284 エリカは遠慮しない
翌日の昼、冒険者ギルドの前で、禁区調査に出かける『赤き翼』を見送る。
「ブリジットさん、みんな、がんばってねー!」
「だからクウ。おまえ、そこはどう考えても『ロックさん、みんな』だろうが! 長い付き合いの俺の名前を出せ!」
「いってらっしゃーい!」
「行くぞ、ロック。クウちゃん、また一緒に飯くおうなー」
「うん、ルルさん。楽しみにしてる」
こういう出発って普通は早朝な気もするけど、昨日は夜遅くまで『陽気な白猫亭』で騒いでいたからしょうがない。
みんなを見送って、私はお店に戻る。
今日もお店にはヒオリさんがいてくれるので安心だ。
でも残念ながら午前の内に注文はなかった。
その確認をして、私はまた出かける。
今日は竜の里でお茶会の打ち合わせだ。
転移ですぐに到着。
約束はしていなかったけど、幸いにもみんないてくれた。
フラウの許可を取ってナオの部屋に集まる。
3人とも甲羅アーマーを装着した、カメの子だった。
「とりあえず衣装なんだけど」
生成した衣装をアイテム欄から取り出す。
ナオとエリカの分だ。
ユイの衣装は、以前に作った太古の神子っぽいヤツが完璧にユイに似合うので今回もそれを使う予定だ。
ナオの衣装は、かつてのド・ミの国の礼服一式。
エリカの衣装は真紅のドレス一式。
どうだろうか……。
気に入ってもらえるかドキドキしつつ、私は2人の言葉を待った。
「私のは万全。さすがはクウ。ありがとう」
よかった。
ナオは一目で気に入ってくれた。
エリカは真剣な顔でドレスを検分する。
裁縫スキルでの生成品なので失敗はないはずだけど、あまりにエリカが真剣なのでどうだろうかと心配になる。
しばらく待っていると、エリカが手を止めて私に顔を向けた。
「さすがはクウ。完璧ですの。これほどの高品質のドレス、わたくしのクローゼットにもありませんの」
「ふふー。でしょー。最高品質にしたからね」
どうやらエリカのおメガネに叶ったようだ。
さすがは私。
と思ったら。
「でも、一着だけですの?」
と首を傾げられた。
「ん? 一着でいいでしょ?」
「当日はお茶会があって、夜には晩餐会をするのですよね?」
「うん。その予定でお願いしてきたけど」
「なら着替えませんと」
「あ、そういうものなんだ?」
「わたくし、王女ですのよ。お茶会と同じ衣装では恥ずかしいですの」
そういうものなら、しょうがいないか。
もう一着、作ることになった。
「はい。これでいい?」
レシピ通りに、さくっと作って渡す。
「……クウは本当にゲームキャラに生まれ変わったのですのね」
「うん。そだよー」
お陰で気楽に生きています。
「ということは他のデザインでも作れまして? たしかゲームには、たくさんのレシピがありましたわよね」
「作れるけど」
結局、全種類作ることになった。
すべて真紅で20種類!
遠慮なし!
さすがはエリカ!
「くふ。くふふふふふふ。ああ、こんなにもドレスに囲まれていると、やはりわたくしは華やかな場所でこそ生きるべきだと実感いたしますの」
疲れたけど、完全にエリカは王国に帰る気なのでよしとしよう。
「あと、クウ。小物もお願いしたいのですわ」
「えー。まだ作るのー。そんなの、お茶会でいるものじゃないでしょー」
「そんなこと言わないで。ね?」
「もうめんどいよー」
「クウー。ねえ、クウったらー。ほら、前世でもクウが大好きだったスリスリをして差し上げますの。スリスリ、スリスリ」
「あーもう! うっとうしいー! それ酔っ払った時のエリカなだけでしょー! 私が大好きだったことはなーい!」
結局、作った。
あれもこれも。
靴から始まって、バッグにハンカチにアクセサリー。
スリスリとモミモミで何十個も作らされた。
「くふふ。くふふふふふふふふふふふふ! あああああ! 勝ちました! これで確実に勝ちましたわ!」
「さすがに疲れたよ、私は……」
生成にも体力は必要なのだ。
しかも繊細なものなら尚更。
ユイとナオは笑顔でずっと見ていた。
「ユイー、ナオー、なにかエリカに言ってやってよぉ」
私が愚痴るとユイがクスリと笑う。
「なんだか懐かしくて。前世でも同じだったよね。エリカが無茶振りして、何故かクウがそれに全力で応えて」
まあ、うん。
そうだったね……。
「ごめん、ナオの分はぜんぜん作ってないけど、ほしいものはある?」
「私はこの礼服だけでいい。感謝」
「ユイはどうしようか? 予定ではお茶会だけで、その後はできれば光の大精霊さんと仲良くしてほしいんだけど……」
「クウの言う通りにするよ。どうすればいい?」
「んー。成り行き次第としか」
正直、どうなるかは私にもわからない。
「とりあえず私は、着替えはいいや。神子の服ですべてこなすよ」
「了解」
「ユイもドレスを着るべきだと思いますわよ? 純白のドレスでわたくしと並べば会場の中心となることは請け合いですの」
「ユイの場合、ドレスなんて着なくても中心になると思うよ」
たぶん、確実に。
とにかくみんな、ユイの動向を気にしているし。
「……それはそうですわね」
「というか晩餐会にユイが参加したらエリカは確実に目立たなくなるよ?」
「ふむ。そうですわね。とはいえ、正直、敵国同然の帝国で、1人きりで立ち回るのはさすがに不安ですし……」
私が参加しないことは、すでに伝えてある。
「ねえ、クウ。ナオはどういう予定なの?」
「あ、そうですわね! ナオは晩餐会にも出席しますのよね?」
ユイとエリカに聞かれて、私は困った。
「未定」
としか言いようがない。
「と、言いいますと?」
エリカが首を傾げる。
「決めていないから、成り行きとしか……」
「またいい加減ですのね」
「クウらしいね」
エリカにはため息をつかれて、ユイには楽しそうに笑われた。
「いやだってさー、ナオの竜騎士って、カッコいいからつけただけの名称だよね。どうにも話題に出し辛くて。設定とか、なんにもないし」
「そこは単純に竜に騎乗する騎士でよいでしょう? ナオのことは正直にド・ミの国の生き残りということでよいのではなくて?」
まあ、それはそうか。
ナオはド・ミの国の礼服を着てお茶会に行くのだし。
それはナオが自分で選択したことだ。
ここで、ずっと黙っていたナオが口を開いた。
「クウ。質問がある」
「なに?」
「私には期待したいことがある」
「え」
期待?
期待しちゃう、の……?
やめて、お願い……。
すっ、と――。
ユイとエリカが手拍子の準備をした。




