240 ハラオドリとは?
食事がおわって、夜。
私とセラは、あてがわれた部屋でベッドに入った。
体も綺麗にして後は寝るだけなので、シルエラさんはすでに隣室だ。
「セラ、今日も疲れたねー」
「今日もいろいろなことをしちゃいましたね」
布団はふかふかで気持ちいい。
ベッドは2つあったけど、同じベッドに並んで寝転んだ。
ベッドは大きくて、2人でも余裕だ。
「セラの目って、綺麗な緑色で、海みたいだねー」
「クウちゃんの目も、綺麗でキラキラで、海みたいですよー」
「海、綺麗だったねー」
「綺麗でしたねー」
「明日も海だねー」
「……明日も、海なんですよね?」
「うん」
セラの目を間近で見ながら私は笑顔でうなずく。
「あの、クウちゃん……」
「どしたの?」
「タコって、本当に大丈夫なんですか……?」
「うん。食べると美味しいんだよ」
「食べたことあるんですか?」
「うん。あるよー」
セラが心配そうな顔をする。
「どしたの?」
「わたくし、海に来るのも初めてですし、タコを実際に見たことはないんですけれど……。話には聞いたことがあって……。タコって、ぐにゃぐにゃとしていて不気味で、悪魔の使い……なんですよね?」
「あー。うん。そうだねー」
そういえば前世でもタコは、タコを食べない地域の人たちからはデビルフィッシュって呼ばれて嫌われていた。
帝国でもそうなのかも知れない。
というか、そうなのだろう。
セラやキアードくんの反応を見るに。
「悪魔の使いを、捕まえて食べちゃうんですか……?」
「うん。美味しいよー」
「……大丈夫なんですか?」
「平気平気ー」
「でも、あの……。タコの魔物が出てきちゃったらどうしますか?」
「その時は退治するよー。私、カメの子だし」
「そっか。そうですよね。じゃあ、どんな味がするのか、楽しみにしますね」
意外にあっさりとセラは納得してくれた。
「うん。楽しみにしてて。でも私、カメじゃないけどね」
「え。そうなんですか?」
「……そ、そこは否定してもらえると嬉しいかなぁ」
自分で言っておいてなんですが。
「そ、そうですよね……。クウちゃんとカメって、なんだか不思議ですけど違和感を覚えなくて……。わたくし、普通に受け止めていました。クウちゃんは精霊なんですからカメのはずはないですよね……。あれ、でも、カメは精霊なんですか? ということはやっぱりカメなんですよね……?」
「もう。セラー」
「うふふ。ごめんなさい。冗談ですよー」
「もー」
セラが冗談を言うなんて珍しい。
頬を膨らませてみたけど、私は結局、面白くて笑ってしまった。
「でも、そうですよね。あの絵、ホントにウニでしたし。カメじゃないですよね」
「だよねー」
「じゃあ、クウちゃんはウニの子ですねー」
「もー」
「うふふ。ごめんなさい。わたくし、なんだか楽しくって」
「あはは。私も」
「明日も楽しくなりそうですねー」
「セラ、明日は勝負だよ」
「勝負、ですか?」
「うん」
そうなのだ。
明日の夜は、待ちに待った第3回シルエラさんを笑わせようの会!
まさに勝負なのだ。
あれ。
でも、今、私の目の前にいる参加者の1人、セラは、何故か不思議なことにきょとんとした顔をしているよ?
なんでだろう?
「あの、クウちゃん。明日は船に乗ってタコを捕りに行くんですよね? タコ捕りの勝負をするんですか? タコってどうやって捕るんですか?」
あれ。
言われてみれば。
「タコってどうやって捕るんだろうね?」
「クウちゃんは知っているんですよね?」
「気にしてなかったよぉ……」
「……タコを捕りに行くのに、タコの捕り方を気にしていなかったんですか?」
「う、うん……」
「うふふ。クウちゃんらしいです」
「あはは。だよねー」
まあ、なんとかなるか。
ここは海の町なんだから誰か知っているよね。
しばらく笑いあった後で私は思い出した。
「ちがうのー。セラ、ちがうのー」
「なにがですか?」
「明日はね、お笑いの日なんだよー。みんなで芸をするのー」
「あ」
「……思い出した?」
「はい。ごめんなさい。頭から抜け落ちていました」
「……ネタは大丈夫なの?」
「お、お任せくださいっ! いざとなれば、ハラオドリします!」
とんでもないワードがお姫様の口から飛び出した。
「あの、セラ」
「はい。なんですか?」
「ハラオドリって、なにか知ってる?」
「えっと、野原で鳥を見つけるんですよね……?」
「誰から聞いたの、それ」
「えっと、以前、魔術師団の方々がアルビオ様のハラオドリが最高に笑えたと言っているのを聞いたので……。
気になったので近づいて、どういうものか聞いてみたら、野原で鳥を見つけて驚いた真似をすることだって……。
魔術師の間で流行っている芸なんだそうです。
わたくしも立派に驚いてみせますから、楽しみにしていてください」
これも冗談なのかな?
とも思ったけど、どうやら本気のようだ。
アルビオさんは、魔術師団のトップの大魔術師だ。
私も面識はある。
魔術師さんたちは、セラが近くにいることに気づかずに話していたんだろう。
いきなりセラに話しかけられて必死に誤魔化したに違いない。
腹踊りのことなんて皇女様に説明できないしね。
てゆか。
アルビオさんって腹踊りなんてするんだね……。
厳格な人に見えたけど……。
アンジェのおじいさんも「聖なる山ティル・デナ」の一発芸を持っているし、帝国のご重鎮って実は芸達者な人が多いのだろうか。
しかし、いったい、ハラオドリが何故に、野原で鳥を見つける、に。
ハラ=野原
オ=「Oh!?」で驚き?
ドリ=鳥
というところだろうか……。
ふむ。
魔術師さんたち、さすがというか、なかなかに冴えていますね……。
帰って覚えていたらからかいに行こう。
ともかく。
「セラ」
私は布団の中で、しっかりとセラの手を握った。
「は、はい?」
「一緒にやろ」
「えっと……。何をですか?」
「またコンビを組もう」
魔術師さんたちの機転を守り、アルビオさんの名誉を守り、セラがすべりまくるのを阻止するにはこれしかない。
「――私たちのフラミンゴ、またやろう」
そう。
帝国ゴールデンコンビの復活だ!
「い、いいんですか? 今回はそれぞれやるって聞いたから」
「いいの。ね? やろう?」
「は、はいっ! 嬉しいですっ!」
「よし、じゃあ、早速だけど、何をやるか考えようか」
「やっぱりフラミンゴですか?」
「うーん。そうだねえ……。定番オチとして繰り返すのはアリと思うけど……」




