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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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255 旅の最後の夜

「さあ、おまえら! 今夜は俺からの礼だ! 町中の店から食いもんを持ってこさせたから好きなだけ飲み食いしてくれ!」


 おお。

 これは……。


 食堂の大きなテーブルに所狭しと並べられた庶民料理に私は戦慄した。


「いいねー! キアードくん、やるじゃん!」


 私は本気で感動した。

 豪華な貴族料理もいいけど、私が食べたかったのは、まさにこれ!

 地元の味!


「ふふー。だろー? おまえが食いたいと言っていたからな」

「ありがとー」

「エミリーも見てみろこれを! おまえが食いたいと言っていた魚の素揚げだぞ! 遠慮せずいくらでも食え!」


 夕食会が始まる。


 キアードくんはすっかりご機嫌だ。

 無理もない。

 港町に広がっていた病巣を、たった一日で一掃したのだ。

 エミリーちゃんを引き連れて、あれやこれやと自慢しまくっている。


「本当に、どうお礼を言えば良いのか――」


 私たちのところにキアードくんの叔父ラモンさんがやってきた。

 すでに挨拶は交わしている。

 ラモンさんはキアードくんの父親の弟さんで、サウス辺境伯領の内務を取り仕切っている人物だ。

 眼鏡の似合う温厚そうな男性だった。


「そちらも逮捕者が多く大変かと思いますが、どうか公正な裁きをお願いします」

「ハッ! 多くの証言と証拠は頂戴しております。必ずや」


 セラの言葉にラモンさんは身を引き締めて一礼する。


「あと、攫われた子供たちへの対処も、できるだけお願いします」

「はい――。それについてもできる限りは。ただ、政治的な問題を含みますので当家の一存では難しくもありますが」


 ラモンさんの言葉はもっともだろう。

 セラもうなずいて了承する。

 この件については、キアードくんの名で大宮殿に報告と相談を行うそうだ。


「それにしても、お恥ずかしい限りです。我々も調査はしておりましたが、何一つ尻尾を掴むことはできず――」

「気になさる必要はありません。わたくしの仲間は特別ですので」

「さすがは皇女様の御一行です」


 まあ、うん、ですよね。


 我ながら、今回についてはさすがだと思います。

 頑張ったしね!


 この後は食事を楽しんだ。


「あーでも、太っちゃうわよねえ。これだと」

「ですねえ……」


 早くも3本目になる海の幸の焼串を食べながら、アンジェとセラがぼやいた。


「2人は運動してるし平気でしょー」

「そういうクウは、いくら食べても太らない感じよね」

「んー。そうなのかも」


 もちろん食べれば膨らむけど。

 次の日には戻っている。

 いつでもかわいいクウちゃんのままだ。


「クウっていうより、精霊がそもそも太らないのかな?」


 アンジェの視線の先では、ゼノが今夜も快調に食べまくっていた。


「かもだねー。まあ、それを言ったら竜とエルフもだけど」

「そうね」


 フラウとヒオリさんも食べまくっている。

 その割にはこの2人も外見が変わらない。


 そこにエミリーちゃんを連れてキアードくんがやってきた。


「おい、姫様。明日の予定は決まっているのか?」

「いえ、決まってはいませんが」

「それはよかった! じゃあ、明日は島に行ってみないか? 昨日みたいにキャンプして楽しもうぜー!」

「残念ですけれど、それは無理です……」

「なんでだよ!?」

「だって、わたくしたち、明日で帰る予定ですし」

「え。おい、カメの子! そ、そうなのか……?」

「うん。そだよー」


 今夜が旅の最後の夜だ。


 私の予定では――。

 明日は午前中にお土産を買って、午後には魔法でさくっと帰宅だ。

 みんなを送って、夜には私も家にいたい。


「エミリーはいいって言ったぞ!」

「わたし、クウちゃんたちがいいならって言ったよ? セラちゃんやクウちゃんがダメならダメだよー」

「姫様、一日くらい伸ばしたっていいだろ?」

「いえ、そういうわけには……。無断で延長すれば家族が心配しますし、次に外出する時の信用が失われますので……」


 まあ、それはそうか。

 特にセラは、責任ある立場の皇女様だしね。


「よし。連絡できればよいのだな? では、アレを使おう! ティセ、緊急連絡用の魔道具を準備しろ!」

「坊ちゃま、緊急連絡用の魔道具はとても貴重なものです。遊びたいからと使用して良いわけがないでしょう。少しはお考え下さい。そもそも殿下と御一行様には毎日が夏休みの坊ちゃまと違って予定というものがあるのです。変更すれば多くの方の迷惑となるのですご自重下さいませ」


