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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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222 閑話・騎士の子

「面白いではないか! その余興、是非に楽しませてもらおう! さあ、皆も娘たちの準備が整う前に庭に出るといい!」


 ご領主様が乗り気になったことで、メイヴィス様と異国の王女の決闘はパーティー全体の催しと化した。

 メイドに促されて、俺も父上と共に庭に降りた。


 俺はテオルド。


 アーレが誇る黒騎士隊、その騎士隊長の家に生まれた男。

 長男だ。

 今年で10歳になる。


 幼い頃から体を鍛え、剣の腕を磨き、将来は父の跡を継いで黒騎士に、そして隊長になることを夢見ている。


 騎士は貴族だが、その地位は世襲ではない。

 ご領主様に認められ、自力で勝ち取る必要があった。

 我が家はすでに100年以上、歴代のご領主様から認められ続け、騎士の家として長い伝統を誇っている。

 俺の代で途絶えさせるわけにはいかない。

 そして、2人いる弟たちに負けるわけにもいかない。


 俺は常に、次の騎士として誇り高く生きねばならないのだ。


「そう片意地を張るな、テオルド。肩の力を抜け」


 父上が、ポンと俺の肩を叩いてくる。


 俺には不満があった。

 先の件は、もういい。

 俺も人目のある場所でカッとなりすぎた。


 それに俺の前に立ったエミリーという女はセラフィーヌ殿下の関係者――旅を共にする従者のようだった。

 見れば、エミリーという女はセラフィーヌ殿下のそばにいる。

 ご領主様や貴族の方々に混じって、だ。

 エミリーは貧乏人の娘だと名乗ったが、そんなことはなかったわけだ。

 俺は浅はかだった。

 エミリーの着るドレスは高級品だ。

 たとえ借り物だといっても、貧乏人が着られるはずもない。


 加えてエミリーと一緒にいた赤毛の女もそばにいる。

 赤毛の女はアンジェリカと言い、帝国でも名の通ったフォーン神官の孫娘なのだそうだ。

 つまりは、アーレの名家の娘だ。

 俺は知らなかった。

 同年代でも、女とはまったく交流がないのだ。

 しかし、名家の娘ならば、何かの式典で見たことはあるはずだった。

 記憶していなかった俺の不覚だ。


 3人は親しげに言葉を交わしている。


 メイヴィス様と父上、それに異国の王女には感謝しなくてはならないのだろう。

 2人に手を出していれば俺の人生は詰んでいた。

 知らなかったで済む話でない。

 憂鬱だが、アンジェリカとエミリーには謝罪に行く必要がありそうだ。


 正直、俺はすぐにでも謝罪に行きたかった。

 だが、今はそういう場ではなくなっている。


「……父上は、女同士の戦いなど、見る意味や価値があるとお思いなのですか?」


 これから見ることになる余興は、心底、くだらないものになるだろう。

 女の剣など遊戯と同じだ。

 そんなものを見るために時間を使うのは無駄でしかない。

 俺は大いに不満だった。


「そういえばおまえは、メイヴィス様の剣は見たことがないのだったな」

「見たことはありませんが、噂は聞いています。……狂犬、と」


 最後の言葉は、他には聞こえないように気をつけた。

 だが陰で言われていることだ。


 メイヴィス様は、平素の見た目だけで言うならば、清楚で涼しげで、寛容で優しい雰囲気のある御方だ。

 だが、それはあくまで平素の見た目に過ぎない。


 実際には、気に入らないことがあればすぐに剣での対話を求める、非常に攻撃的な性格の持ち主だ。

 そして、その沸点は低い。

 本当に簡単なことで戦おうとする。

 喧嘩を売られた方は、たまったものではないらしい。

 なにしろメイヴィス様は、ご領主様の孫娘――ローゼント公爵家のご令嬢だ。

 さらに将来は、ローゼント公爵家にも並ぶ帝国の大貴族――モルド辺境伯家の正妻となられる御方だ。

 万が一にも、そんな御方に傷でもつけようものなら……。

 考えただけでも恐ろしい。

 メイヴィス様は、半殺しにされても文句は言わないと公言しているようだが、そういう問題ではないのだ。


「だけどそれは性格の問題であって……。強さとは別の話ですよね」

「よく見ておくといい。得るものはあるはずだ」

「俺が……?」


 まさかとは思うが、俺よりも強いと言いたいのだろうか。

 俺は、剣の腕には自信がある。

 この歳ですでに騎士とも打ち合うことができる。

 相手が衛兵なら打ち勝つこともできる。

 俺に勝てる同年代など、男でもいない。


 話していると、戦いの準備で控室に行っていた異国の王女が庭に現れた。

 セラフィーヌ殿下のところに行き、何やら話している。

 ご領主様とも会話している。

 最後は殿下の手を取って、控室に連れていった。


「皆! 聞け!」


 ご領主様の大きな声が庭に響いた。


「これから始まる余興だが! なんと! 異国の王女に代わって、かの皇女殿下の世直し旅で名を馳せた我が孫セラフィーヌが、同じく我が孫であり皆もよく知るメイヴィスと戦うことになった!」


 庭が、おおおおおお!と、驚きと期待の声で包まれる。


「ほお」


 父上も興味を示したようだ。


「これは世紀の一戦となる!

 世直し旅で歌われる皇女殿下の力が――嘘か真か!

 皆、刮目して見るのだ!」


 さらなる歓声が起こった。


 皇女殿下の世直し旅は、俺も知っている。


 俺と同い年、しかも女のセラフィーヌ殿下が諸国を漫遊し、その光の力と剣の技で悪を懲らしめていくのだ。


 お話としては面白いと思った。


 だが、あれはあくまでもお話だろう。

 事実のわけがない。


 これからおままごとの剣技を見せられて、お付き合いで拍手喝采しなければいけないのかと思うと、心底、嫌になる。

 だが、気持ちを切り替えて、感動するフリはしなくてはならない。


 しかし、ご領主様は、剣の何たるかも知らないのか。

 俺は心の中で落胆する。


 たかが女の剣で、世紀の一戦とは――。


 もしかしたら本当にご領主様はセラフィーヌ殿下やメイヴィス様が剣の達人だと思っているのかも知れない。

 俺は将来、そんな人間に頭を下げ、認められなければならないのか。

 嫌になってくる。

 だけどそれでも俺は騎士になりたい。

 俺は誇り高く、父上のように漆黒の鎧を身にまとい、堂々と生きていきたいのだ。

 俺は自分に言い聞かせる。

 これは義務だ。


 本音は押し殺して、せいぜい感動するとしよう。




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