど、生成はイメージすることによって完成品に変化をつけることができた。
模様を描いたり、肩にスパイクをつけたり。
大きさも自由自在だった。
ゲームより便利な技能になっている。
アシス様に感謝。
と、いうことで。
結果、多種多様な素材が私のアイテム欄には入った。
もちろん鉱石もたっぷりだ。
試作品もあれこれ。
しばらくは余裕でやっていけそうだ。
そんなこんなで。
とんがり山で鉱石を集めよう作戦は完了した。
いよいよ帝都に帰る時だ。
約束の10日は確実に過ぎている。
セラには謝らないといけない。
というか『帰還』と『転移』の魔法が揃ったんだから、いつでも戻ってまたここに来れたね、と最後日の夕方に気づいた。
フラウに帰る旨を伝えると今夜だけはと引き止められた。
元々そのつもりだったけど、明日の朝に出立することになった。
とはいっても、竜の里には、また遠からず来ると思うけど。
だってナオのことが心配だ。
放置はできない。
最後の宴会には、ナオにも参加してもらった。
一度もいないのはさすがに寂しい。
嫌だっていうなら魔法で眠らせてでも連れて行くからねっ!
ってお願いしたら、あきらめて了承してくれた。
よかった。
嬉しい。
甲羅アーマーも脱いでくれた。
竜の人たちとは、もう何日も宴会をしているので、すっかり仲良くなった。
私のギャグの中ではスルメ焼きがウケた。
寝転んだ状態で、焼けまーす。
じゅじゅ……。
じゅじゅ……。
こう、ゆっくりと丸まっていくだけの芸なんだけども。
なぜか爆笑だった。
ナオには心の底から白けた目で見られたけども。
うん。
前世が懐かしい。
そんな風に見られていたよね。
「クウは変わらない」
「こっちに来てまだ一ヶ月も経っていないしね」
「私は11年が過ぎた」
「うん。長いね」
ナオとは、あまり会話をしなかった。
話したいことはいくらでもあるはずだったのに。
最後の夜は、フラウが気を利かせてくれてナオと一緒に寝たけど。
特に会話はなかった。
翌朝。
「じゃあ、帰るね。何日もありがとう」
「いつでも来るとよいのである」
フラウだけでなく、他の竜の人たちからもお別れの言葉をもらった。
「本当に、またすぐに来ると思うけど……」
そう。
転移の魔法でいつでも来れるのだ。
お別れといってもお別れではない。
「クウ」
ナオも見送りに来てくれていた。
いつものように甲羅アーマーを身に着けている。
「ナオ……。一緒に行く?」
「行かない」
「なにかあったらすぐに相談してね?」
「心配無用」
「本当に大丈夫?」
「当然」
「毎日来るからね?」
「来なくていい」
「なんでっ!?」
「さすがに邪魔」
「ひどっ!」
「月に一度くらいで十分」
「う……」
「本当にたまにでいい。私はカメ。ずっと変わらない」
心配すぎるけど、ナオはいつも通りだ。
「……じゃあ、またね?」
「また」
気を取り直して、私とナオと握手した。
「みんなも、またね!」
最後に大きく手を振って、私は『帰還』の魔法を発動した。




