296 宿命の対決! クウvsユイ
「……わかったのです。キミがそう言ってくれるのなら、リトも覚悟を決めるのです。かくなる上は――もはやこれまでなのです」
今、平和なお茶会の現場で――。
私の目の前に、ユイとリトが立ちはだかった。
「これを使うのです。最強の光の剣『クラウソラス』なのです」
「ほほう。そんなナマクラで、このクウちゃんさまの神話武器『アストラル・ルーラー』に刃向かえると?」
リトが剣を出したので、私も剣を出した。
リトの剣から広がった純白の光を私の剣の青い光で塗り潰す。
「そんな剣、一瞬で塵にしてあげるね?」
「……う。ふえええ!」
「もう、2人とも、お茶会の席で剣なんて出しちゃ駄目でしょ」
まあ、それはそうだね。
私は剣をしまった。
ユイに促されて、リトも剣をしまう。
「でも、勝負するんだよね?」
「だって拷問とか、そんな酷いこと、させられるわけがないよね? ……まさか剣で叩いたりしてるの?」
「私はしてないし、言ってないからね!?」
よく思い出して!
それ、リトが勝手にわめいていただけの話だからね!
私は頑張って説明した。
「なるほどー。そういうことかー」
「わかってくれてよかったよ」
「なら勝負は、ジャンケンにでもしようか」
「ユイ、頑張るのです! やっつけてほしいのです! ざまぁしてやるのです!」
リトがわめく。
こいつめ。
たとえジャンケンでも、リトに勝った顔をされたのはシャクすぎる。
「二人共、待った。この勝負、私に預からせてほしい」
ナオが間に入って、私とユイに手のひらを向けた。
「いいけど。どうするの?」
私はたずねた。
「では」
ナオがパンパンと手を叩いて、場の空気を変える。
「これよりクウとユイにはコント一発勝負をしてもらおうと思います。面白かった方が勝ちとなります」
宣言して、ナオがお茶会のメンバーを見渡す。
「勝負には審査員が必要です。でも、クウを選ぶのもユイを選ぶのも、立場のあるお方では政治的に難しいと思います。なので審査員はマリエに決定したいと思うのですが、皆様の意見はいかがでしょうか」
「ふえ!? わわわわ、私ですか!?」
「マリエなら安心です。マリエなら公平に審判できると私は確信します。しかも、どちらに恨まれても国に影響はありません」
「恨まれること前提なんですかぁぁぁぁ!?」
「やむなしです」
「無理無理むりいぃぃぃ! 無理ですよそれぇぇぇぇぇぇ!」
マリエは全力で否定するものの……。
「マリエ、引き受けなさい」
「ディレーナ様ぁ!?」
「そうですわね。ここはマリエに任せますわ」
ディレーナお姉さまとアリーシャお姉さまに言われては断れるはずもなく。
さらにはセラも、
「……仕方がありません。確かにわたくしでは、マリエさんと違って、何があってもクウちゃんに味方してしまいますし」
と、なんとなく棘のある言い方でマリエの審判を認めた。
「わたくしもナオが決めることに異存はありません。観客として、2人の芸を楽しませてもらいますの」
最後にエリカがニッコリと笑って、話は決まった。
「わかりました。よくわからないけど、お笑い勝負なら受けて立ちます」
どうやらユイには自信があるようだ。
「……大丈夫なのですか?」
足元からリトが不安げにユイの顔を見上げる。
「うん。任せて。こう見えて私、この勝負ならちゃんと戦えるから」
「頼もしいのです。さすがはキミなのです」
「ユイだよ。私はユイ。ユイって呼んでくれればいいよ」
「わかったのです! ユイ! 魔王なんてやっつけてやってほしいのです!」
「……魔王、だと?」
どうしてこう。
リトのやつめ。
いちいち私を怒らせてくれるのか!
「ひぃぃぃぃぃ! 魔王が怒ったのです! 世界の滅亡なのです!」
「なんだとこのヤロー!」
「よしよし。大丈夫だよー。魔王のクウちゃんは、私がやっつけてやるからねー」
「うう。頼りになるのです。さすがはユイなのです」
くぅぅぅぅぅぅぅぅ。
リトのやつめぇぇぇ!
しかし、ここは怒りを抑えるんだ、私……。
お笑い勝負ならば、私の勝ちは確定だ。
負けるわけはないのだから、勝ってからリトを連れて帰って、しっかりとお勉強させてやればいいのだ……。
くくくくく……。
見てろよぉ……。
リトと目があった。
びくん!
と、リトの獣耳と尻尾が跳ね上がる。
いかんいかん。
これでは本当に悪役だ。
「あははー」
私は笑顔で笑いつつ、リトに近づいてしゃがんだ。
「もー。リトったらー。私が魔王のわけないでしょー。私は、精霊の、お・ひ・め・さ・ま、なんだからねー? うふふー。ねー?」
頭をナデナデしてあげる。
「もうクウ、リトちゃんが怖がってるよー。やめてあげなよー」
「可愛がってあげてるんだよー。ねー? ほら、リト、こっちむいてー。私の目をちゃんと見るんだよー。ほら? 言って御覧? 私はだあれ?」
「魔王なのです……悪魔なのです……」
「は?」
「……く、くうちゃんさまなのです。……せ、精霊のおひめさまなのです」
「うふふー。よしっ!」
「またもうー。無理やりに言わせてー」
「ちがうよー。これが真実なのー」
「……あのお。私、お腹が痛いので、もう帰っていいですよね?」
「ダメです」
逃げようとするマリエを、ナオが押さえつける。
「勘弁してもらえると嬉しいんですけど……」
「ダメ。マリエの判断に、すでに世界の運命がかかっています」
「なんですかそれはぁぁぁ! そんなの無理ですぅぅぅ!」
「マリエ。フルネームを教えて下さい」
ナオがいつも通りの無表情でマリエに質問する。
「マリエ・フォン・ハロ、ですけど……」
「ユイとクウに確認します。聖女と精霊による神聖なる一騎打ちにおいて、マリエ・フォン・ハロを審判者として認めますか?」
今度は私たちに聞いてきた。
「ユイリア・オル・ノルンメストは、マリエを審判者として認めます」
「いいよ。クウ・マイヤもマリエを審判者として認めます」
「ではここにマリエ・フォン・ハロは、聖女と精霊の両者の合意において、審判者として定められました」
「……あの、私の意思は?」
「ふむ。異議がおありなら、どうぞ」
「えっと……。それは、あの……。あるというか、ないというか……」
「いいようですね。では、決定です」
かくして勝負開始。
そういえば前世では、ちょくちょくお笑い勝負はやっていた。
なるほどナオはいい勝負を選んでくれた。
懐かしい。
本当に久しぶりだ。
「よろしくね、クウ」
「うん。お互いに頑張ろう」
私とユイはガッチリと握手を交わした。
「じゃあ、私から先にやるね。ネタはあるけど頭の中で確認したいから、少し考える時間をもらえるかな?」
「私も考える時間がほしいし。10分にしようか」
「うん。それだけあれば十分」
というわけでユイが先攻、私が後攻に決まった。
10分のシンキングタイムを置いて、勝負開始となった。
ふふ。
ごめんね、ユイ。
私は勝ったようだ。
戦う前から私は勝利を確信した。
だって、フラグは立った。
こういう勝負って、ほぼ確実に、お約束として、後攻が勝つよね!
※2/5:頂いたご意見を参考に、全編を修正しました。




