272 シャイナリトーと出会う、そして対決へ
ユイの家についた。
床に転移陣の広がる精霊の間と呼ばれる部屋だ。
様子は以前と変わらない。
ユイがいなくなっても、余計な手は加えられていないようだ。
「さて」
では魔力感知でもして、光の大精霊さんを探すかなー。
と思った瞬間だ。
ドアをすり抜けて小さな女の子が現れた。
ふむ。
私、かしこいからね。
一目でそれが、光の大精霊シャイナリトーさん、ちゃん? だとわかったよ。
なにしろ、白い。
髪も獣耳も尻尾も和風ちっくな衣装も、純白だ。
まさにゼノの対極にいるような子だ。
ただ、ゼノは人族だったけど、この子は獣耳と尻尾のある獣人の姿だ。
小さな耳は、なんだかフェレットっぽい。
背丈はフラウと変わらない。
5歳児くらいだ。
丸っこくて可愛らしい顔立ちだけど、かなり気は強そうだ。
「やっほー。私、クウ。君、リト?」
手を振って、笑顔でフレンドリーに挨拶してみる。
返事はない。
銀色の瞳が、じっと私のことを見つめる。
ふむ。
馴れ馴れしくしすぎたかな。
あらためて、丁寧に挨拶してみようかな?
と思っていると。
「おまえ、なんなのです? 人の家に土足で上がりこんで」
尖った声が返ってきた。
「それはお互い様だと思うけど……」
ユイの家だし。
「だいたいおまえ、なんなのですか。どうしてそんなにいろいろな属性をまとっているのですか。土に、水に、火に。風に……。闇に……。光まで」
「と、言われても。元々?」
「元々ってなんなのですか!」
「私に言われても」
実は、自分でよくわかっていないんだよね。
「おまえのことなのです!」
「もー。いきなり攻撃的にならないのー。まずはお話しよ?」
「もうしているのです! 答えるのです! リトはおまえみたいな光の存在は、見たことも聞いたこともないのです!」
「私、最近だしね、こっちの世界に来たの」
最近といっても、もう3ヶ月は経っているけど。
「あらためて自己紹介するね。私は、クウ。精霊のクウ・マイヤ。全属性なのは、たぶん私が精霊姫だからだね。ゼノが言うには次の女王様らしいよ」
「姫に……じょ、女王様……? 出鱈目を言うな、なのです!」
「うおっと」
次の瞬間、リトの体から放たれた10本もの光の刃が襲いかかってきた。
ゼノと初対面した時といい、いきなり攻撃的だ。
軽いステップで回避する。
「生意気な! 避けずに死ねなのです! この偽物精霊! 女王様なんて――! 女王様なんてありえないのです!」
続けて攻撃された。
残念ながらお話し合いは無理かな?
とすれば。
また昏睡で眠らせて、どこかに連行しようか。
でもそれだと簡単すぎるか。
どうせなら、大精霊の戦闘力をしっかりと確かめたい気もする。
「とりあえず場所を変えようか。リトもここだと本気を出せないでしょ」
先程からの攻撃は、すべて霊的なものだった。
殺意はあっても本気ではない。
建物に傷がつかないように物理的な作用を無くして放っている。
「死ねなのです!」
「麻痺」
緑魔法「麻痺」をリトにぶつけた。
効果はテキメン。
レジストなしでフルに入った。
「あにゅぅ……」
倒れ込んだリトを肩で担ぐ。
荷物っぽい扱いだけど、いきなり攻撃してきたわけだし、お姫様抱っこをしてあげる必要はないだろう。
窓を開けて空に浮いた。
姿を消す。
聖都を出て、定期的に「麻痺」をかけ直してリトを拘束しつつ、街道から外れた人気のない荒野に降りた。
ここでリトを地面に置いて、麻痺を解いてあげる。
私はソウルスロットを変更。
小剣武技を入れて、神話武器『アストラル・ルーラー』を手にした。
「さあ。ここならいいよね」
「…………」
しゃがみこんだままリトが私を見上げる。
銀色の瞳で私を見つめながら、何度かまばたきする。
動く様子はない。
「どうしたの?」
「おまえ……。おまえは、本当に全属性なのです?」
「そうだけど?」
少なくとも、そう言われている。
「女王様なのですか?」
「さあ」
ぶっちゃけ違うけど、将来のことはわからないよね。
ゼノからは、なにかある度、都合よく女王サマ扱いされているし。
「そんなこといいから、早く武器を出しなよ」
我ながら上から目線だけど、私の緑魔法をまったくレジストできない時点で、すでに実力差は明白だ。
あとはリトが満足するまで打ち合うか――。
小さい見た目の子に気は進まないけど、叩きのめして降参させるだけだ。
「ほら」
アストラル・ルーラーを軽く振って急かす。
リトは動かない。
ふむ。
あんなに殺す気満々だったのに、どうしたんだろうか。
お話する気になってくれたのなら、それはそれでいいんだけど、大精霊の戦闘が見れないのは残念だ。
今後のためにも、どれくらいの力を持っているかは知っておきたい。
なので私は挑発してみた。
「私が満足いくまで、たっぷりと遊んであげるからさ」
にんまりと笑う。
さあ。
激怒して襲いかかってくるのだ!
と思ったら――。
リトの銀色の瞳が、より一層に大きく開かれて……。
獣耳と尻尾が波打つように揺れて……。
それはまるで怯えた子供のようで……。
土下座された。
え。
いきなりのことに私も固まった。
「お、お……。お許しください女王様! リトは、リトは女王様のかわいいペットで奴隷なのです! なんでも言うことを聞くので、女王様のお遊び一万回拷問スペシャルは許してほしいのです! もうお遊びは嫌なのです! 生意気を言ってごめんなさい! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいなのです!」
…………。
……。
えー。
先代の精霊女王……。
苛烈な武断派だってゼノから聞いてはいたけど……。
なにやってたのさぁ……。
これにはクウちゃんさまもドン引きですよ。
ドン引き。




