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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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259 おそろいだね

「あとそうだ。私のぬいぐるみの名前なんだけど、変えてもらってもいいですか?」

「それは、精霊ちゃんぬいぐるみのことですかな?」

「うん、そう」


 いつの間にか「精霊ちゃんぬいぐるみ」と呼ばれていた私のぬいぐるみだけど、私としては正直しっくりと来ていない。

 なので密かに正式名称を考えていたのだ。


「ずばり! 『かしこいちゃん』でお願いしますっ!」


 ふふーん。


 やはり、私と言えばかしこいだよね!


 なんと言っても、かしこいせいれいさんだし!


 これ以上の名前はないよね!


 と思ったのだけれど……。


 あれ?


 ウェーバーさんのことだから、「おおお、それは素晴らしい!」って歓喜してくれるものだと思っていたけど……。

 なぜかポケットからハンカチを取り出して頬を拭い始めたよ。


「かしこいちゃん! かわいいですよねー!」


 我ながら完璧だ。


「……いえ、あの。……なんと申しますか……。ありがたさも感じるかどうかで考えますとやはりその……」

「かしこいちゃん! いいですよねっ! サイコーですよねっ!」

「それは……その……」


 ウェーバーさんはもごもごしているね。

 もしかして……。

 最悪のタイミングで歯が痛くなっちゃったのかな。

 そうかも知れないね。


 そこに、お店の外から知った声がかかった。


「5点」


 その点数に、私はびくりとして振り返る。

 ブリジットさんがいた。


「クウちゃんは今日も冴えているね」


 ツインテールにエプロン姿な美少女モードのブリジットさんだ。

 笑顔が眩しい。

 声も弾むように陽気だった。

 お店の開店準備をしていたのかな。

 完全に営業スタイルになっている。


「……あの、ブリジットさん。……それは」


 私はおそるおそるたずねた。


 なぜならば。


 その容赦なき点数に、私のギャグを一刀両断する恐怖の審査員・ナオの姿がぴったりと重なったからだ。


 そして、私の予感は的中した。


「もちろん、クウちゃんの今のギャグの点数だよ」

「そんなー」


 私は四つん這いに倒れた。

 5点。


 私は……。


 またも一桁の呪縛を受けるというのかぁぁぁ!


「5点中だよ」

「え?」


 ブリジットさんが付け加えたその言葉に、私は我を疑う。

 それってつまり。


「あの、満点?」

「そう――。満点のギャグだったよ」

「おお……」


 今までにも満点をもらったことはあった。

 最近でも、ユイとエリカから。

 でもそれは再会のご祝儀だ。

 ナオにもそう言われたし、私も今ではそう理解している。


 でも、今はちがう。


 ちがうよね。


 私は、満点を、得たのだ。


 嬉しい。

 感動だ。


 熱い息吹が身の内側に広がっていくのがわかる。


「――クウちゃんはかしこい。

   まさに天才。

   クウちゃんはかしこい。

   まさにぬいぐるみ。

   でも、クウちゃんはクウちゃん。

   故に、かしこい。

   故に、ぬいぐるみは精霊ちゃん。

   故に、精霊ちゃん。

   オーケー?」


「オーケー!」


「オーケー」


 私が全力で同意すると、ブリジットさんは満足げにうなずいた。


「そういうわけで、今のはギャグだったよ。商会長さん、そういうわけでこのぬいぐるみは精霊ちゃんだよ。そうだよね、クウちゃん」

「はいっ! 私はクウちゃんでこれは精霊ちゃんですね!」


 なんだかよくわからないけど、ブリジットさんがそう言うならそうなんだろう!

 私は納得した!


「助かったよ、お嬢さん……」


 ウェーバーさんが胸をなでおろすように言う。

 助かった?

