246 準備たーいむ
「クウちゃん、切れたよー」
「エミリーちゃん……。ありがとおぉぉぉぉぉぉ!」
神は、いました。
砂浜でタコを捌いたエミリーちゃんが、切りそろえて海水で滑り気を取ったタコの足をまな板に乗せて持ってきてくれた。
そう。
タコの解体は、エミリーちゃんがやってくれました。
私たちは船から降りてランウエルの砂浜に来ていた。
カメの産卵で閉鎖されている場所だけど、まだ産卵はされていないので、昼間ならいいだろうということでキアードくんが許可をくれた。
領主と一緒だと、こういう時、話が早くていい。
「店長、テントを撤収してきました。収納をお願いします」
片付けたテントを肩に担いで、ヒオリさんとゼノとフラウが戻ってきた。
「はーい」
受け取ってアイテム欄に入れる。
ちなみに海がちょっと揺れて、海がちょっと青く光った件については――。
みんなに聞かれたけど――。
ちょっと魔物がいて、ちょっと退治しただけ。
で、済ませた。
一撃で消滅したし、みんなを心配させるほどの相手ではないよね。
せっかくタコが手に入ったことだし。
「お。タコ、捌けたんだね。さすがはエミリーだ」
「うん。わたし、がんばったよ」
「えらいえらい」
ゼノに頭を撫でられて、エミリーちゃんはご満悦だ。
「それに引き換え、結局、クウは見てただけ?」
「あはは」
正確には見てもいませんでした。
怖かったので、うしろで待っていました。
いや、うん。
エミリーちゃんが波にさらわれるといけないので、見張っていたんだけどね!
まあ、とても穏やかな透き通った遠浅の海なのですが。
砂浜ではバーベキューの準備が着々と進められている。
セラとアンジェはシルエラさんに教わりながら魚を捌いている。
食材の準備、私は完全に失念していた――というか、タコ焼きのことしか頭になかったんだけど……。
ティセさんが新鮮な海の幸を準備してくれていた。
ありがたや。
「ホントにさ、なんでバケモノは平気で、小さな生き物はダメなのか」
「いやぁ、間近で見ちゃうとね」
「さすがは俺の弟子だ! 他の連中とはわけがちがうな!」
すっかりエミリーちゃんを弟子扱いのキアードくんも上機嫌だ。
と、キアードくんが私たちを見て、
「しかし、あれだな」
「なにー?」
どうせまた変なこと言うんでしょーと思ったら、やっぱりだった。
「俺、ハーレムの主だな! よく見れば、俺以外、みんな女じゃないか!」
いまさらか!
よく見なくても最初からだからね!
「よし! 仕事がおわったなら行くぞ、弟子! おまえには特別に、父上直伝のサザエの探し方を教えてやる!」
「はーい、師匠。クウちゃん、わたし、新しい食材を獲ってくるねー」
「行ってらっしゃーい」
エミリーちゃんを連れて、キアードくんは海に走っていった。
元気だ。
さて。
せっかくタコを切ってもらったのだ。
私も頑張らねば。
私はテーブルの上に、タコ焼き製作に必要な材料を置いた。
まずは、タコ。
小麦粉。
卵。
水。
青ネギ。
そして、重要アイテムの乾燥昆布。
水で練っただけの小麦粉では、さすがに味気ない。
出汁は必須だよね。
出汁については、技能「調理」でさくっと生成してしまう。
私の調理技能は120のカンスト。
失敗するはずもなく、ハイクオリティに完成した。
ぶっちゃけ、調理リストの中にはタコ焼きもある。
なので、タコ焼きも生成してしまえば完璧なものができるんだけど……。
もちろん、そんな野暮はしない。
タコ焼きはみんなと一緒に――。
焼いて回して楽しみながら作るものなのだ。
それこそが、タコパ!
「さぁてと」
次は、生地を作る。
小麦粉と出汁と卵をボールに入れて、しっかりと混ぜ混ぜ。
青ネギを細かく切って。
バーベキューコンロでは、すでに火が起こされている。
網の上に鍋を乗せて、水を入れて、その中にタコを入れておく。
タコは茹でないとね。
あとは、油とソースを準備して。
考えてみると、青のりや天かすや鰹節がないけど……。
さすがにいきなりだったし、そこまで望むのは贅沢か。
いや待て!
屋台の海鮮焼きには、ちゃんと青のりも鰹節も乗っていた!
というわけで。
銀魔法の飛行でかっ飛ばして、町に戻って買ってきた。
鰹節も青のりも天かすも普通に市場で売っていた。
港町リゼントでは、ボール状ではなくて板状に焼いたお好み焼きのような海鮮焼きが家庭料理の定番にあるようだ。
砂浜に帰ると、なぜかみんなが待っていた。
「あれ、みんなどうしたの?」
「クウちゃん、いきなりどうしたんですか? 心配しましたよー」
「ごめんね、セラ。ちょっと足りない食材があってさ」
「ホントにクウったら。どこかに行くなら、誰かに言ってからにしなさいよね。セラでなくても心配するわよ」
「ごめんねー、アンジェー」
「ホントだよ。ボク、まだ何かいるのかと思って、すごい警戒しちゃったよ」
「で、ある」
「2人ともごめんよー」
「某が思うに、やはり店長は一度、キチンと常識というものを――」
「なぁに? ヒオリさん?」
「あ、いえ。なんでもありません……」
「ならいいけどー」
「クウちゃんおかえり。わたしね、貝、いっぱい獲ったよ」
「ほんとー? さすがはエミリーちゃん」
「ふふんっ! 俺の指導の賜物だな! 見事なサザエだから、食べるのを楽しみにするといいぞー!」
キアードくんがふんぞり返る。
と、そんな感じでみんなに謝ることにはなってしまったけれども。
食材は揃った!
パーフェクト!
「さあ、では! タコ焼き、作りますよー!」




