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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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289 マリエ、試練の始まり(マリエ視点)

 ついに、この時が来てしまいました。


 私、映像屋の娘マリエは、今、大宮殿の奥庭園に来ています。

 目の前には美しい泉があります。

 泉は「願いの泉」と呼ばれていているそうです。

 帝国が成立する以前から、この場所で湧き続けているのだそうです。

 奥庭園は皇族の方々の私空間。

 貴族ですら滅多に立ち入ることのできない特別な場所です。


 私のまわりには、皇帝御一家がいます。

 さらに、アロド公爵、ラインツェル公爵、ローゼント公爵――帝国貴族を代表する三公爵様が揃っています。

 そして、アロド家の御令嬢であるディレーナ様。

 皆、正装です。

 今や遅しと、クウちゃん一行が現れるのを待っています。

 ローゼント公爵は今日のために、急遽、領地から戻られたばかりだそうです。


 私はなぜか、そんな中にいます。


 はい。


 どう考えても、どこから見ても場違いです。

 でも、なぜか、私も正装して、一緒に立っているんです。

 化粧と着付けは、アロド家のメイドさんがすべてやってくれました。

 きっと、今、着ているドレスを破いたりしたら我が家は破産します。

 借りたアクセサリーひとつなくしても、たぶん、同じです。

 私、今、たったひとつのミスで、破産確定なんです。

 おかしいですよね。

 おかしいです。

 もう正直、頭がおかしくなりそうです。


 待っていると、ふいに空気に揺らぎを感じました。


 その空気の揺らぎの中から――。


 クウちゃんたちは現れました。


 クウちゃんと――。

 竜の里でお会いした人たち。


 シンプルなスーツ姿のナオさん。

 ナオさんとは以前の撮影の時に竜の里でおしゃべりして――。

 その時に少しだけ仲良くなりました。


 メイドさん――このメイドさんは、竜の人ですね、確実に……。

 角でわかります……。


 真紅のドレスを着た方は、初めて見ます。

 この方がエリカ様ですね、きっと。


 そして――。


 一目見た瞬間から目を離すことのできない――。

 女神の化身としか思えない存在――。


 私は、彼女の名前も知っています。

 ユイさんです。

 竜の里にいた時、彼女の撮影をしたのでよく知っています。

 いろいろおしゃべりもしました。

 その時は、ここまでの神聖さは感じなかったのですが――。

 これが本来のユイさん、ということなのでしょうか――。


 あ、ユイさんと目が合いました。

 私はペコリとお辞儀します。


 するとユイさんが、明るい声で言いました。


「あれ? マリエちゃん? 今日はマリエちゃんも一緒なんだね。よかった。知っている子がいてくれて」


 すぐにユイさんはマナー違反に気づいて、


「失礼しました」


 一礼すると、姿勢を正しました。


 私は心の中で叫びました。


 ユイさぁぁぁぁん!

 なんてことを言ってくれるんですかぁぁぁぁぁぁ!


 だって私、必死に秘密にしてきたんです。

 ユイさんたちと実は知り合いってことは。

 だって、約束しました。

 竜の里でのことは、絶対に、誰にも、言わないって。


 なのにぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!


 ああああぁぁぁぁぁぁあああああ!


 ディレーナ様やアリーシャ殿下の方を見なくてもわかります。

 わかります!


 もうダメです。

 おしまいです。


 私は嘘つきの裏切り者として、きっと処分です。


「あ、えっと……。今のはアレですよ、アレ。私が秘密にしておいてってお願いしたからなので気にしないで下さい。あはは」


 クウちゃんが私のために、笑って誤魔化してくれます。

 有り難いです。

 有り難いですが、私にもわかります。

 礼儀がないです!

 なさすぎです!


 と思ったら。


「安心しろ。今さら細かいことは気にせぬ。それよりも話を進めろ、クウ」


 皇帝陛下が面倒くさそうに、手をひらひらと振りました。


 許された?


