290 楽しいお茶会っ!(マリエ視点)
席に着きました。
素敵な東屋です。
みんなで丸いテーブルを囲んで、これからお茶会です。
参加者は、アリーシャ殿下、セラフィーヌ殿下、ディレーナ様。
ユイさん、エリカ様、ナオさん。
そして私、マリエです。
はい。
私だけ場違いです。
でも、始まってしまったものはしょうがありません。
がんばらねば!
太鼓持ちを……。
失敗は許されません……。
タイミングを……。
タイミングを見極めて、言わねば……。
胃が痛いです。
席に着いたところで、アリーシャ殿下たちが挨拶します。
「改めてになりますが――。本日は、ようこそおいで下さいました。わたくしのことはどうぞお気軽にアリーシャとお呼び下さい」
「初めまして。妹のセラフィーヌです。わたくしも、どうぞお気軽にセラフィーヌとお呼び下さい」
「帝国アロド公爵家の娘ディレーナと申します。皆様とお会いできて光栄ですわ。特に聖女ユイリア様にご挨拶できるのは本当に光栄の至りです。精霊様のお導きに感謝を。わたくしのこともディレーナとお呼び下さい」
3人ともさすがです。
ディレーナ様は、気のせいか少しだけ緊張している様子ですけど。
まあ、私は今にも倒れそうなんですけど。
倒れないように頑張っていると、となりに座っていたディレーナ様にテーブルの下で足を突かれました。
いけないいけない!
私も挨拶ですよね!
「初めまして! マリエです! ぷんくらとんで本当にすいません!」
ああああぁぁぁぁああああ!
やってしまいましたぁぁぁ!
なんて挨拶をしているんですか、私は!
練習したことが全部、緊張のあまり吹っ飛びましたぁぁぁ!
「あはは。マリエさんは面白いですね」
「本当に」
ユイさんとエリカ様がくすくすと笑います。
「しかし、ぷんくらとんとはなんなのですの?」
エリカ様が首を傾けて聞いてきます。
「それは、その……。クウちゃんがそう言っていたので、つい思わず……。本当にすいませんでしたぁぁぁぁ!」
「謝ることはありませんわ。マリエさんはクウとも親しいのですわね」
「あはは。そうだねー。仲良しで羨ましいよ。でも、クウの言うことは、あんまり気にしない方がいいよ。たぶん意味はないし」
エリカ様とユイさんがまた笑ってくれます。
ちらりと様子を見ると、アリーシャ殿下とディレーナ様も笑ってくれています。
でも……。
ああ……。
セラフィーヌ殿下には思いっきり睨まれています。
はい。
わかります。
クウちゃんの一番のお友だちは、セラフィーヌ殿下ですよね!
私は100番目でいいです!
いっそ5000番目くらいでもいいです!
でも、今、それを言ったらますます怒られることは確実なので……。
気づかなかったことにします……。
「マリエさんのおかげで最初からくだけてしまいましたが、あらためて自己紹介させていただきますの。わたくしは、ジルドリア王国の王女、エリカ・ライゼス・ジルドリアと申します。正直、まさか帝国を訪れる日が来るとは思ってもいませんでしたが、皆様もご存知のクウに誘われて、やってまいりました。わたくしのことも、どうぞお気軽に名前で呼んで下さいませ」
「ユイリア・オル・ノルンメストです。実は私、今、修行で聖国を離れていて、人前に出る気はなかったんですけど……。でも、こうして皆さんにお会いできて、来てよかったと思います。今日はよろしくお願いします。私のことはユイとお呼び下さい。親しい人間にはそう呼ばれているので」
ユイさんの噂は私も知っています。
女神の化身になって、天に昇ったという噂です。
私は竜の里で、その自演のお手伝いをしましたから真実を知っています。
口が裂けても言えませんけど。
それにしてもユイさんは、ほわほわとしています。
アリーシャ殿下やディレーナ様、エリカ様とは空気感が違います。
柔らかくて暖かいです。
指輪で光の力を防いでいても、正直、暖かさを感じます。
クウちゃんは、ふわふわ。
ユイさんは、ほわほわ。
なるほど。
「ほら、ナオも挨拶しないと」
ユイさんが、ずっと無言のナオさんを促します。
「私はナオ。一般人」
「もう、ナオったら。すいません、愛想がなくて」
ユイさんが苦笑して頭を下げます。
「頭をお上げ下さい! 聖女様に頭を下げられるなど恐縮の極みですわ!」
ディレーナ様が珍しく取り乱した声を上げます。
「ディレーナさん、私のことはユイでいいですよ。気楽に呼んで下さい」
「はい。畏まりました、ユイ様」
「あはは。ユイさん、でお願いします」
「……わかりましたわ、ユイさん」
どうやらディレーナ様は、ユイさんに信仰心があるようです。
すごいものを見ている気がします。
「ナオはこれでも、竜の里で厳しい修行を積んでいますの。竜の背に跨る許可を得ている世界でただ1人の存在ですわ」
エリカ様がナオさんのことを自慢げに語ります。
「そういう設定」
獣耳をピコピコとさせて、ナオさんがピースサインを出します。
設定なんだ……。
言っちゃっていいんだ……。
「……あの、質問をいいでしょうか?」
「ええ、セラフィーヌさん。なんでもおっしゃって下さい」
「エリカ様たちは――」
「さん、でいいですわ」
「エリカさんたちは、どこでクウちゃんとお知り合いになられたのですか?」
聞かれて、エリカ様は考える仕草を見せます。
「そうですわね……。どう言えばいいのか……。強いて言うならば……カメ……」
「もしかして、カメ様ですか!?」
「あら。カメ様をご存知ですの?」
「はい! わたくしも会ったことがあります!」
「それではこの出会いも、カメ様のご縁なのですわね。わたくしとクウも、カメ様のお導きで出会いましたの」
「そうなんですかぁ……。カメ様が……」
「エリカ、またいい加減なことを言ってー。クウに怒られるよー」
ユイさんが眉をひそめます。
「ごめんあそばせ。クウの言う通りにセラフィーヌさんが純真でしたから、つい」
「え。あの、カメ様は?」
セラフィーヌ殿下がきょとんとします。
「からかわれたのですよ、セラフィーヌ」
紅茶に軽く口をつけてから、アリーシャ殿下が言います。
「本当は竜の里で出会っただけですの」
「でもセラフィーヌさんは本当に可愛らしいですね。クウの言う通り、頭をナデナデしたくなります。今、8歳でしたっけ? まだ小さいのに偉いですね」
ユイさんがにこやかに、とんでもないことを言います。
「わたくし、ユイさんと同じ11歳です」
ですよね……。
私は知ってましたからね!?
「え。でも8歳って……」
ユイさんが困惑します。
「……それは別のお友だちで、エミリーちゃんのことだと思います」
セラフィーヌ殿下も、なんとも困った顔をします。
怒ることも笑うこともできないでしょうし、他にどうしようもないですよね。
「おーほっほっほ。ユイもやりますわね。いきなり煽るだなんて愉快だこと」
「ごめんなさいっ! 私、てっきり!」
再びユイさんが頭を下げると、またディレーナ様が焦ります。
なんだか思ったよりも賑わしいです。
私の口元もほころびます。
これなら私も、楽しめちゃうかな?
……そう思った時期が、私にもありました。
はい、今ですが。




