319 景気づけ
さあ、ユイとナオを連れて、禁区に出発だ。
エリカとフラウを先頭に、竜の人たちに見送られて、転移。
いつものようにマーレ古墳に出て、そこから銀魔法でダンジョンの外に出る。
出入り口の衛兵さんに挨拶して町に向かう。
町で物陰に入った。
「んじゃ、姿を消して、空から一気に禁区まで行くね」
「まった」
「どしたの?」
「クウ、これは試練。自力で行かないと」
「ていうと、歩いて?」
たずねるとナオはうなずいた。
「んー。でも、ここからだと歩いて4日はかかるよ」
マーレ古墳のダンジョン町から帝都までは徒歩で3時間ほど。
帝都から禁区までは北に向かって3日。
「普通の人間で?」
「うん」
「なら平気。私の足なら1日」
「あー、うん。そうかもだね」
ナオは、険しいザニデア山脈でも自由に歩き回る。
体力と運動神経は抜群だ。
平地なら並の人間の4倍くらいの移動は、たしかに簡単にこなしそうだ。
「でもナオ、道はわかるの?」
「帝都までは、街道沿いでいいんだよね?」
「途中に分かれ道はあるけど、立て看板があるから見ていけば平気かな」
「目的地は帝都の北だよね?」
「うん。帝都の北門から出て街道を進んで、かなり遠いけど、タステンっていう城郭都市に向かえばいいよ。禁区のあるディシニア高原に最寄りの町だから。タステンにつけば後はわかると思う」
「わかった。行ってみる」
街道の立て看板を見逃さないように進めば、たぶん行けるだろう。
けど……。
「……ねえ、ナオ」
震える声で呼びかける一応は聖女のユイ太くんが、ここにはいた。
「4日の行程を1日なんて、私、無理なんだけど……?」
「試練」
「試練と言われてもお!」
この後、しばらくユイが泣いてごねたけど、私には思うことがあった。
「ねえ、ユイにはさ、光の魔力があるよね?」
「うん。あるよ……?」
「ならさ、アレ、使えるんじゃない? 光の翼。あと透明化も」
光の翼は、その名の通り、光の力で背中に翼を生み出す空中移動用の銀魔法。
高速移動は無理だけど、人が走る程度の速度なら出せる。
使用中の消費MPは微小。
私が持つ精霊の固有技能『浮遊』に、近い感覚で使える魔法だった。
透明化の魔法は、光の力で姿を消す銀魔法。
「それって銀魔法だよね? 私、白魔法しか無理だよ?」
「でも、どっちも光の力だよ。ゲームでもユイ、使ってたよね。もう昔のことだろうけどよく思い出して、強くイメージして使ってみて」
「……うん。やってみるね」
ユイが目を閉じる。
そして、しばらくの間を置いて、言った。
「光の翼」
次の瞬間、ユイの背中に真っ白な、輝く翼が生まれた。
「あ、できた」
翼をばたつかせて、ユイが宙に上がる。
「クウっ! ナオっ! できたよー! ほら、飛べてるー!」
まさか一回で発動とは。
さすがは聖女様。
透明化の魔法も簡単に成功させて、ユイは消えたり現れたりした。
とりあえず降りてもらう。
空に浮き上がったことで、通りにいた観光客に思いっきり見られた。
驚く声が聞こえる。
でも幸いにも、わざわざ物陰に見に来る人はいなかった。
風光明媚なので観光地化もされているとはいえ、なにしろダンジョンの町だ。
冒険者が魔道具を使ったのだろう――。
面倒なことになると困るから関わらないほうがいい――。
と、思われている様子だった。
ユイは素直に降りてきて、光の翼を消した。
「ありがとう、クウ。よくわかったよ。私、べつに白魔法にこだわらなくても、ゲームの魔法を再現できるんだね」
そして、では行こうか、となったところで、リトが現れた。
「ユイー!」
「リトっ」
飛び込んでくるリトを、ユイは笑顔で抱きとめた。
「竜の里を出たのですか!? なにかあったのですか!?」
「私、これから冒険なんだ」
「リトも行くのです! ユイの力になるのです!」
「ありがとう。お願いしてもいい?」
「もちろんなのです! 当然なのです! リトはユイのそばにいるのです!」
というわけで。
光の大精霊様がユイの補佐をすることになった。
リトが真っ白なフェレット姿になって、ユイの肩に乗った。
注目を浴びるつもりはないようだ。
いいね。
「ちなみにリト、ユイを運んで空は飛べる?」
「楽勝なのです。鳥より早く飛んでみせるのです」
ふむ。
光の翼すら必要なくなったね。
よく考えれば、そうだよね。
ユイにはリトがいるのだから、はっきり言って、すべて問題なしだよね。
精霊界からリトを連れてくるだけで万事解決だった。
まあ、勝手に来たけど。
「なんかもう、ピクニック気分だね」
「なのです!」
ユイが、リトを肩に乗せたまま腕を広げて、その場でくるくると回る。
本当に気楽で幸せそうだ。
「そーれー! くるくるー! 回っちゃうぞー!」
「回るのですー! 楽しいのですー!」
「くるくるー! くるくるー!」
「ユイは最高なのです! リトは楽しいのですー!」
「……クウ。私に何かを言って下さい」
ナオにそう言われた。
ふむ。
旅立ちの時だ。
ここはひとつ、景気づけでもしてあげよう。
「じゃあ、芸をしまーす!
一番、クウ!
一人芝居ー!」
さあ、行くぞ。
テンポよく、レッツ、スタート!
「ハイハイハイ!
ハイハイハイ!
はいっ!」
ガニ股に腰を下ろし、腕を左右に広げてヒジを90度、上に曲げる。
「カニ」
そして、指でVサインを作って、チョキチョキ。
もういっちょ行くよ!
「ハイハイハイ!
ハイハイハイ!
はいっ!」
頭のてっぺんに手のひらを乗せる。
指はピンと上に向ける。
「ちょんまげ」
言ってから。
「ぴんこん、ぴんこーん」
手のひらを前に倒して、すぐに立てる。
「はいクウちゃんさん、正解をどうぞ!」
「せんべい!」
「正解です! 勝ち抜けおめでとう!」
「やったぁぁぁぁ!」
ザ・一人芝居。
…………。
……。
え?
ハッと気づいて、全身で驚く。
「クイズだこれぇ! ちょんまげじゃなかったぁぁぁ!」
はい。
おわりです。
ありがとうございました。
これでナオも元気百倍!
さあ、出発だ!