 キアードくんの命令を、ティセさんが冷たくあしらう。

 そこにラモンさんが来る。


「――大変に失礼しました。ご領主様、こちらに」

「こ、こら! なにをする叔父上!」

「いいからいらっしゃい。少し話があります」


 キアードくんはラモンさんに首根っこを掴まれて、連行されていった。


 そんなこともありつつ――。

 食事会はおわった。


 今夜は全員、キアードくんの屋敷に泊めてもらうことになった。

 お風呂に入って、身だしなみを整えて。

 私たちは部屋に入った。


「じゃあ、ボクたちはちょっと行ってくるね」

「行ってくるのである」

「うん。がんばってー」


 フラウとゼノは夜の空に飛んでいく。

 せっかくの縁なので、海に結界を張って、少なくとも当面は穢れた力が沸かないようにするとのことだった。


 ヒオリさんは、ラモンさんから相談事を受けて別室だ。

 ラモンさんは学院の卒業生で、ヒオリさんとは知己の間柄のようだ。


 シルエラさんは一日の仕事をおえて別室だ。


 エミリーちゃんはすぐに寝た。


 私とセラとアンジェは、3人でベランダに出た。

 3人で夜の空と眼下の庭園を眺める。


「……キアードくんには悪いことをしてしまったでしょうか」


 遊びを断ったことをセラは気にしているようだ。


「断って当然だと思うわよ。最初から日程は決まっていたんだし。私だって無断で延長したらおじいちゃんに怒られるもん」

「そう……ですよね……」

「2人はいいとこの娘さんだからねー。予定通りにするべきだと思うよー」


 私もきっと怒られるし。


「あいつ、友達いないんでしょうねー。あの性格だし」

「領主ですしね……。対等に話せる相手は少ないんだと思います……」

「あ、ごめんね。嫌な言い方だったかな、私」

「いえ、そんなことは。あの性格というのは確かですし」

「よねー」


 セラとアンジェがクスリと笑う。


「そう言えばセラって、社交界デビューしてお茶会とか始めたんだよね? 貴族の友達はできたの?」


 ふと思って私はたずねた。


「……そ、それは、その」

「どしたの?」

「実はわたくしも、クウちゃんたちしか、お友だちはいません……」

「あ、えっと。これからだよね! これから!」

「そ、そうですよね……。はい……。わたくしも頑張らねば……」


 というか、迂闊だった。


 セラはずっと呪われていて外に出ていなかったから。

 対人関係は経験不足だよね。


「わたくしもクウちゃんを目指して、誰とでも仲良くなれるように頑張ります」

「クウは目指さなくてもいいと思うけど。この子は図々しいだけだし」

「えー。それをアンジェが言うー?」

「なによー? どういう意味ー?」

「だってアーレの町で歩いていただけの私を呼び止めて、アナタ、私のライバルね! とか宣言してきたの、アンジェだよね」


 私が指摘するとアンジェは頬を染めてそっぽを向いた。


「あれは……! それはそうだけどね!」

「ほらー」

「もう、そういうこと言うなら! クウがこの旅でアーレの町に来た時、私が心配していたことを言っちゃうわよ?」

「なにさー?」

「あ、ううん。やっぱり可哀想だから、これを言うのはやめといてあげる」

「えー。なによー?」


 私に可哀想なことなんてないよ。

 完璧クウちゃんだよ?


「聞かない方がいいわ。うん。忘れて」

「そう言われると、すごく気になるんだけど……」

「わたくしも気になります」

「ごめん。私が悪かった。ホント、忘れてくれていいから」


 そう言われるとますます気になるんだけど。


 私が文句を言うと、アンジェが、なら、と、耳打ち来てくる。

 一言だけ。

 ぱ。

 ――と。


 ぱ。


 一瞬で思い出してしまった。


 パンツの子……。


「ね?」

「う、うん……。ごめん……」

「私こそごめん。からかうにしてもネタが悪かったわ」


 確かに、アーレの町で「パンツの子ー!」とか連呼されなくてよかった。

 連呼されてたら私、家に帰ってたかもだよ。


「え? え? なんですか? なんですかー! わたくしにもー! わたくしにも教えてくださいよー!」


 セラごめん!

 勘弁してー!


 ……結局、しつこく粘られた末に泣かれて、教えるハメになりました。

 そしてセラにまで謝られました。



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― 新着の感想 ―
そういえば、一歩?間違えば、セラがぱ…の子だと思われ続けていたわけですが、二人でパレード的に登場したことで、ぱ…の子がセラだと思われ続けることは阻止できたんですね。よかったよかった。 本当のぱの子はね…
[一言] 伝説のパンツ回。アニメとかになってもどうどうと丸見せしてほしいw
[一言] パンツの精霊クウちゃん
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