表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

231/1359

231 優しい夜と面倒な朝

 コント祭りをしようと言ったら、そういう雰囲気ではないと嫌がられた。

 一発芸を披露したら、くすっとセラが笑ってくれた。


 ふ。


 今夜はこれくらいで勘弁してやろう!


 ということで。

 なかなか芸大会のチャンスを見出せない私は精霊のクウです。


 でも、旅の間に一度はやる!

 やってみせる!

 明日は早めに宿を取って、じっくりと落ち着こう。

 そうすればできるはずだ。


 今夜は、ランウエルの砂浜で――。


 エミリーちゃんが作ってくれたキャンプファイヤーの火を見つめながら。

 たまに夜空を見上げたり。

 たまに優しい潮風に身を委ねてみたり。


 静かに過ごそう。


 ヒオリさんとゼノとフラウはたっぷり焼き肉を食べた後、砂浜の上に敷いたシートの上でごろんと寝転がった。

 寝てはいないようで、時折、会話に入ってくる。


 シルエラさんは火の番をしている。

 エミリーちゃんに教えてもらって、すっかり覚えたようだ。

 有能だ。


 エミリーちゃんは私にくっついて寝ている。

 すやすやと気持ちよさそうだ。


 シートの上に座っているのは、私とセラとアンジェ。

 ぽつぽつと会話をしていた。


「なんか、テントいらないね。このまま砂浜で寝ても平気そう」


 私は静かに笑う。

 空気は暖かいし。


「虫もいなさそうだしね。思い出すなー。クウがいきなり私の家の庭で寝ていて。起こすなり、虫、虫、って騒いで」


 アンジェも笑う。


「あー。あったねー。なつかしい」

「なつかしいってほど昔のことじゃないけどねー。と言いつつ、実は私もすごい昔のことにも感じてるけどさー」


「それってクウちゃんが、鉱物を取りに行く旅の途中のお話ですよね」

「うん。そう。家をもらう前だねー」

「わたくしも、あの頃には想像もしていませんでした。帝都を出て、こんなにも遠くに来てしまうなんて」

「昔に感じる?」

「昨日のことのようですが……。遠い昔にも感じます」

「おんなじね」


 アンジェがそう言って、3人で笑った。


「そうだ! ねえ、クウ、セラ!」


 アンジェが跳ねるように身を起こして、私とセラの前に立つ。


「私の魔法、見せてあげる! セラのすごいところはパーティーで見たけど、私のすごいところはまだよね! そういえば!」

「ぜひ見たいですっ!」

「みんな、頑張ってるんだねー。期待していいの?」

「もちろん!」


 ちょっと煽ってみたものの、努力家なアンジェのことだ。

 きっと、できるようになっているよね。


 結果は予想通りというか、予想以上。


 風の魔力で身体強化して、なんと10メートルくらい真上に跳び上がった。

 着地するや否やヒュンと一気に50メートル先までダッシュ。

 元の世界ならオリンピックで金メダルも楽勝だ。

 その後は夜空に向けて得意のファイヤーアローを10連発。


「……ふぅ。限界ぃぃ」


 そこで魔力が尽きたようで砂の上にへたり込んだ。


「すごかったです! 高かったですよ! 速かったですよ! 火の矢もあんなにも連発できるなんて! わたくし、感動してしまいました!」

「お疲れ様。はい、リフレッシュ」


 魔力回復の魔法をかけてあげた。

 指輪の回復効果もあるし、すぐに楽になるだろう。


「……ありがとう、セラ。

 ねえ、クウ。

 私、どうだった?」


「うん。すごかったよ。セラにも負けてなかったよ」

「……よかった。……負けてらんないしね」


 満足げな表情を浮かべて、アンジェがシートの上で仰向けになって寝転ぶ。


「夜空、本当に綺麗ねえ……」


 アンジェがそうつぶやくので、私とセラも寝転んで夜空を眺めた。


「本当ですね……」

「うん……。キラキラ瞬いてるねえ……」


 浜辺の夜は静かに過ぎていった。


 潮風が優しい。


 星と月の光が優しい。


 波の音も優しい。


 いつの間にかヒオリさんたちも寝息を立てている。


 この夜、私たちは砂浜に敷いたシートの上で、そのまま寝た。


 …………。


 ……。


 そして。


 翌朝。


「おいっ! このクソガキども! 起きやがれ!」


 男の人の怒鳴り声で私は目を覚ました。


 見れば私たちのまわりには、まるで海賊のような風体の、いかにもガラの悪い大柄な男たちが5人もいた。


「……えっと。なに?」


 寝ぼけ眼をこすって私はたずねた。


「ここはご領主様の私有地だ! 今は立入禁止だぞ! テメェら、どこから柵を乗り越えて砂浜にまで入ってきやがった!」

「はぁ。知らないし」

「なんだと! クソガキどもが! ぶっ殺されてぇのか!」

「やれるもんならやってみろってーの」


 朝からめんどくさ。


 まわりを見れば、もうみんな起きている。


「ねえ、クウちゃん。わたしたち、どうすればいいのかな?」


 エミリーちゃんが不安そうに、私にくっついてくる。

 セラとアンジェも不安げだ。


「うっさいなー。ボク、朝は苦手なんだよ」

「お腹が空いたのである」


 ゼノとフラウは呑気にアクビをしている。


 シルエラさんは静かに座っているけど、静かすぎて逆に怖い雰囲気だ。


 ヒオリさんは座ったまま私にすり寄ると耳元に囁いてくる。


「……店長。……どうか穏便に」

「わかってるてばー」


 私は身を起こすと、正面にいた髭面の大男を睨みつけた。


「で、なに?」

「テメェら、どこのガキだ? 見ねえ顔だが」

「帝都からの観光客」

「親は?」

「いませんけど」

「正直に言え」

「だーかーらー、いないってばー。私たちだけで遊びに来たのー」

「まあいい。ガキ共、一緒に来てもらうぞ。――おい」


「ほら立て!」


 まわりにいた大男の1人がゼノの腕をつかもうとした。


 その手をするりと躱してゼノは自分で立ち上がる。


「ねえ、クウ。こいつらどうする?」

「どうしようかぁ」

「あの、クウちゃん……。昨日のこともありますし、ここは、ついていく方がよいと思うのですけれど……」


 まあ、セラがそう言うなら、そうしようか。

 ヒオリさんも賛成みたいだし。

 暴力を振るわれたら問答無用だけど、今のところは大丈夫だし。


「ね、ねえ……。アンタたちって、この町の衛兵なの?」


 怯えつつもアンジェがたずねた。


「はぁ? 衛兵だぁ?」

「ああ、そうだよ。俺達がこのあたりを平和にしてやってるんだ」

「だから大人しくしてな」

「逆らうと、誘拐して売っちゃうぞー」

「ひゃははは!」


 ゲスな笑い方といい、粗暴な態度といい、とても衛兵には見えないけど、昨日の話ではまさに衛兵なのかも知れない。

 他所から来た人間には海賊と区別がつかないって話だったし。

 昨日、町にいたのもこんな連中だったし。


 こうして私たちは、テントの撤収もできないまま、ガラの悪い大男に囲まれて、どこかへと連れて行かれた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