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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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226 閑話・少女たちの夏休み

【1】皇女アリーシャは退屈している


 退屈ですわ。

 やることがなさすぎて、つい甘い物にばかり手が伸びてしまいます。


わたくしはアリーシャ・エルド・グレイア・バスティール。

 帝国皇女としてお茶会は週に何度も開いていますが、さすがに飽きて最近ではただの義務です。


 メイヴィスとブレンダは実家に帰ってしまいました。

 あの2人がいないと、町を散歩する相手もいません。

 わたくしも友達が少ないものです。

 身分的に仕方ありませんけれども。

 もちろん誘えばいくらでも付いてくる者はいるでしょうけれど、そんな散歩など楽しくもなんともありません。


 その点、妹のセラフィーヌは羨ましい限りです。

 友達と一緒にバカンスなのですから。

 今はアーレに居るあたりでしょう。

 メイヴィスに目をつけられて決闘などしていなければいいのですけれど。


 南の海に行くと言っていましたが……。


 どんなところなのか気になって人に聞いてみましたが、風光明媚ではあるものの安全とは言い難い地域のようです。

 南洋は、海洋都市国家群やトリスティン王国につながっています。

 密輸や奴隷の需要が高いのでしょう。

 クウちゃんたちなど人さらいから見れば、絶好の獲物に違い有りません。


 もっとも心配はしていません。

 なぜならあの子の友達は、精霊であり、竜であり、賢者であり。

 同い年の子も、高名なフォーン神官の孫娘で、二属性の魔力持ちだそうです。

 1人だけ普通の平民の子もいるようですけれど。

 いずれにせよ……。

 海賊に襲われたところで平気でしょう。

 物語の通りに、皇女殿下の世直し旅ができてしまいますわね。

 クウちゃんにセラのことですから、自分から騒動に首を突っ込んで、積極的に成敗を決行するのかも知れませんが。

 羨ましい限りです。


 …………。

 ……。


 退屈ですわ。


 退屈のあまり、外出用の衣装に着替えてしまいました。

 共に歩く相手もいないのに。

 とはいえ、部屋で甘い物ばかり食べていては、体がぷよぷよになってしまいます。

 たまには体を動かさないといけません。


 せめてクウちゃんのお店が開いていれば、遊びに行きましたのに。


 思わずため息がこぼれてしまいます。


 馬にでも乗ろうかしら。


 と、思ったところで、良い相手がいることに気づきました。

 彼女とならクウちゃんのこともお話しできますし、物怖じしない子なので楽しい時間が過ごせそうです。


「出かけます。急ぎで準備を」

「かしこまりました」


 そばに控えていたメイドに命じます。

 一時間もあれば整うでしょう。

 馬車に護衛に。

 面倒ですが、1人だけで出歩くことは許されていません。




【2】マリエは店番をしていた


 ふぁーあ。


 あまりにお客さんが来なくてアクビが出てしまいます。

 カウンターの上に頬をつけたら、きっとそのまま寝てしまいます。


 私はマリエ・フォン・ハロ。


 ハロ映像店の一人娘です。

 一応、貴族なのですが名前だけです。

 暮らしは普通の平民と、何も変わりません。

 むしろ貧乏なくらいです。


 ただ、映像の仕事は楽しいので、今の生活は気に入っています。


 贅沢を言うなら、もう少しお客さんが来るといいんだけど。


「ねえ、お父さん、ちらしでも配ってみる?」


 私はお店のテーブルで映像機の手入れをしているお父さんに提案してみます。


「やめておきなさい。怖い人たちの目に止まって、ショバ代を請求されたらとんでもないことになるぞ」

「そんな人、帝都の大通りにはいないと思うけど……」

「何事もすべて慎重にだ。トラブルになってからでは遅いのだぞ」

「でも、お客さん、来ないよねえ……」


 今日は朝から1人もお店に入ってきません。

 昨日もでした。


「はっはっは! いいじゃないか! 我が家には今、マリエが稼いできてくれた大金があるのだ! お父さんは今、大船に乗ったように心が安らいでいるよ! 皇女殿下が来ても笑顔で接客できるくらいに!」

「ほんとにー?」


 この間は私に押し付けて逃げたくせに。


「本当だとも! もしも来たのならば、すべてお父さんに任せなさいっ!」

「……まあ、いいけど」


 来るわけないしね。

 クウちゃん、しばらく帝都を留守にするみたいだし。


 と、話しているとドアが開きました。


「いらっしゃいませー!」


 私は精一杯の笑顔で挨拶します。

 久しぶりのお客様です。


 契約、取らねば!


