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239 ウニ

「ほら見ろ! これがカメ様だ!」

「ウニだぁぁぁぁぁ!」


 はい。


 というわけで。


 キアードくんの部屋の壁に飾られたカメ様の絵を見せてもらったのですが。


 青いトゲトゲのウニでした。


「おい! このクソガキ! これのどこが私だ言ってみろ! この可愛くてかしこくて可憐で清楚で天才で無敵のクウちゃんさまがウニだとぉぉぉ! カメなら百歩譲って我慢してやるけどウニはないだろウニはぁぁぁぁ!」


 これには私、キレましたよ。


 この温厚なクウちゃんさまをキレさせたのだから、すごいことですよこれは。


 いやだってね。


 どこの前衛芸術だって話ですよ?


 カメ様の絵。


 青い線を放射状に、なんか乱雑に描いてあるだけだし!


 閃光?


 輝き?


 いや、ウニだよねこれは!

 閃光でも輝きでもおかしいんだけどね!


 え、なに。


 てことは。


 昔、このあたりの海で、ウニとタコがバトルしたってことなの?


 イメージできない!


「あああああああああああああっ! 信じた私が馬鹿だったー!」


 私は四つん這いになって倒れた。


「おい、カメの子。何を誤解しているのか知らんが、よく見てみろ」

「ん……?」


 あれ私。


 何か見落としてた?


「ほら、青いだろ? おまえも青いじゃないか」

「…………」

「どうだ。同じだろ」


 キアードくんが得意満面でうなずく。


 見落としてなかったぁぁぁぁ!

 見落としてなかったよ!

 残念なことに!


 …………。

 ……。


 まあ、うん。


 青いですけどね、私の髪は。


 冷静になれたので、スカートをはたきつつ身を起こす。


「辺境伯……。失礼ですが、わたくしにもこれがカメには見えないのですけれど……。どうしてこれがカメなのでしょうか?」


「カメではないぞ、姫様。これはカメ様なのだ。

 父上はこれを描きながら言っていた。

 カメ様とは、なんか光っていて、なんか浮かんでいて。

 それでいて海のように青い存在だったと」


「先代様はカメ様に会ったのですね」

「さあ。父上は、それ以上に詳しいことは教えてくれなかったのだ」


 セラとキアードくんの会話を聞きつつティセさんに目を向けると、無言のまま、そっと目をそらされた。


 この後は食事になる。


 同席するのは私とセラとキアードくんだけだった。

 すぐにキアードくんが教えてくれる。

 家族はいないという。

 お母さんはキアードくんが幼い頃に病気で他界したそうだ。


「言っとくが、寂しくはないぞ。俺にはティセやマレやゾレ、俺によくしてくれる家の皆がいるからな」

「仲、よさそうだもんね」

「おうよ! 皆、ガキの頃から世話になってるんだ」


 確かにキアードくんを見守る家の人たちの目は、暖かい気がする。


 食事は、いきなりイカの丸焼きが出てきたのには驚いたけど、あとは普通だった。

 海の町らしく、魚貝類がメインだ。

 意外にもキアードくん、ナイフとフォークの使い方が上手い。

 マナーなんて無視してガツガツ食べる子かと思っていたのに。


 私の視線に気づいたキアードくんがニヤリと笑う。


「ふふん! おい、カメの子! おまえ、俺のマナーの良さに驚いたな? よく言われてきたからわかるぞ!」

「そういう大声を出しちゃうところはまだまだだねー」

「くっ。そ、そうだな。食事だけは父上がうるさかったのだ」


 料理は美味しかった。

 ただ途中で私は思わず叫んでしまった。


 何故ならば。


 ウニを半分に割って、スプーンですくって食べる料理が出たからだ。


「……ねえ、これってウニだよね?」

「おう。ウニだな」

「駄目でしょ! ウニ食べちゃ駄目でしょ! カメ様だよねこれ!?」

「おまえは何を言っているんだ?」

「いやいや! 私まっとうだよ!? すごく正しいよね!? カメ様はウニなんだからウニは大切にしないと! 食べるならタコでしょー!」

「……おまえは何を言っているんだ?」


 何故だぁぁぁ!

