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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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306 次の機会に




 そう言えば、ナオを『陽気な白猫亭』に連れて行くのを忘れていた。

 お茶会の前に約束していたのだ。

 一緒に行こうと。

 そのことに気づいたのは、お茶会の数日後だった。

 私には転移の魔法があるので、行こうと思えば今すぐにでも竜の里に行ってナオを連れてくることはできる。

 でも、正直、ためらわれた。

 ナオがサギリさんについた嘘をすべて聞いていた身からすると、どうにもナオへの接し方がわからない。


 夏のおわりでいいかな……。

 ナオが旅立つなら、その壮行会として、とか……。


 次の機会でいいよね……。


 そんな風にやや後ろ向きに考えて、その件は先伸ばすことにした。


 お茶会の後。


 私の生活はとても穏やかだ。


 正直、次の日には陛下に呼ばれて怒られるかとも思っていたけど……。

 そんなことはなかった。


 セラともしばらく遊ぶ予定はないので、お茶会がおわってからは一度も大宮殿にお邪魔していない。

 セラは当分、勉強漬けのようだ。

 私も一緒にと誘われたけど、お店があるので丁重にお断りした。

 セラには学院に入ってから大丈夫かと心配されたけど……。

 私、これでも元大学生ですし。

 11歳の勉強なんて楽勝のはずですし。

 平気平気。


 ……たぶん。


 いや、うん。


 平気じゃないよね!

 わかってます!


 でも、今から勉強したってどうせ忘れます。

 私、精霊なので。

 ふわふわなので。

 すなわち、鳥のようなものなので。

 なので三日前くらいに……頑張ろうかと……。


 というわけで。

 この数日は。


 私は朝から店にいて、せっせとぬいぐるみを作ったりオルゴールを作ったり、在庫を増やすことに精を出していた。

 おかげで在庫は潤った。

 私がしばらく留守にしても平気だろう。


 お客さんもそこそこ来てくれた。

 大賑わいとはいかないけど、むしろ私的にはちょうどいいくらいだった。


「ユイたちのも、そろそろ売ってみようかな……」


 ナオとエリカとユイのぬいぐるみは、まだ売りに出していない。

 ユイとエリカに貰った許可証もアイテム欄のままだ。


 何度か売りに出そうと思ったんだけど。

 次の機会でいいかぁ。

 と思う内、日にちが過ぎてしまった。


 そもそも値段の問題もある。


 精霊ちゃんぬいぐるみと同じ値段でいいとは思うけど……。


「あ、そうだ」


 ウェーバーさんに相談に行くことにした。

 お店を閉めて、外に出る。

 今日、ヒオリさんはいない。

 学院に行っている。


 外に出ると、夏の日差しが町一面に降り注いでいた。

 夏の真っ盛り。

 人通りは多かった。

 リトはしっかりと仕事をしているようだ。

 ユイと再会することができたのだ。

 次に会う予定もある。

 その時にユイに褒めてもらうために頑張っていることだろう。

 頑張れ、5000歳児。

 私も精霊界に行く機会があれば、応援に行こう。

 今は仕事だけど。


 ウェーバーさんとはすぐに会うことができた。

 毎回、特別待遇で申し訳ない。

 でも有り難い。


 早速、ユイのぬいぐるみを見せると、神妙な顔をされた。


「これは下手をすれば、いいえ、確実に信者の怒りを買います。出品するのはやめておいたほうが良いかと」

「聖女様の許可があればどうですか?」

「それならば、よいと思いますが――。しかし許可など得るのは不可能――」

「これなんですけど……。実は、聖女様に書いてもらって……」


 ユイの許可証を見せると、ウェーバーさんは驚愕した。


「ここここここ! これは! この輝く紋様は! 聖女様の――聖女様にしか描くことのできない――。光の印章ではありませんかぁぁぁ! 聖女様が強い決意を以て民に意思を示される時のみに使用される勅令の証! これはつまり、聖女様がクウちゃん様にぬいぐるみを売れと命じられた、その証ですかぁぁぁぁぁ!」

「……あ、えっと、はい」


 正確には少しちがうけど、まあ、いいや。


「なるほど……。よくわかりました……。これがあるならば……。ぬいぐるみ、売らざるを得ないでしょういえ売るしかありません……」

「大袈裟ですねー」


 あはは。


「大袈裟ではありませんっ! 光の印章とは、まさに聖女様のご意思そのもの! これに逆らうなど決してあってはなりません! そのような者は――己の命と引き換えにしてでもこの世から消し去らねば――。いえ、失礼しました」


 何気に怖い発言があったような気もするけど。

 気にしないことにした。


 しかし、ユイ。


 どうやらとんでもないものを、とても気楽に書いてくれたようだ。


「それで、ぬいぐるみなんですけど……。いくらで売るのがいいと思いますか?」

「光の印章があるのです。信者であれば全財産をはたいて欲しがるでしょう。特に聖女様の正式な姿絵が手に入らない帝国では」


 ユイのぬいぐるみを見つめるウェーバーさんの視線が熱すぎて、怖い。


 ユイをデフォルメして生成した……。

 ただのぬいぐるみなのにね……。


「あ、いえ。失礼しました。売るのであれば会員制――。許された者にのみ、時価で売るのが良いかと思います」


 うーん。

 めんどくさそうだ。


 ただの気軽なぬいぐるみなのに、家宝みたいに扱われそうな気がする。

 ユイ……。

 君の生きてきた11年……。

 本当にすごいね……。


 私にも、よーくわかった。

 気楽にお店になんて置いたら、すごいことになりそうだ。


 うん、決めた。


「ウェーバーさん、相談に乗ってくれてありがとうございました。なんかめんどくさそうなので売るのはやめることにします」

「なんですとぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「ふぁっ!?」

「クククク、クウちゃん様! それはなりません! 光の印章に逆らうことなど――たとえクウちゃん様と言えど――」


 結局、作ってあったユイのぬいぐるみとユイの許可証は――。

 ウェーバーさんに差し上げた。

 お任せ。

 丸投げ。

 うん。

 ウェーバーさんは使命感に燃えてくれたし、問題なし!

 問題なさそうな信者の人に売ってあげて下さい。

 あ、全財産はなしですよ?

 適価ですよ、適価。

 売り上げについては、私は本当にいらなかったけど……。

 全額、もらうことになった……。

 いや、ホント、ウェーバーさんが熱すぎて断ることができませんでした。


 興奮絶頂のウェーバーさんを残して私はウェーバー商会から出た。

 正確には逃げた。


「……はぁ」


 ため息がこぼれる。


 ホントに。


 いろいろと思った通りにはいかないもんだねえ。


 よかれと思ってしてみても、あれやこれやと蔦が絡んできて、結局、めんどくさいことになってしまう。

 ユイがダメになった以上、エリカとナオのぬいぐるみも売りにくい。

 いや、まあ、いいか。

 エリカとナオのは、テキトーに売っちゃおう……。


 とりあえずお腹が空いたので、私は『陽気な白猫亭』に行った。

 午後の中途半端な時間だ。

 お店にお客さんはいなかった。


「やっほー」


 お店にいたメアリーさんに声をかける。

 テーブルに伏して寝ていたメアリーさんが私に顔を向けた。


「クウちゃん……。私、またやってしまったよお……。おしまいだよぉ……」



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