 と、思ったら、現れたのは立派なスーツに身を包んだ執事さんでした。

 どう見ても……。

 お客様ではなさそうです。


「あの……何か……?」


 私はおそるおそるたずねました。

 すると執事さんが、自己紹介をしてくれます。

 やっぱり執事さんでした。

 大宮殿から来たそうです。


「実は、これより30分後に、帝国第一皇女たるアリーシャ・エルド・グレイア・バスティール殿下がこちらにお見えになります」

「えっと、あの……」

「アリーシャ殿下は、マリエ様との散策を希望されておいでです。仕事の損失については大宮殿の方で十分に補填させていただきますので、マリエ様には外に出られる準備を整えていただきたいと――」


 私は返事に困って、お父さんに助けを求めました。


 お父さんは……。


 いませんでした。


 あれ?


 あ。


 床に寝そべって、死んだふりをしています!

 必死に目を閉じているのがバレバレです!


 お父さん!?




【3】ブレンダお嬢様は最前線がお好き


「よしおまえら! 次にゴブどもが姿を見せたら一気に突っ込んで殲滅するぞ! 様子見はもうおわりだ!」


 クウちゃん師匠に作ってもらった大剣を掲げて私は声を上げた。


「お嬢の久しぶりの戦闘だ! 手柄を立てさせてやろうぜー!」

「おおおー!」


 私に同行する20名の兵士も士気旺盛だ。

 全員が昔からの顔見知りで、獰猛で果敢で実戦経験豊富なモルド兵たちだ。


「頼むぜ、おまえら! 頼りにしてるからな!」


 私はブレンダ・フォン・モルド。

 帝都の学院に通う2年生だけど、今は実家に帰っている。


 今、私がいるのはザニデア山脈の浅い場所。

 ダンジョン町を上って、ダンジョンへの入り口から少し奥に進んだ森の中だ。


 岩場に陣取ってゴブリン共と対峙していた。

 狡猾なゴブリン共は、武装した私たちを相手に一気には攻めてこない。

 森の中からちらりちらりと姿を見せては石を投げつけて、私たちを森の中に誘い込もうとしてくる。


「もっとも――」


 私は大剣を肩に担いだ。

 腰をかがめて、切り込む準備を整える。


 ゴブリンたちがまたも現れた。


「――先頭をいただくのは、この私だけどなっ!」


 一足で跳んで叩き殺す。

 そのまま森の中に突撃した。

 手当たり次第に斬る。

 遅れることなく武器を振り上げてモルド兵たちも突っ込んでくる。


 ゴブリン共は逃さない。

 下がって罠にでもかけるつもりだったようだが、そうはさせない。

 一匹も逃さず、その場で殲滅した。


 ただ奥には、まだいるはずだ。


 私たちは迂回し、落とし穴があるらしきわざとらしい草むらを避けて、側面から残りのゴブリンに襲いかかる。


 5分とかけず、すべて殺した。

 他愛もない。

 手応えのない相手だった。


「お嬢、見違えるほどに強くなりましたな。まさかほんの半年で、そこまで魔力の浸透度を高めるとは」

「だろー? 開眼したんだよ、私は」

「末恐ろしいことで」

「しかし、なんでゴブリンがこんな浅い場所にまで出てるんだ? ゴブリンの生息地なんて山のずっと奥のはずだよな?」

「……さあ。原因は不明ですが、こいつらに馬が襲われたことは確かです。人間に被害が及ぶ前に駆逐できて幸いでした」

「だなー」

「それで、どうします? 奥に調査隊を出しますか?」

「それはやめとこ」

「何故ですか? 原因は究明した方が」

「私の師匠が言ったんだよ。ザニデア山脈の奥には絶対に行くなって」


 クウちゃん師匠に、かなり強い調子で言われた。

 なんでもジルドリアの連中が魔物の領域であるザニデアの深部に踏み込んで、古代竜の怒りを買っているのだとか。

 踏み込めば確殺だそうだ。

 師匠自身も不躾な連中に嫌悪を示していた。


 あるいは、そのあたりが理由で、深部の強力な魔物たちが荒ぶっていて、ゴブリン共は逃げてきたのかも知れない。


 だとすれば、ますます近づかない方がいいだろう。

 そもそも下手をすれば、クウちゃん師匠まで敵に回しかねない。

 勝ち目はないね。


「ご領主様と兄上様が納得されるかどうか……」

「そのあたりは私から言うよ」


 クウちゃんのことを知っているウェイスの兄貴なら理解できる話だ。

 親父は……。

 最悪、私の忠告なんて無視して突っ込みそうだけど。

 その時にはぶん殴って止めればいいや。

 それがモルドってもんだ。


「おし、魔石を集めて撤収するぞー! 帰ったら訓練な! 私、まだ暴れ足りねーから付き合ってもらうぞー!」


 死体を土に埋めるのは、後続の新人兵士たちの仕事だ。


 私は最近、ますます力が漲るのを感じている。

 学院祭の時より、遥かに強くなっている自分を自覚している。


 魔力がなんなのかは、正直、わかってねーけど……。


 気合を込めれば、体がついてくる。


 それだけは理解できていた。

 力を入れすぎるとすぐにバテちまうのが難点だけど、訓練を繰り返して継続可能な分量は掴めた。

 やる気がもりもり湧いてくるってモンだ。



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