表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

310/1361

310 悪魔じゃないよ?

「え? ……なに?」


 ユキハさんはさすがに動転した。

 一瞬の暗転を挟んで、いきなりダンジョンの小部屋だしね。

 落ち着いていられる方が珍しいだろう。


「まあ、落ち着いて」

「――君は」

「クウだよ。ユキハさんに聞きたいことがあってね」

「……これ、君がやったの?」

「うん」


 うなずくと、ユキハさんが怖い顔になる。

 無理もない。


「……どういうことか教えてもらえる?」

「聞きたいのはこっちなんだけどねー。ユキハさん、帝都でなにをしようとしていたの?」

「商売に決まっているでしょう?」

「私、わかるんだよ」


 私はすぐには言わず、もったいぶった。


「……何をかしら?」


 どうしよう。

 真実を誘導できる会話をしたいのだけど、なにも思いつかない。


「人の敵意」


 もういいや、ストレートにいこう。


「ユキハさんからはビンビンに感じるんだよ。だから申し訳ないけど隔離ね」

「なんのことだかさっぱりなんだけど? それよりここはどこなの? 一体どんな魔術でこんなことをしているの?」

「ここはダンジョンの最奥。外には出れないよ」

「悪いけど帰らせてもらうわね」


 私に背を向けて、ユキハさんがドアに手を開けた。 

 ドアを開く。

 先のフロアには巨大なスケルトン――マーレ古墳のボスがいる。


 ユキハさんはフロアには出ず、ドアを閉めた。


 ユキハさんがため息をつく。


「ねえ、今のって魔物よね? しかも、かなり強い」

「ここのダンジョンのボスだからね。ドアを閉めたのは正解だと思うよ」

「……これって、どんな幻惑なの?」

「幻惑じゃなくて現実だよ。まあ、ゆっくりとお話しよう?」

「お断りさせていただくわ」


 ユキハさんが肩をすくめる。


「どうして?」

「いきなりこんなことする相手を信用できるわけないでしょ」

「あ、実は私も被害者だったり?」

「なにを今さら」

「で。帝都でなにをしようとしていたの?」

「だから商売」


 うーん。

 埒が明かない。


 いきなり強制連行したのは失敗だったか。

 根気よく追跡して、悪事の現場を抑えるべきだった。


 仕方がない。

 緑魔法の『昏睡』で眠らせて、精霊界からゼノを連れてくるか。

 ゼノの闇の力を借りて話を聞こう。


 私が考えをまとめていると――。


 不意に動いたユキハさんが、一瞬でうしろに回り込んで私の首をつかもうとした。

 凄まじい身体能力だ。

 だけど、私には見えている。

 反応もできる。

 さっとかわす。

 すると、ユキハさんが小さく笑った。


「ふふふ。ははは……」


 ユキハさんが笑う。

 その笑いはどんどん大きくなる。

 頭に巻いていた布を自らの手で剥ぎ取って、床に投げ捨てる。

 黒い獣耳が、ピンと立った。

 腹を抱えて笑う。

 時折、のけぞる。


「なるほどね! あははははは! よくわかったよ!」


 私は呆然と見ていた。

 一体、どうしたのか。

 なにがわかったというのだろう。


「悪魔に魂を売って――。復讐を果たす――。そんなこと簡単にできていれば、今頃誰でもやってるよね――」


 ユキハさんの気配が、どんどん怪しいものへと変わっていく。

 なんだろうか。

 魔力感知を発動させてみる。

 渦を巻くように、闇がユキハさんに集まってきていた。

 いや、ちがうか。

 これは異世界からの侵食、穢れた力だ。


「くくくっ! そうか――。

 君は悪魔か――。

 私の、あと一歩で大願成就するところからの転落を――。

 絶望して、怒り狂う、泣きじゃくる、そんな姿が見たかったんでしょう――。

 あはははははは!

 いいよ!