 まるで馬鹿を見るような目で見られたぁぁぁぁ!


 くぅぅぅぅ。


 クウちゃんだけにくぅぅぅぅ。


「カメの子様。このあたりでは、タコは悪魔の使いと言われております。気味が悪いので食べる者はおりません」


 うしろに控えていたティセさんが補足してくれる。


 なるほど。


 ところで私、公式にカメの子なんだね。


 まあ、いいけど。


「毒があるわけじゃないんだよね?」

「さあ……。食べたことがないのでわかりかねます」

「おい、カメの子……。おまえ、まさか、タコを食べたことがあるのか?」

「あるよー」

「あるのか!? そうか……」


 驚いた後、キアードくんは何やら考え込む。


「どうしたの?」


 たずねると、さらに真顔でこう言った。


「いや、よくわかった……。おまえ、アレだな」

「アレって?」


 なんだろか。


「……どうもおかしなヤツだと思っていたが、おまえ、タコを食って呪われて、頭がおかしくなっちまったんだな」

「アンタにだけは言われたくないわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 いや、そっちだよね!?


 おかしいのそっちだよね!


 カメとかタコとかイカとかウニとか!


 え、それって海鮮丼!?


 丼なのこの町は!?


 おいしそうなの食べれるの!?


 いやせめて海鮮丼を名乗るなら魚もちゃんと入れようね!?


 このままだと頭足棘貝丼だよ!?


 ものすごく言いにくいよ!?


 わかってる!?


 頭足類に、棘皮動物に、貝だよ!?


 いいのカイ?


 本当にもう、イカがしますか?


 なんちゃって。


 てへ。


 ともかく。


 なんでそんなヤツに、哀れみの目で見られなきゃならないんだぁぁぁぁ!


「クウちゃん、食事中なので大きな声を出すのは……」


 しかもセラにまで注意されたぁぁぁぁ!


 …………。


 ……。


 よし。


 わかった。


「キアードくん、明日、予定を空けといてね」

「どうしたいきなり? まあ、俺はいつでも暇だから大丈夫だが」


 領主がいつでも暇って――。

 というツッコミはとりあえず置いておいて。


「ティセさん、このあたりの海にもタコっているんだよね?」

「はい。おりますが」

「よし。なら明日、捕りに行こう」

「……タコを、でございますか?」

「うん。悪いんだけど、船とバーベキューの準備をお願いしたいんだけど……」

「畏まりました」

「できれば――。海鮮焼きってあるよね……。ほら、あの、小麦粉のボールの中に貝を入れて食べる――」

「はい。ございますが――」

「あれ用の鉄板も用意してもらえると嬉しいんだけど」

「畏まりました」


 小麦粉等の素材は、私のアイテム欄に入っている。

 問題なしだ。


「おい、カメの子、何をするつもりなんだ?」


 キアードくんが怪訝な顔でたずねる。


「フ。楽しみにしてなよ。私が、このカメの子くうちゃんさまが、キミの迷信を粉々に打ち砕いてあげるよ」


 粉ものだけにね!



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― 新着の感想 ―
キアードちゃんアホの子でかわいい(*´ω`*) 意外とちゃんとしてるとこがなくもないかもしれないのがよきです……✨ バスの中で声は出せなかったけど朝から笑っちゃいましたありがとうございます(*´ω…
[気になる点] いつもは流せるのに今回はくどいんだよなぁ。。
[良い点] タコパの予感\(^o^)/ タコ飯も美味しいよ/(^o^)\ [気になる点] この可愛くてかしこくて可憐で清楚で天才で無敵のクウちゃんさまがウニだとぉぉぉ! 何だと―――!!ウニだって…
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