270 やっぱり行こうと思った
昨日、私は褒められた。
お姉さまとダンジョンに行って、異常発生した魔物を全滅させて、そのことを陛下に報告した時だ。
バルターさんにも褒められた。
皇妃様にも褒められた。
みんなに褒められた。
だけど、私にはわかるのだ。
私はかしこいから、わかってしまったのだ。
さすがは、かしこい精霊さんなのだ。
うん。
3人とも頑なに褒めているだけと言っていたけど……。
私はお説教をされたのだ。
笑顔でコンコンと2時間ほど。
もうね。
なんなのかという話ですよ。
私は頑張りました。
一晩じっくりとマーレ古墳に潜って、しっかりと、取りこぼしなく異常発生した魔物を全滅させた。
幸いにも湧き続けることはなく、全滅させればダンジョンは落ち着いた。
次に湧くのは、いつも通りの魔物だけだった。
それで家に帰って、少しだけ寝て。
陛下に報告に行ったのだ。
そうしたら、お褒めの言葉をいただいたわけだ。
いや、わかりますよ。
うん。
今回は上手く行ったけど、私が独断で戦ったことで――。
魔物がさらに大発生したり、とか。
魔石鉱山として大切な存在であるダンジョンが崩壊したり、とか。
私の攻撃に巻き込まれて死者が出たり、とか。
うん。
魔物がさらに発生したら、さらに倒しますよ、それは、ね?
ダンジョンが崩壊したら逃げますよ、それは、ね?
攻撃はね、そういうこともあるといけないので、わざわざ単体攻撃にしたんだよ、だから時間がかかったんだよー。
ほうこく!
れんらく!
そうだん!
ほう・れん・そう!
しっかり行えと言われましたとも。
社会人の常識ですよね。
でも、私は社会人じゃなかったから、そういうのは知らないんだよー。
社会人生活なんて、異世界なんだよー。
……まあ、異世界はここですけれども。
まあ、思い出してみますと、ゲームでリーダーをしていた時には、独断専行するメンバーにキレたこともありますが。
そう考えてみますと、まあ、わかるといえば、わかりますが……。
領分の問題もあるよね。
たとえ命懸けでも、それを成すべき人たちがいるんだよね。
まあ、うん。
本当に何度も、ありがとうって言われましたけどね。
説教ではないって言われましたけどね。
いざという時には、好きにしてくれていいと言われましたけどね。
願い事があれば聞いてやるとも言われたし。
信頼はされているってことなのかな。
いろいろ言われつつも、一応は……。
まあ、いいや。
深く考えると疲れが増すので、そういうことにしておこう。
私は信頼されているのだ。
私はよい精霊さんなのだ。
というわけで私は、ヤケ食いのために『陽気な白猫亭』に来ていた。
芋を、食う。
クウちゃんだけに、クウ。
「クウちゃん、ホントに今日はやさぐれてるねー」
「私はねー、よかれと思って頑張ったのにさー。なのにさー」
「あるよねーそういうことー」
午後の中途半端な時間。
お店にお客さんは私1人だった。
なのでメアリーさんも話に付き合ってくれる。
「私も最近やっちゃってねー」
「メアリーさんが?」
「私も愚痴ってもいいー?」
「いいよー」
「実はねー。同じ獣人のよしみで仲良くなった旅の商人がいたんだけどさー。そいつに騙されてねー。はぁ」
「……なにされたの?」
「秘宝を買っちゃった」
「おおー。すごいじゃーん」
「本物ならね」
「ああ……」
なるほど。
「滅びた獣人国の宝って言われてねー。本当は気楽に売れるものではないんだけど、どうしてもお金が足りなくなって、やむを得ず売ることにしたって言われてねー。2本の牙のネックレスだったんだー。元は3本だったんだけど、戦禍の中で1本が失われた、物語のある品って言ってねー」
「いくらだったの?」
「金貨3枚もしたんだよ!」
「高いねー」
ああ、ごめん、メアリーさん。
今、私、「安い」って心の中で思っちゃったよ……。
金貨3枚なんて大金だよね……。
私、金銭感覚が完全に麻痺してるね……。
「それでさー。鑑定してもらったら偽物って言われて。最初は信じなかったんだけど、表面はただの塗装だから爪を立ててみろって言われて……。立ててみたらね……。見事に剥がれたわけなんだよぉぉ……。中は灰色の石でしたとさぁ……」
「あら……。やられちゃったね……」
「ホントだよ。もう最悪。やっぱ人間、堅実に稼いで、身の丈にあったものを手に入れていくべきだと勉強させられたよ」
「私も気をつけないとねー」
「だねー。クウちゃんもお店やってるから、そういう話、きっと来るよー。糸みたいな細目で笑うと口が三日月みたいに広がるやたら愛想抜群の中年狐が来たら、クウちゃん、ぶん殴ってやって」
「うん。わかった。ぶん殴ってやるよ!」
しばらくおしゃべりしているとお店に団体のお客さんがやってきた。
お腹も膨れて、気も紛れたので、私はお店を出た。
通りで背伸びをする。
すると、午後の時間なのに、まるで朝方のような涼しい風が吹いた。
んー。
これは、うん。
面倒だけど、一度、精霊界に行ったほうがよさそうだ。
まずはゼノに現状を確認しよう。
その上で問題があれば、なんとかするしかない。
なにしろ今は夏だ。
涼しくて過ごしやすいのはよいことだと思うけど、違和感を覚えすぎて、正直、嫌な予感ばかりが募る。
先日のダンジョンの異常発生にも、関わりがあるのかも知れないし。
「仕方ないか……」
私は姿を消して浮き上がる。
そのまま帝都を出て、近くの森に向かった。
森の中で泉に飛び込む。
くるりと視野が変わる。
無限につづいた水の中のような世界――。
精霊界に入った。
メリークリスマス\(^o^)/
というのは今日だっけ明日だっけ両方言っとくかの精神\(^o^)/
鶏の丸焼き食べたい(´・ω・`)




