302 大宮殿の晩餐会
こんばんは、クウちゃんさまです。
今、私はお茶会をおえて控室でのんびりとしています。
一緒にいるはユイとナオ。
加えて、リト。
アリーシャお姉さまは、お茶会がおわってすぐに家族の元に向かった。
ディレーナお姉さまとマリエは別の控室だ。
エリカはさっきまでいたけど、晩餐会で次のドレスを着るために竜のメイドさんと共に隣室に移った。
セラもシルエラさんに連れられて着替えのために出て行った。
私は面倒なので着替えない。
このままでいいや。
もうすぐ夕食。
今夜は、小規模な晩餐会だ。
エリカがお兄さまに会いたいというので開いてもらった。
皇帝一家と私たちと、帝国貴族の人たちがいくらか参加するみたいだ。
どんな豪華料理が出てくるのか。
お腹も空いたのでとても楽しみにしている。
「ところでユイも参加するってことでいいの?」
ユイは、お茶会の後にリトと会って竜の里に帰る予定だった。
だけどリトの乱入で予定は狂った。
くっついたままのリトを連れてそのまま私たちと一緒にいた。
「うん。いいよ。ついでだし。でも、なんかアレだよね。まわりに知り合いがいないと気が楽でのびのびできちゃうなー。今日は楽しかった」
「私たちも知り合いだけどねー」
「クウたちは親友だよ。特別枠」
「聖国には、気を許せる友達はいなかったの?」
「いなかったかな。子供の頃から私、ずっと聖女だったし。エリカくらいしか普通に話せる相手がいなくて。もちろん、みんなよくしてくれたけどね。嫌いじゃないけど、いつの間にか私が擦り切れちゃって」
「そかー」
この様子だと、ユイが聖国に帰るのは、まだ先になるのかな。
早く復活してくれるといいけど。
「そういえばリトは参加するの? 人間のマナーはわかる?」
私はリトにたずねた。
「リトはニンゲンと親しくする気なんてないのです。参加なんてしないのです」
「ユイも人間だよね?」
「ユイはユイなのです」
「じゃあ、セラとナオはどうなの? 光属性を持ってるけど」
「……少しだけなら相手をしてやってもいいのです」
なるほど。
「じゃあ、後でセラとはしゃべってあげてよ。せっかく光属性なんだし、リトには仲良くしてあげてほしいんだけど」
ちなみにナオは目を閉じてじっとしている。
リトには興味のない様子だった。
ナオにはこれから、大切な再会がある。
それどころの気持ちではないのだろう。
「はんっ! まっぴら――」
「あ。嫌とか言ったら怒るからね?」
「……わかったのです」
にっこり笑ってうなずかせると、リトを抱いて座っているユイが苦笑した。
「またクウったら強引に」
「あはは」
「リト、いじめられたら私に言いなよ? クウなんてやっつけてやるから」
「わかったのです。ユイは頼りになるのです」
それはともかく。
「でもそれだと、晩餐会の間はどうする? 姿を消してついてくる? 消してほしいなら消してあげるけど」
「ふんっ! リトを舐めるな! なのです!」
次の瞬間、ポンッ!
