257 みんなとのお別れ
「はい、到着。帝都近くのダンジョンだよー」
「相変わらず、クウちゃんの魔法は凄まじいのである」
全員、ちゃんと来ている。
よかった。
「……ここがダンジョンなのね。私、初めて来た」
「わたくしもです。不思議な空間ですね」
「うん。なんか変な感じ。明かりがないのに、明るいんだね」
アンジェとセラとエミリーちゃんが、興味深そうに部屋を見回す。
「店長、ここはもしや……。ボスを倒した後の部屋では……?」
「うん。そだよー。ヒオリさん、わかるんだ?」
「はい……。実は以前、転移陣の調査をしたことがありまして……。結局、何もわかりませんでしたが……」
「へー。そうなんだー。でも、便利だよねー、これー」
「それは、そうかと……」
「んじゃ、出るねー。離脱」
一瞬、ダンジョンツアーも楽しいかなーと思ったけど、そんなことをしていたら今日中に帰ることはできない。
なのでさくっと、銀魔法でダンジョンから出た。
出るとお約束で門番さんがひっくり返った。
すかさず帝国印のペンダント。
皇女殿下のお忍び旅ってことで強行突破。
その後は、通り過ぎるだけの感じでダンジョン町を観光しつつ町の外に出る。
アイテム欄から馬車を取り出す。
セラたちには馬車に乗ってもらって。
フラウには竜に戻ってもらって、馬車を担いでもらって。
姿を消して。
まずはネミエの町に向かった。
町の近くで地面に降りて、みんなで歩いて向かう。
家にはお母さんがいてエミリーちゃんの帰りを待ってくれていた。
信用して送り出してくれたとは言え、やはり心配だったようだ。
娘が元気に戻ってきて、ホッとした顔をしていた。
うん。
無断で延長しなくてよかったよ。
お母さんには私からということで、一緒に宴会したこともあるご近所さんたちへの分も含めてお土産をどっさり渡した。
「じゃあ、エミリーちゃん、元気でね。またね」
「うん。旅、楽しかった! クウちゃん、わたし、帝都行くね!」
エミリーちゃんの就職問題を忘れていた!
これ絶対、私もお母さんと話し合わないといけない問題だよね。
「エミリー、また帝都に行くの?」
何も知らないお母さんが無邪気に笑顔でたずねる。
「うん! わたしね、クウちゃんのお店で働かせてもらえることになったんだ!」
いきなりエミリーちゃんが言っちゃった。
しかも決定しているみたいに。
「え、そうなの?」
「あ、いえ……。そういう話も出てはいたんですが、まだ決定ではないというかお父さんお母さんの許可があれば、将来的にはと言いいますか……」
いきなりのことなので、私、しどろもどろだ。
だって親なら怒るよね。
相談もなしに、こんなことを決めたら。
「クウちゃんのお店って、エメラルドストリートの一流店って聞いたけど……。そんなところでエミリーがちゃんとやれるのかしら?」
「あ、えっと……。エミリーちゃん、とてもしっかりしているので、仕事に関しては心配していないというか……」
「それは光栄なことね。エミリー、やったわね」
「うんっ!」
あれ、なんか前向きだ。
「あの、おばさんは反対しないんですか? エミリーちゃん、まだ8歳だけど」
「そうね。女の子だと少し早い気はするけど、帝都の一流のお店で働けるチャンスなんて普通なら絶対にないもの。クウちゃんのお店なら安心だし、ぜひお願いします。エミリーも嬉しいわよね」
「うん! 嬉しい!」
あっさりと決まってしまった。
まあ、このあたりの子は10歳になれば働くのが当然のようだし、好条件なら少しくらい早くてもということか。
私のことも信用してくれているようで嬉しい。
さすがに今すぐは無理があるので、秋になったくらいでということにはしたけど。
この後はお約束の宴会に誘われた。
エミリーちゃんおかえり会をいつもの空き地で今夜開くそうだ。
オダンさんも夕方には帰ってくる予定らしい。
ただ、残念だけど、宴会は断らせてもらった。
旅から帰った夜は家でのんびりとしたい。
「じゃあ、エミリーちゃん。また近いうちにー!」
「うんっ! クウちゃん、みんな、どうもありがとー!」
エミリーちゃんとお別れして次はアーレに向かう。
フラウに運んでもらって、さくっと到着。
アーレの町に入って驚いた。
門の奥にずらりと、騎士さんや執事さんやメイドさんたちがいたのだ。
私たちの姿を見ると話しかけてくる。
なんと、私たちが帰ってくるのを待っていたのだそうだ。
ローゼントさんが晩餐会の準備を整えているという。
