316 なんとかしてよクウえもーん!
早速、武技の会得を目指して、竜の人たちが訓練場へと向かう。
ナオは竜の人たちに連れて行かれた。
うん。
よかった。
ナオは竜のみんなに愛されているね。
囲まれて困惑するナオの様子を見て私は安心した。
エリカも見学でついていく。
エリカのうしろには、王国で専属メイドになる予定の竜の女性ハースティオさんがぴたりとついている。
早くもその姿はメイドだ。
私は、少しだけ休憩させてもらうことにした。
いや、うん。
だって。
ナオとエリカは気づいていなかったけど。
通路の陰にユイがいてさ!
隠れてこっちを見ているんだもん!
竜の人たちとナオとエリカが行ってしまって、私だけになったところで。
私はユイに手を振った。
するとユイが、グズグズとべそをかきながらフラフラと近づいてくる。
近づくや泣いた。
「うえーん。どうして追いかけてきてくれないのよぉぉぉ。薄情者ぉぉぉ」
「いやそれ、私じゃなくてナオの役目――」
だよね。
「ナオがそんな気を利かせてくれるわけないでしょぉぉぉ」
「いや、まあ、うん……。そうだね……」
「ナオの悪口を言わないでっ!」
「待って待って。私はなにも言っていないよ?」
「待たないー! クウー! うえーん!」
うわ。
私の腰にすがりついて、また泣き始めたよ、ユイ。
「はいはい、よしよし」
もうほんと、しょうがないねえ……。
しばらくあやしていると、ようやく泣き止んでくれた。
ユイが床にぺたりとしゃがみこんでしまうので、仕方なく私も座った。
「……ナオ、結局、どうなったの?」
「旅に出ることを伝えて、受け入れられていたよ」
「うえーん」
「応援してあげたら?」
「やだぁぁ」
まったく、なんてめんどくさい。
だけどしょうがないので、つきあってあげる。
「ユイはいいの? お父さんとかお母さんとか。兄弟姉妹はいるんだっけ?」
「……家族はいるよ。妹も。ほとんど遊んであげることができなかったから、ぜんぜん思い出とかはないけど」
「ユイは小さい頃から聖女だったもんね」
「そうだよ。私、頑張ってきたんだから」
ユイが手で涙を拭う。
ハンカチを貸してあげた。
「ありがと」
ユイはハンカチで目を綺麗にすると立ち上がった。
私も身を起こす。
「決めた」
ユイが言う。
「――私、決めた!」
聖国に戻ることにしたのかな。
と思ったけど、ちがった。
「クウ、私も冒険者になる! ナオと一緒に行くよ!」
えー。
「いやー。どうだろうねー。それは……」
聖女ユイの姿は、それはもう広く知られている。
なにしろ帝国にすら肖像画がある。
聖国の人間なんて、町ですれ違っただけでも一目でユイだと気づくだろう。
まあ、私がそうしていたみたいにローブで顔と体を覆えば、冒険者もできなくもないのかも知れないけど。
ユイの光の力が超強力なのは間違いない。
ナオとコンビを組めば、Aランクなんてきっとあっという間だ。
正体がバレることなく、人間同士のトラブルに巻き込まれることなく、ただ冒険だけできればだけど。
うん、無理だと思う!
なんかナオとユイ、あっさり詐欺師に騙されそうだし!
なんかナオとユイ、私以上に絡まれそうだし!
なんかユイ、人前でも平気で光の力を使いそうだし!
「私、決めたよ。応援してくれるよね、クウ」
う。
赤く腫れた目で、まっすぐにユイが見つめてくる。
否定せねば!
だけど、ものすごく断り辛い。
ど、どうする私……。
「ねえ、ユイ。まずは確認なんだけど……。ユイって庶民生活はできるの?」
「え? できるよね、私?」
私に聞かれても困る。
「ユイって貴族の生まれで、そのまま聖女になったよね? こっちの世界に来て町で暮らしたことはあるの?」
「ないよ。でも私には前世の記憶があるしっ!」
「質問です。宿で一泊するお値段は?」
「金貨10枚くらい?」
ふむ。
一泊で約100万円と来ましたか。
どこのスイート・ルームかな。
「次の質問です。大通りで馬車に引かれて子供が怪我をしました。どうしますか?」
「もちろん癒やしてあげるよ! 大変だよね、それ!」
ふむ。
「私が予測するに、ユイは一瞬で聖女とバレて大騒ぎになるね」
「そんなことないよね? 私、慎重派だよね?」
私に聞かれても困る。
「あきらめたら?」
「クウ……。私を見捨てるの……?」
「見捨てるというか、無理?」
「私を見捨てないでぇぇぇ! 見捨てたら祝福しまくってやるからぁぁぁ! 一日中光まみれにしてやるからぁぁぁぁぁ!」
いやヤメてねホント。
呪いじゃないだけ、逆に手に負えない気がする。
「ねえ、なんとかしてよクウえもーん!」
この子、ついに私を便利な猫型ロボット扱いし始めましたよ!?
「……しょうがないなぁ、ユイ太くんは」
このまま放置はできないか。
「ならさ、練習とか、どう?」
「……練習?」
「どこかのダンジョンで、試しに冒険してみるの。で、そこで、他の冒険者と上手くやれるのかどうか、ちゃんと戦えるのかどうか、そのあたりを確認するの。私もこっそりついていってあげるからさ」
「でもダンジョンって、冒険者じゃないと入れないよね?」
「そこはこっそりと」
「クウ。ダメだよ、そういうのは。ちゃんとルールは守らないと」
お姉さんぶった顔で言われた!
めんどくさっ!
「なら、ダンジョンじゃないところで」
「野外の魔物って、精霊とは仲がいいんだよね? クウの目の前で倒すの?」
「うーん。そかー」
ゴブリンくんもワイバーンくんも、話せばいい子たちだった。
人間にとっては敵だし素材だけど……。
私の目の前で殺すのは……正直、やめてほしい……。
あ、そうだ!
いい場所があった!
「なら、野外でダンジョンみたいになっているところに行こう!」
「そんな場所、あるんだ?」
「うん。ちょうど今、帝国で禁区調査っていうのが行われててね。そこはダンジョンみたいな場所で、たくさんの冒険者が出向いているから、戦闘もコミュニケーションも両方の練習ができると思う」
「入ってもいいの?」
「うん。ダンジョンじゃないしね」
たぶん!
知らないけど!
「へー。いいね。じゃあ、そこ、お願いしてもいい?」
話は決まった。
禁区に突撃だ。