と、一瞬でリトの姿が変わった。
真っ白なフェレットだ。
「こうすれば、ユイの肩にずっと居られるのです」
ひょいと身軽に、フェレットになったリトがユイの肩に飛び乗った。
「いや、どうだろ。動物なんて連れ込んじゃ不味いよね」
うん。
普通に考えれば無理だ。
「安心しろなのです。リトは完全に清潔なのです」
「それはわかるけどね」
なにしろ、光の大精霊だし。
「まあ、いいか。頼んでみるよ」
人間の姿でいて食べないのは失礼な気がするけど、フェレットの姿でなら食べなくてもいやらしくはない。
という気はする。
なので、食べずに参加するならフェレットの方がマシな気はした。
部屋を出て、廊下に控えていたメイドさんに今の件の確認をお願いする。
部屋に戻ってしばらく待っていると返事が来た。
オーケーだった。
「ならリトは、この姿でいるのです」
それからしばらくして、晩餐会の時間になった。
みんなで食堂に向かう。
食堂に入ると、なんとびっくり、私たちが最後の参加者のようだった。
真っ白なクロスの敷かれたテーブルに、陛下を中心とした、いかにも貴族な人たちがすでに座っていた。
陛下に皇妃様。
カイストお兄様にアリーシャお姉さまにセラにナルタスくんに。
ディレーナお姉さまに、エリカに。
マリエもいる。
騎士団長のグラバムさん夫妻に、魔術師団長のアルビオさんもいた。
バルターさん夫妻もいる。
他の人たちの顔も見て、思う。
帝都の重鎮が勢揃い、ではなかろうか。
私たちが部屋に入ると、そんな人たちが、わずかにざわめく。
あれが聖女か、と……。
ユイはすごいね。
本当に、大陸でとてつもない影響力を持っているようだ。
そんな視線を感じてか、ユイが挨拶をする。
「お招きいただき感謝いたします。ユイリア・オル・ノルンメストです。未だ未熟な修行中の身ではありますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。私の肩にいるのは光の大精霊のシャイナリトーです。大人しくしていると約束してくれているので、申し訳ありませんがご同席をお許し下さい」
「話は聞いている。気にせず着席してくれたまえ。今夜は私的な催しだ。まずは皆で夕食を楽しもうではないか」
陛下がそれに答え、鷹揚に歓迎する。
フェレットに文句を言う人はおらず、私も安心して席についた。
食事はつつがなくおわった。
料理は絶品だった。
さすがは大宮殿。
私の期待は裏切られることはなかった。
ユイやエリカの応対もよかった。
正直、エリカは高慢な態度で場を白けさすに違いないと確信していたけど、そんなことはなかった。
きちんと陛下たちのことを目上の人間として敬っていた。
会話も無難なものばかりでひやひやすることもなかった。
食事の後は自由な歓談の場になる。
ここでエリカに袖を引っ張られた。
会場の隅に連れて行かれる。
「……どうしたの?」
「……ねえ、クウ。確認なのですけれど、クウの意中の殿方は彼――カイスト様でよろしいですのよね?」
「え?」
なにそれ?
なにがどうしてそうなったのかは不明だけど、すぐに私は否定した。
「なるほど。わたくしの勘違いだったのですね――」
「うん。私、そういうの興味ないし」
ふわふわ気楽に生きられれば十分です。
そもそも精霊ですし。
「では、あの、わたくしが親しくしてもよろしいのかしら。思ったよりも美男子でそれなりに気に入りましたわ」
「まあ、仲良くしてくれるなら嬉しいけど」
「わかりました。クウがそこまでお願いするのであれば、そうしましょう」
そこまでお願いしたつもりはないけど。
とりあえず、仲良くしてくれるのはよいことだろう。
陽気に肩を揺らしながら、エリカは人の集まりの方に戻って行った。
最近まで敵視していた他国の中枢にいるというのに、エリカに臆する様子はない。
さすがだ。
とはいえ私はそれどころではなかった。
「じゃあ、ナオ。行こうか」
「うん」
楽師が優雅に曲を奏でる中、私はナオと場を離れる。
ナオは明らかに緊張した様子だ。
無理もない。
これから同胞と会うのだ。
庭に出て、待っていたバルターさんと合流する。
明るい場所から離れて――。
暗がりへ。
そこには、私にも馴染みのある、黒装束の女忍者さんが片膝をついて待っていた。
ナオと同じ銀狼族。
エミリーちゃんを助けたネミエの町で。
ウェルダンに絡まれた帝都で。
度々出会ってきた彼女――サギリさんというらしい――。
と――。
ナオが視線を合わせる。




