表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

237/1360

237 領主の少年



 馬車が私たちの前で止まった。

 扉が開き、立派な服を着た同年代の少年が降りてくる。


 と、思ったら、段差につまずいて転んだ。


 前のめりに、べったーん、と。


 痛そうだ……。


「大丈夫でございますか、ご領主様」


 続けて降りてきた猫耳のメイドさんが、少年の腕を優しく掴んで――とは思えない様子で強引に立たせる。


「痛い! 痛いぞ! ティセ!」

「いきなり転んだのですから当然でございます」

「ええい! 死刑だ!」


 前にいた私たちにビシッと指を向けて、鼻血を出しながら少年が宣言した。


「残念ですが、死んでいるのはご領主様の運動神経でございます」


 ふむ。


 ティセと呼ばれた猫耳のメイドさん、なかなかの毒舌ぶりだ。

 面白いね。

 死刑と言われたものの敵感知は反応していないし、少し様子を見てみよう。


 ティセさんにハンカチで顔を拭かれつつ、少年はふんぞり返った。


「ふんっ! この俺がサウス辺境伯! キアード様だ! 者共、頭が高いぞ膝を曲げて控えろ!」


 市民と海亀団のみなさんは、とっくに控えているけどね。


「申し訳有りません、皆様。御覧の通り、ご領主様は各所のネジが緩んでいるので己の道を進むのみなのです」

「わはは! 当然だ! 俺は俺の道を行くぞ! 俺は最強だからな!」


 高笑いしつつもキアードくん、死んでいることとネジが緩んでいることについては否定しないようだ。


「さあ、帝国皇女様が俺に挨拶をしに来たのだろう? 俺は挨拶したぞ! 次はそちらの番だな! ぬふわっ!」


 ティセさんが自然な仕草で、うしろからキアードくんの膝に触れた。

 膝カックンだ。

 キアードくんはよろめいた。

 まわりにいる騎士さんたちは何の反応もしない。


「ご無礼、平にご容赦ください。主に代わってお詫びいたします」


 ティセさんが私たちに頭を下げる。


「お初にお目にかかります、サウス辺境伯。わたくしが帝国第二皇女セラフィーヌ・エルド・グレイア・バスティールです」


 セラが礼儀正しく挨拶する。


「ふん……。第二皇女様は剣の天才で光の魔術まで操ると聞いていたが、とてもそうは見えんな」


 キアードくんが、不躾な目でじろじろとセラのことを見る。


「本当に申し訳ございません」

「うおわっ!」


 ティセさんがキアードくんの頭を力づくに押さえて、下げさせた。


「ティセ、どうして俺に頭を下げさせる!」

「礼儀以前の問題でございます」

「俺のほうが強いぞ! 絶対にだ!」


「セラ、辺境伯様がこう言っていることだし、軽くお相手してあげたら?」

「ですが――」

「ほほう! 面白い! やってやろう! 胸を貸してやる!」

「……良いのでしょうか?」


 ティセさんや騎士の人たちに否定する様子はない。


 というわけで。


 キアードくんとセラに木剣を渡した。


 対決。


 スタート。


「ぐはっ!」


 セラの最初の一突きで、キアードくんは豪快に吹き飛ばされた。

 地面に頭を打って気絶してしまう。


「す、すみませんっ! 大丈夫ですか!? 自信満々でしたから、まさかここまで弱いとは思わなくて!」


 驚いたセラが慌ててキアードくんのもとに駆け寄る。


「セラ、癒やしてあげたら?」


「はい。

 ――ヒール」


 セラの発現した真っ白な光がキアードくんを包む。

 先の鼻血と合わせて、みるみるダメージは修復されていった。


 まわりにいた人たちが驚く。

 聖女以外には使えないという光の力だしね。

 当然だろうけれど。


 まあ、でも、うん、セラの実力は十分に示せたよね。


「どうでしょうか、クウちゃん――。うまく癒せたとは思うんですけれど……」

「いいと思うよー」


 魔法はしっかり発動していた。

 ただ、セラが不安げな顔をするのでキアードくんの様子を見ることにした。


 私はキアードくんの枕元に膝をついた。

 傷は治っている。

 軽く頬を叩くと、


「ううう……」


 お。


 意識が戻ったようだ。

 ゆっくりとキアードくんが目を開ける。


 私と目が合った。


「おはよう」


 笑いかけると、キアードくんは私をじっと見た後、


「うおわああああああ!?」


 大声を上げて転がるように私から離れた。


 いや、あの。


 いきなり結婚しようとかなら、まあ、美少女のクウちゃんさまだしわかるけど。


 いきなり全力で距離を取られるのは少し傷つくんですけど。


 まあ、いいか。


「うん。元気そうだね」

「はい。よかったです」


 私は気を取り直して、セラと微笑みを交わす。


 その後でキアードくんを睨んだ。


「わかりましたよね? セラ――セラフィーヌ殿下は強いんですよ?」

「お、おう……」


 キアードくんがこくこくとうなずく。


「わかったなら、ごめんなさいは? あと癒やしてもらったんだから、ちゃんとお礼の一言は口にしてください」

「……お、おう。済まなかった……。感謝する……」


 なんだ。

 素直なところもあるじゃないか。


「よくできました。さすがは辺境伯様です」


 私は満足してうなずいた。


「主が大変に失礼いたしました。貴重な魔術もありがとうございます。

 それで――。

 話もまとまったところで、皆様――。

 よろしければお屋敷にご招待させていただきたいのですが。

 ご夕食など一緒にいかがでしょう。

 もちろん、お泊りする場所もご用意させていただきます」


 ティセさんが提案してくる。


「どうする、セラ? 任せるよ」

「では……。お受けいたします」

「ありがとうございます。ほら、ご領主様もお礼を言って下さい」

「礼は言ったばかりだぞ!」

「先程のは魔術に対するお礼でございましょう? 今回のお礼は、招きに応じてくれたことに対するものです」

「何を言っている? 招いてやったのだから俺が礼をされる側だろう? ほら、おまえら俺に頭を下げろ」

「本当に申し訳ございません」


 私とセラは、こうして今夜はサウス邸で過ごすことになった。


 アンジェたちはお招きを辞退してきた。

 アンジェとエミリーちゃんは、今日はたくさん遊んでもうクタクタということで普通に宿に泊まって寝るという。

 ゼノとフラウは、夜の屋台巡りに行くという。

 ヒオリさんは、アンジェとエミリーちゃんのそばにいてくれるそうだ。


 無理には誘わなかった。

 知らない貴族の屋敷なんて息苦しいだけだろうし。

 キアードくんの側も強引には誘ってこなかったし。


 私も正直を言えば夜の屋台巡りに興味は引かれるんだけど、さすがにセラを1人にするつもりはない。

 なので私はセラと一緒に行くけど。


 みんなとは明日の朝、広場で集合ということになった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いので一気見してます。 [気になる点] 本当に申し訳ございません」 「どうして謝るのだ、ティセ。第二皇女と俺ならば、辺境伯である俺のほうが立場は上だろう?」 「礼儀の問題でございま…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