表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

285/1361

285 ナオの期待

 私の緊張は、今、ピークに達しようとしていた。

 なぜならば。

 ユイとエリカがすでに臨戦態勢に入っている。

 2人はいつでも手拍子可能だ。


 あとは――。


 ナオの合図があれば、期待が始まる。


 ああああ……。


 ダメ……。


 なんだか体が勝手に、心とは裏腹にウズウズしてくる……。


「クウ」

「はい」


 ナオに名を呼ばれて、私は答える。

 来るの?

 来ちゃうの?


「帝国は、獣人も平和に暮らしていると聞いた。私は期待している。ド・ミの国の生き残りもいるかも知れないと」

「あ、え」


 私は愕然とした。

 まさか――。

 ナオともあろう者が、真面目な話……?


「だから、ド・ミの服を着ようと思った。もしかしたら、奇跡的に、誰かに会うことができるかも知れないと思って」


 ユイとエリカが手拍子の臨戦態勢を解除して、静かに手を下ろした。


「クウの知り合いにはいる?」

「んー。そうだねぇ。それらしい話はなかったかなぁ」

「残念」

「あ、でも、ナオと同じ種族の人ならいたよ」

「銀狼族?」

「うん。帝国の隠密部隊にいてね、たまーに姿を見かけるんだけど、もう本当にまさに忍者で凄まじい身体能力だった」


 フロイトを最初に成敗した時、ウェルダンとの初遭遇の時。

 どちらもシュンと現れて、シュンと消えた。

 まさに風だった。


「なんていう名前?」

「ごめん。ちゃんと話したことはなくて」

「残念」

「若い女の人だったよ。20歳前後だと思う。あと、確実に強い」

「会ってみたい。もしかしたら、ニナお姉ちゃん様かも知れない」

「……隠密部隊の人だからどうなるかわからないけど、陛下に頼んでみるよ」

「お願い」

「でも、そうだよね……。ナオにもいろいろあるんだよね……。私、完全に誤解していたよ」

「大丈夫。わかっている」

「そかー」


 今回のお茶会をキッカケに。

 もしかしたら、ナオの止まっていた時計が動くのかも知れない。

 それがどんなことになるかはわからないけど。


「さあ、クウ。いくよ」

「ん?」


 なにが?


「クウのことはわかっている。クウには期待している」

「え? あ、うん。私も頑張るね……」


 気がつけば、ナオとユイとエリカが手拍子の準備を整えていた。


「期待」


 ナオが言う。


 ま、まさか。


「期待。期待。キ・タ・イ。キ・タ・イ」


 手拍子と共に始まる。

 期待の宴が。


 あああああぁぁぁぁああああ!


 キ・タ・イ。キ・タ・イ。

 キ・タ・イ。キ・タ・イ。


 体が勝手に動くぅぅぅぅ!


 まるで。


 まるでこれを待ちかねていたかのように。

 体がポーズを決めてしまう。


 マッスル!

 マッスル!


 それは期待のリズムなのぉぉぉぉぉぉぉ!


 あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああぁぁぁぁ!


 何分も、やってしまった……。


 やがて手拍子がおわる。


「クウは好きもの」

「ううう……。体が反応してしまうのぉ……」


 私は四つん這いで力尽きた。

 泣きたい。

 でも、楽しかったの……。


「その乗せられやすいところ、クウは相変わらずですわね」

「ホント。変わらないよねー。クウは」


 エリカとユイが笑う。


 いや、うん。


 だって私、転生してまだ半年も経っていないからね。


 まあ、大人ぶったところで、エリカもユイもカメなんですけどね!


 しばらく落ち込んだ後。


 気を取り直して、さらにいろいろと話した。


 まずはエリカだけど、なんと竜の人を従者として連れていくことになった。

 お世話になっておいて従者なんて、普通ならさすがに失礼な話だ。

 却下するところだけど……。

 エリカはちょうど現代の礼儀作法を竜の人たちに教えていた。

 その中には従者の立ち振舞というものもあって、なぜか従者の立ち振舞を気に入った竜の女の人がいたのだ。

 彼女が実地訓練としてエリカへの同行を立候補していたのだ。

 フラウに確認を取ったところオーケーをくれたので、そう決まった。

 調子に乗ったエリカが、彼女の背に乗って帝都に行くと言ったのは、さすがに却下させていただいたけれども。

 帝都にはマーレ古墳から姿を消して飛んでいく予定だ。


「でもクウ。わたくし、派手に登場したいんですの。ほら、ファーストインパクトって大切でしょう? そこで度肝を抜かせれば、もやは勝ったも同然ですし」

「勝ち負けを決める場所じゃないからねー。仲良くするための場所だからねー。ちなみにエリカにあげたミスリルのアクセサリーは向こうも持ってるから、装飾品でマウントを取るのは無理だからねー」

「クウ、酷いですわ! それならわたくしはどう勝利すればよいのですか!」

「もー。ユイ、なにか言ってやってよー」


 めんどくさいのでパス。


「私は別に。お茶会は、クウが行けって言うから行くだけだし」

「仲良くしてね?」

「うん。わかった。じゃあ、仲良くするよ」

「というわけだからエリカ。1人だけ力んでも浮くよ?」

「……うう。酷いですわ」

「だから、仲良くすればいいよね? お互いに誤解があったけど、見事に誤解は解けましためでたしめでたしでいいじゃん」


 本当にもう、どうしてマウントばかり取りたがるのか。


「それでクウ、光の大精霊の子はどうなったの?」


 ユイが私にたずねる。


「ユイたちを送った後、精霊界から連れてくる予定。まずは、こっそりとサプライズでユイの姿を見せようと思ってねー」

「そっか。なら、お茶会の後で会えるのを楽しみにしているね」

「名前はシャイナリトーね。リトでいいと思うよ。大精霊ではあるんだけど子犬みたいな子だから可愛がってあげて」


「……ねえ、クウ、ユイ。光の大精霊様は、当然、わたくしにも紹介していただけるのですわよね?」

「エリカはダメ」


 迷わず私は答えた。


「なぜですの!?」

「だってマウント取りの道具にするでしょ?」

「少しくらい良いではありませんか!」


 エリカが吠えると、それまで黙っていたナオが口を開いた。


「エリカ。遠慮無用は私達だけ。他の人は駄目」

「……う」


 ナオに見つめられて、エリカはたじろいだ。

 そしてうなだれる。


「わかりましたわ……。そうですわね……。その通りですの……。なんだかわたくしだけ扱いが酷い気もしますけれど」

「酷くない。普通」

「わたくしだって、期待くらいさせてほしいものですわ」

「期待?」


 ナオが首を傾げ、それから私を見る。


「や、やめてね……? 私、もう期待はいいから……」


 またやるの?


 またやっちゃうの?


 と思ったらナオの視線がエリカに戻った。


「エリカは平和の女神。帝国と王国の誤解を解いて、ユイも一緒に握手する。これですべて解決。将来は平和の女神像のモデルになる」

「……そう言われてみると、なかなかに良いアイデアですわね」

「カンペキ」


 ナオのおかげで、ようやくエリカが納得してくれた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 〉ユイとエリカが手拍子の臨戦態勢を解除して、静かに手を下ろした 条件反射になっちょるw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