 見たいだけ見せてあげるよ――。

 私の――。

 怒りをぉぉぉぉぉ!」


 おっと。


 爪を振りかざして来たユキハさんの攻撃を、軽く身をひねってかわす。


「いきなり攻撃は酷いと思うんだけど」

「よかった。やっぱりおまえはただの子供じゃない。でなければ、そんな簡単にかわせるはずがないしね」


 黒い力を撒き散らしながら、ユキハさんが微笑む。


「まあ、それはね?」


 私、強いし。


「消えろ! 悪魔がぁぁぁ! 私の――。私たちの怒りを――。思い知れぇぇぇ!」

「いや、待って! 待って待って!」

「誰が待つかぁぁぁ! おまえを殺して、この幻惑を破る!」

「幻惑じゃないからー!」


 攻撃をかわしつつ訴えるものの、聞いてもらえない。

 少なくとも私は悪魔ではない。

 最近、どこかの光の大精霊に魔王とか呼ばれたけど、断じてちがう。

 なぜなら私は精霊のクウちゃん。

 可憐で清廉でたまに優雅でおしとやかで明るくて楽しくて優しくてそんな感じのかわいい存在なのだ。

 悪魔でも魔王でもないのだ。


 ユキハさんの攻撃は激しい。

 むき出された爪は、下手な剣よりも鋭い。

 革鎧くらいなら引き裂いてしまいそうだ。

 しかも速い。

 ここまでの速さを体験するのは、以前、ナオと戦った時以来だ。


 だけど、かわせない速さではない。

 動きは見えている。

 なので余裕はある。


 だからこそ、なのだけれど……。


 ユキハさんの相手をしていると、不思議な手応えを感じる。

 ユーザーインターフェースを開く。

 ログを確認。

 すると、なんとびっくり格闘技能が上がっていた。

 と、いっても小数点以下だけど。

 とはいえ、かわせばかわすだけ増えていく。

 私の格闘技能は0。

 ゲーム時代には、まったく使わなかった。


 あ!


 格闘技能が1になった!


 おおおおっ!


 こっちの世界に来て初めて、戦闘技能がアップした。

 やったぜ。

 格闘技能は使い勝手がよさそうだし、鍛えていってもいいかも知れない。


「あはははははは! いいよいいよ! ユキハさん! もっと来なよ! この私を成長させてくれたまえ!」

「悪魔がぁぁぁぁ!」


 おっといかん。

 技能アップで喜んでいい状況ではなかった。


 落ち着け、私。


 まず、やはりユキハさんが帝都でなにかするつもりなのは判明した。

 そのために悪魔に魂を売った?

 そして、復讐、か――。

 帝国にどんな恨みがあるのだろうか――。


 なんとか話を聞きたい。


 できれば、ゼノの力を借りて無理やりにじゃなくて、普通に。


「私は復讐を遂げねばならないんだ! 帝国で惨めに殺されたサギリ様の――。仲間たちの無念を晴らすために――!」

「待った待ったぁぁぁぁぁぁぁ! 本気で待ったぁぁぁぁぁ!」


 とんでもない言葉が出てきた。


「生きてるから! みんな、ちゃんと生きてるからぁぁ! サギリさんとはこの間会ったばかりだからぁぁぁぁ!」


 私が叫ぶと、ようやくユキハさんは攻撃を止めてくれた。


「……そこまで私を嘲笑いたいのか。さすがは悪魔だな」

「話、聞いてくれるよね……?」


 私はおそるおそるたずねた。


「いいだろう――。もはやここまでか――。ナオ様――。貴女を見捨てて1人だけで逃げた私の罪を――。贖うこともできず――。申し訳ありません――」

「生きてるからね!? ナオも普通に生きてるからねぇぇぇ!?」


 カメだけどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!


 とにかくこれはアレだ!


 ユキハさんは、絶対に和解しなくちゃいけない相手だ!


「邪神の落とし子たる千足の混沌ナスル・ナチャよ――。

 契約に従い、我に力を――。

 すべてを破壊する力を、与え給え!」


 ユキハさんがつぶやき、最後に叫んだ。

 それは呪文なのだろう。


 でも、ナスル・ナチャって……。


 南の海の底で私が消滅させた亜神の名前だね……。


 覚えている。


 研究素材としてバルターさんに渡しちゃったけど、足が食べられるんだよね。

 タコと同じ食感だとアイテム欄の説明にあった。


 だから、たぶん。


 呪文を唱えても……。


「白狼族、ユキハ・スド! 我が魂魄を以て!」


 いかん!


 私が逡巡している内に――。


 ユキハさんが自らの爪を、自らの首に突き立てようとしている!



いいね制度が導入されたようです\(^o^)/

よかったらポチってやってくださいお願いします。

ブクマと評価もよければぜひに。

ヤル気でます\(^o^)/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 悪魔王クウちゃん!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