 の、でしょうか……。


「あ、はい。ですよね。えっと、じゃあ、紹介させていただきます」


 クウちゃんが一緒に来た皆様を紹介していきます。

 ジルドリア王国のエリカ王女殿下。

 聖女ユイリア様。

 竜騎士ナオ様。


 ……竜騎士というのは、なんでしょうか。

 私、ナオさんのことは知っていますが、竜の里では、竜騎士なんて言葉はまったく出てきていませんでした。

 たしかナオさんはカメのはず……。


 そもそもカメといえばユイさんもカメでした。

 今のお姿からは信じられませんが……。


 や、やめておきましょう。


 余計な事を考えて、ポロッと口からこぼれたら大変です。


 私は心を無にして、ただここにいればいいのです。


 なんにも考えず。

 なんにも見ず。


 そうだ。


 こんな時こそ、お母さんの奥義です。


 空気の奥義!


 姿勢を正しくして、ただ微笑む!


 ああ、でも……。


 カメって、一体、なんだったんでしょうか……。


 カメとは?


 謎です。


 そんなこんなの内、エリカ様とユイさんの挨拶がおわりました。

 ナオさんはペコリとお辞儀しただけです。


「よくぞ来てくれた。本日はあくまで非公式、精霊の導きによる楽しいお茶会だ。どうぞ気楽に過ごしてほしい」


 陛下が両腕を広げて、気楽な様子で言います。

 その後、前に出て、握手を求めます。


「バスティール帝国皇帝、ハイセル・エルド・グレイア・バスティールだ。お会いできたことを嬉しく思う」

「こちらこそ。お招きいただき、ありがとうございます」


 最初に握手をするのはユイさんでした。


 うわぁ。


 ユイさん、すごいです。

 皇帝陛下を相手に、完全に自然体です。

 背丈はずっと低いのに、むしろユイさんの方が大物に見えてしまいます。


 ユイさんには光の力があって、光の力は無意識に人に影響を与えてしまうそうです。

 私たちは、光の力を抑える指輪を身に着けています。

 それなのに圧倒されます。


 その後はエリカ様が握手をしました。

 エリカ様も堂々としたものです。

 ついこの間まで、帝国と王国は戦争寸前だったのに。

 私なら恐ろしくて、そもそも来れません。


 ナオさんは、3歩下がってメイドさんと同じ列に立ちました。

 握手はしないようです。


 皇帝陛下の後は、皇妃様が握手を交わしました。

 ああ、これ、長く続くのかな。

 と私は思ったのですが、大人の挨拶はお二人だけでおわりました。


 アリーシャ殿下が前に出ます。


「バスティール帝国第一皇女、アリーシャと申します。

 お会いできて光栄ですわ。

 さあ、ユイリア様、エリカ様、ナオ様。

 どうぞこちらに。

 お茶会の用意はできておりますわ。

 あとは、わたくしたちだけで楽しく過ごしましょう」


「じゃあ、私はこれで! まったねー!」


 陽気に手を振って、クウちゃんは消えました。

 本当に。

 パッと。

 姿が消えてしまいました。

 わけがわからないけど、クウちゃんはいつでもわけがわからないです。

 今さら気にしても意味がありません。


「――行きますわよ、マリエ」

「あ、はいっ!」


 いけないいけない。

 ついボーッとしてしまいました。


 ディレーナ様に促されて、私はアリーシャ殿下たちの後に続きます。

 5メートルほども遅れてしまいました。


 道中……。

 ディレーナ様に囁かれました。


「……聖女様とのことは、後から聞かせてくれますのよね」


 私、おわりました。

 これで何回、おわったんでしょうか。


 だって言えません。

 約束しましたから。


 でも、言わないってことは、ディレーナ様を怒らせるってことですよね。


 ああ、もういいや。

 自棄です。


「……すいません。……それだけは無理です」


 私は勇気を振り絞って答えました。

 だって、約束を破るなんて最低ですよね。

 私には無理です。


「ええ。結構です。だからこそ友人と成り得たのでしょうね、貴女は。わたくしとのことも頼みますわね」


 あれ、私、助かったんでしょうか。

 ディレーナ様は楽しげに囁くと、後は何も言ってきませんでした。


 よかったぁぁぁぁぁぁ!


 私は胸をなでおろして、ふと思い出します。


 そうだったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


 私の本番はこれからだぁぁぁぁぁぁ!


 ディレーナ様を褒め称える仕事が、始まるのでした……。




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― 新着の感想 ―
亀騎士ナオ 竜騎士ナオ ケモナー騎士ナオ クウちゃん、これのどれかで爆笑してくれ
2025/05/12 11:08 たーっ!ヽ(°∀。)ノ
[一言] マリエちゃんには永遠とも思える数時間の始まりですね(笑)
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