 なにがだろ。

 そう思いかけたところで、ブリジットさんが私に声をかけてくる。


「クウちゃん」

「はいっ!」


 私は全力で答えた。


「私はかわいい店員さん」

「そうですね!」

「クウちゃんはかわいい精霊さん」

「そうですね!」

「かわいいで、おそろいだね」

「そうですね!」


 うなずくと、ブリジットさんが私に手を伸ばしてきた。

 触れると、手を握ってくれる。


「私のお店を案内してあげる。行こう」

「はいっ!」



 ◇



 あまりに鮮烈な風が吹き去った後、ウェーバーは心から胸をなでおろした。

 聖女様を信仰する者として、その聖女様の上の存在である精霊様の言うことに逆らうなど決してあってはならない。

 故に、そうだと言われればそれはそうたるべきなのだ。

 精霊様が「かしこいちゃん」だと言うのならば、それは「かしこいちゃん」なのだ。

 だが、しかし……。

 精霊ちゃんぬいぐるみは、ただのかわいいだけのぬいぐるみではない。

 そばに置いておくと心が安らぐ。

 まるで精霊様に守られているような感覚がある。

 故に、それは他のなにかではなく、精霊ちゃんぬいぐるみなのだ。

 実際、ぬいぐるみに祈りを捧げる者もいる。


 名は体を表す。


 かしこいちゃんでは、正直、その祈りまでも消えてしまうような気がする。


 精霊様への祈りは聖女様への祈りに等しい。

 必ずやこの世界を光へと導く力になるとウェーバーは確信していた。

 なので大切にしたい。

 そして、その為にこそ、精霊ちゃんぬいぐるみは在るべきなのだ。

 であれば、やはり精霊ちゃんこそがふさわしい。


 もちろん精霊様であるクウちゃん様がつけられた名だ。

 かしこいには大いなる意味が、きっとあるのだろうが……。

 いや……。

 長年、人を見てきたウェーバーだからこそ、わかる。

 いや……。

 たぶん、誰にでもわかる。

 口には決して出来ないことだが……。

 あれはきっと、適当にノリで付けただけだ。

 人々が「精霊ちゃんぬいぐるみ」と自然に呼ぶようになったような憧憬は、なにもないにちがいない。

 それは当然だろうが……。

 なにしろ、精霊様本人なのだから……。

 嗚呼……。

 そう考えれば今からでもクウちゃん様を追いかけて、やはり「かしこいちゃん」に改名しますと言うべきなのだろうか。


 いや、しかし……。

 店員の娘が助け舟を出してくれたように、私以外の誰が聞いても、かしこいちゃんという名は精霊ちゃんぬいぐるみには相応しくない。

 そもそも、それならば「ちゃん」ではなく「様」のような気はするが、そこはぬいぐるみなのでむしろ妥当な気もする。

 クウちゃん様自身、ちゃんと呼ばれたいようなので、やはり問題はないだろう。

 問題は「精霊」であるか「かしこい」であるかだ。

 少なくとも「かしこい」では、クウちゃん様には重ならない。


 いや、しかし……。

 とはいえ、精霊様がおっしゃられたのだ。

 かしこいには、やはり深い意味があるのかも知れない。


 いや、しかし……。

 クウちゃん様は、あっさりと、簡単に、提案を棄却なさった……。

 精霊ちゃんでオーケーになった。

 そのことを気にすることもなく隣の店の見学に行った。

 つまりは、やはり、別に「かしこいちゃん」である必然はないのだろう……。


 いや、しかし……。


 その後もウェーバーは延々と悩んだ。


 最終的にはクウに「えっと、なんの話でしたっけ?」と首を傾げられて、精霊ちゃんのままでいくことを決めるのだが。



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― 新着の感想 ―
[一言] ウェーバーさん…(泣)
[一言] かしこさゼロ!
[一言] > 最終的にはクウに「えっと、なんの話でしたっけ?」と首を傾げられて かしこい精霊さんは三歩ほど歩くと忘れちゃう
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