私は静かにアンジェの荷物をアイテム欄から出して、私からのお土産が入った袋と共に地面に置いた。
そして言う。
「アンジェ、ここは任せた」
「え? 私? なに? え! ちょ、クウまさか!」
「転移、マーレ古墳最奥」
「クウーーーー!」
アンジェの叫びを聞きつつ、マーレ古墳に戻った。
再び『離脱』で外に出る。
再び驚いた衛兵さんに、帝国印のペンダントを見せてお忍びだと告げる。
そして、フラウの翼でひとっ飛び。
帝都に近づいたところで人気のない場所に着地して、馬車はアイテム欄に収納、フラウには人間に戻ってもらう。
あとは、ヒオリさんはゼノに運んでもらって、シルエラさんとセラは私の銀魔法で浮かせて連れて行く。
もちろん姿は消して。
ふわふわ~っと。
大宮殿の奥庭園、いつもの泉のほとりに到着する。
泉のほとりにも執事さんやメイドさんがいて、私たちを待っていた。
なんだかんだで時刻は夕方だ。
すでに空は赤い。
ここでも夕食に誘われたけど、明日にしてもらう。
「じゃあ、セラ、また明日」
「はい。また明日ですね」
「じゃあ、みんなを見送ったところで、ボクは精霊界に帰るねー」
「あ、帰っちゃうんだ?」
「リトのヤツに仕事させないといけないからさー」
「あー、そんな話もあったね」
リトとは光の大精霊シャイナリトーさんの愛称だ。
お気に入りの聖女ユイが消えて、すっかり落ち込んでいるんだっけか。
「難しそうなら相談してね」
最悪、ユイの尻を叩いて外に出すしかないよね。
「とりあえず、ぶん殴ってみるよ。あいつ、いつもいつもボクには働け働けうるさかったくせにさー」
笑いつつ、ゼノは空に浮かび上がる。
「じゃーねー」
最後に手を振って、郊外の森に向かって飛んでいった。
「クウちゃんも後は帰るだけであるか?」
「うん。これでおわり」
「なら妾を竜の里に運んでほしいのである」
「いいけど、フラウも帰るの?」
「妾もお土産を渡したいのである。すぐに帝都に戻ってくるのである」
「なら、明日にでも迎えに行こうか?」
「それはありがたいのである。では明日――いや、ついでに仕事もするので明後日の昼にお願いしたいのである」
「りょーかい」
「フラウちゃん、10日間、ありがとうございました。楽しかったです」
「妾も楽しかったのである。セラは光属性故に抱きつくまではいかないのであるが、その温かい魔力は大切に育てると良いのである。あるいは2号に近づくことができるかも知れないのである」
「はい。ありがとうございます。……でも、あの、2号って?」
それはカメの子、ユイのことー!
とてもじゃないけど言えないので転移することにした。
「転移、竜の里、エントランス!」
あっという間に到着。
「じゃあ、フラウ、また明後日にー」
「カメの子たちにも会っていかないのであるか?」
「うん。今夜は家でゆっくりするって決めてるし。これ、私からのお土産だけど竜のみんなの分もあるから渡しておいてもらえるかな?」
「わかったのである」
お土産を預けて、『帰還』――。
願いの泉に戻った。
「店長ー! 戻ってきてくれてよかったですー! 某、店長から完全に存在を忘れ去られたものかと――!」
戻るとヒオリさんに泣きつかれた。
ごめん。
忘れてた。
と、そこに若い文官さんが大宮殿の方から走ってきた。
要件はヒオリさんにだった。
相手は文官さんの上司で、学院のことで至急の案件があるので、もしもヒオリさんがいるのなら連れて来てほしいとのことだった。
「面倒ですが行ってきます。今夜はおそらく帰れないので、某のことは気にせず、どうぞ店長はゆっくりとおくつろぎ下さい」
「そんなに大変な要件なんだ?」
「学院の予算についてなので、おそらくは」
「そかー。がんばれー」
「はい。今回の旅はフラウ殿も一緒で、おかげで某、ゼノ殿からあまり吸われずに済んだので元気は残っておりますれば!」
ヒオリさんは本当にタフだね。
文官さんの案内で、ヒオリさんは大宮殿に向かった。
私はセラと2人になる。
正確には、シルエラさんを始めとしたメイドさんや執事さんがいるけど。
「えっと、あはは。さっきも言ったけど、また明日ね、セラ」
「はい。また明日です」
シルエラさんにもお別れを告げて、私は我が家に帰った。
すっかり世界は夜だ。
3階の部屋に、壁をすり抜けて入る。
魔道具の明かりをつける。
久しぶりの部屋は清掃されて新品同様になっていた。
ありがとう、メイドさん!
布団もふかふか。
気持ちよく眠ることができそうだ。




