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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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267 私、思う

 実のところ、夏なのに涼しい理由には心当たりがあった。

 光の大精霊が仕事をしていないせいだろう。

 ゼノが今、ぶん殴って仕事をさせようとしているはずだ。

 なのでしばらくすれば、季節に合った気温に戻るだろう。


 見に行ってみようかなぁ……。


 とは思うのだけど、他人の領分に土足で踏み込むのはよくないことだ。

 なので思いつつも、動くのはやめておいた。


 というわけで、次の日も私はお店を開けた。


 お店は静かだ。


 あんまりお客さんは入ってこない。


 ほんの10日前は、大盛況だったのにね……。


 棚には頑張って、それなりに商品を戻した。

 すべて価格は2倍だけど。

 やってきたお客さんには驚かれたけど……。

 うちがウェーバー商会と取引を始めたことは知っていて、私が説明しなくても勝手に納得してくれていた。

 他のお客さんもそんな感じだった。

 むしろ、乗っ取られていなくてよかったと安心してくれた。

 ウェーバー商会は、何日も前からチラシをばら撒いて、精霊ちゃんぬいぐるみの販売を告知していたようだ。

 そして私のオーケーをもらったことで、今日から営業開始しているはずだ。

 きっと大賑わいだろう。


 おかげで私のお店は平和になった。

 うん。

 よいことだ。


 混みすぎて困っていたわけだしね。


 …………。

 ……。


 でも、暇すぎるのは悲しいね。

 やることがない。

 まあ、在庫を増やすというやることはあるんだけれども。


 その日は1日かけて、在庫を増やしておわった。


 夜、ヒオリさんと『陽気な白猫亭』に出かけて、夕食を取りつつ考える。

 いかに、お店を営むべきか。

 以前から考えていることではあるのだけど。

 繁盛した途端、めんどくさくなって投げ出してしまったわけだ。

 おかげでライセンス料が入ってくるようになったので、生きていくだけなら楽になったのだけれど。

 しかし、それではやりがいがない。

 人生にはやりがいが必要だ。

 しかもエミリーちゃんを雇うのならば尚更だ。

 いい加減にはできない。

 そのことをヒオリさんに相談すると、心底驚いた顔で、


「……え? いい加減にするつもりではないのですか? まさか店長、ちゃんとするつもりなのですか?」


 と言われた。


 まったく心外な言い様だ。


 私はいつでもちゃんとしているのに。


「ちゃんとするつもりならば、まずは会計の勉強から始めて……」

「あ、そこはいい加減でいいから」

「あ、そうですか……」

「私ね、うん。私がいない時も、ちゃんと回るお店にしたいの」

「それは簡単な話ですよ?」

「というと?」

「店長が留守にする時には、十分な在庫を頑張って作っておいていただければ、あとは売るだけですので。帰る日時をだいたいでもお知らせしていただければ、武具の注文もそれに合わせますし」

「できれば、私がいなくなっても回るお店にしたいんだよねー」


 エミリーちゃんが手に職を付けられるような何か。

 あるといいんだけど……。


「店長、それは考えなくてもいいかと」

「どうして?」

「ふわふわ工房は、そもそも店長あってのお店ですし」

「でもそれだとヒオリさんだって困るよね。将来的にはエミリーちゃんも」

「某は、店長が精霊界に帰るのであれば、故郷の森に帰りますよ?」

「え。そうなの?」

「はい。学院の仕事に一段落さえつけば帝都に未練はありませんし。エミリー殿もおそらく同様ですよ。そもそもエミリー殿は魔術師志望です。少なくとも、店員として人生を送るために帝都に来るわけではないでしょう」

「むーん」


 そう言われればそうかー。


 私はテーブルにへたった。


「ところで店長には、そういう予定があるのですか? いなくなるという」

「ううん。ないけどー」

「なら、そこまで考える必要はないかと」

「そうかなー」

「はい。エミリー殿についても、仕事を教えるより、魔術や戦闘術を教えた方が遥かに喜ばれると思いますよ」

「……一体、どんな子に育つんだろうね、それ」

「それは店長のように、かと」

「私?」

「はい。セラ殿もアンジェ殿もエミリー殿も、皆、店長のような存在を目指して努力していると思いますが」

「そかー」


 まあ、私が目標だって、言われた気もするけど。


「じゃあ、お店はどうしようねー。どうやってそれなりに繁盛させて、それなりに楽しく経営していくか……」

「今のままでよいのでは? ウェーバー商会が立ち上げたぬいぐるみマートの上位店として存在していけば十分かと」

「それじゃあ面白くないよー。もっとこう斬新で、面白くて、あんまり大変じゃない工房にしたいのー」

「なかなかに難しいちゃんとしたお店ですね……」


「よっ、クウ!

 なにガラにもなく難しい顔してんだよ。

 ヒオリちゃん、こんばんは」


 そこにロックさんが来た。

 いつものことなので、そのまま相席してくる。


「はい。こんばんはです」

「おーい。私に、こんばんは、はー?」

「だから、なにやさぐれてるんだ、おまえは」

「お店の今後を相談していたのー。真面目な話で疲れていたのー」

「……店の今後ねえ。別に今のままでいいだろ? 知る人ぞ知る奇跡の名工房! カッコいいじゃねーか。それよりおまえ、明日はお店を開けるのか? 次の仕事の前に装備の点検を頼みたいんだけどよ」

「いいけど……。私のところでいいの?」

「おう。今回は、ブリジットの店もあるしアーレに往復するだけの時間がなくてな。今回はおまえに命を預けるぜ」


 ロックさんたちは、いつもは、城郭都市アーレに住む腕利きの鍛冶屋マクナルさんのところで武具の手入れをしている。


「いいよー。任せてー。午前中に来てくれるといいかもー」

「わかった。頼むな」

「……で、ブリジットさんは?」

「今夜はこないぞ」

「なんで!?」

「なんでと言われても、あいつには家族がいるからなー」

「あー。そうだよねー」


 残念。

 なぞかけ合戦、したかったけど。


「……なあ、クウ。おまえって1人で帝都にいるんだよな?」

「うん。そだよー」

「その割には元気だよな、おまえ」

「まあねー」


 本当に1人きりだったら、もっと不安になることもあると思うけど。

 同じ世界には、ナオとユイとエリカがいる。

 その事実だけで、とても心強いのだ。

 再会もできたしね。

 3人とも、カメになっちゃったけど。


 あとそういえば、お店の運営については3人に相談して前世の知識を借りる予定だったよそういえば。

 今度、聞いてみよう。


 覚えていたら……。


「某がいますからね! 某が店長の家族です!」


 ああ、家族といえばヒオリさんがいるよね。

 そういえば。


 お店のことについては、メアリーさんにも聞いてみた。

 笑ってこう言われた。


「んー?

 今でも十分に、クウちゃんのお店って面白くて新しいよね?

 それにクウちゃん、今でも十分にお気楽生活だよね?

 それ以上に楽して一体どうするのー?

 ふわふわしすぎて空に飛んで行っちゃうよー」


 うん、はい。

 メアリーさんは年中無休でしたよね……。

 もう本当に、その通りですね……。



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