22 採掘しよう
私はおバカさんだったらしい。
自分では実のところ、しっかり者の器量よしだと思っていた。
なにしろゲームではパーティーリーダーとして人をまとめてきた。
なにしろゲームでは作戦を立案して実行してきた。
なにしろゲームでは生成スキルでいろいろなものを作ってきた。
うん。
全部ゲームなんですけどね!
今、私は山脈を構成する岩山のひとつに来ていた。
とんがり山まではまだ距離があるけど、ダンジョン町はすでに見えない。
それなりに奥だ。
危険な場所と言われていたけど、今のところ敵感知に反応はない。
ここで、しばらく存在を忘れていた技能『採掘』をセットしてみたところ、採掘ポイントがあった。
で、今、その採掘ポイントの前に立っているのだけど……。
「どうやって掘ろうね。あはは」
なんの準備も、してきませんでしたぁ!
ゲームと同じ仕様なら、『採掘』をセットした状態で採掘ポイントにツルハシを当てれば勝手に掘ってくれる。
そう、採掘にはツルハシが必要なのだ。
完全に失念していた。
ダンジョン町に戻れば売っていると思うけど……。
できれば戻りたくない。
そもそも銅貨で買えるのかわからない。
試しに蹴ってみる。
ひ弱な精霊とはいえ私はレベルカンスト。
カイルのことから見ても、威力はけっこうあるはずだ。
岩くらい簡単に砕けるはずだ。
砕けなかった。
さすがは岩。
魔力を込めて蹴れば砕けたけど、砕けすぎて粉々になってしまった。
明らかに鉱石にはなりそうになかった。
加減が難しそうだ。
次は黒魔法でやってみよう。
「ライトニングボルト」
雷撃を受けて、岩が盛大に砕ける。
様々な大きさの破片が飛び散った。
これは成功の予感だ。
破片をいくつか拾って、アイテム欄に入れた。
アイテム欄に入れれば、そのアイテムの名前や特徴を見ることができる。
収納だけでなく、鑑定にもなるのだ。
アイテム欄が便利すぎて助かる。
お。
やった。
ひとつが青銅石だった。
近くには別の採掘ポイントもあったので、そちらでも同じようにライトニングボルトで岩を砕いて破片を収納。
こちらでも、ひとつの青銅石が見つかる。
青銅石がふたつあれば。
ソウルスロットに生成『鍛冶』をセットして、早速、試してみる。
岩の上に座って、ふたつの青銅石を置く。
「――生成、ブロンズインゴット」
素材が光に包まれる。
5秒待機。
光が収まって、完成。
見事なブロンズインゴットが目の前にはあった。
「やった!」
クウ・マイヤとして異世界イデルアシスに来て苦節数日。
苦節ってほど苦労はしてこなかったけど。
むしろたくさんの人に助けられて、美味しいものを食べさせてもらって過ごしてきた気もするけど。
ともかく、ようやく。
自活への第一歩が始まったのだ。
剣やツルハシを作るには、あとは木材があればいい。
青銅なので鉄製と比べれば性能は落ちるけど、初心者には十分なはずだ。
安価だしね。
「木……生えてないかな……?」
見渡すと、少し離れたところに生えていた。
飛んで近づいて、黒魔法「ウィンドカッター」で切り倒す。
これ、アレだね。
魔法で十分に素材取りは可能だ。
アイテム欄に入れると、ちゃんと原木と出ていた。
さあ、剣を作ってみようかなと思ったんだけど、剣の生成にはブロンズインゴットがふたつ必要だった。
「とりあえず採掘しまくるか」
その前に確認。
私はステータス画面を開いて、技能『採掘』の熟練度を確かめた。
数値は変わっていなかった。
どうやら魔法での採掘ではダメらしい。
『採集』も上がっていなかった。
私の収集熟練度は低い。
採掘は3。
現状では、レア鉱石の採掘なんて夢のまた夢だ。
早く上げたい。
となれば。
ソウルスロットを入れ替えつつ。
「――生成、木材」
「――生成、ブロンズピック」
よし、できた。
ツルハシならインゴットひとつと木材でオーケーなんだよね。
ツルハシを構えて採掘ポイントに向かう。
そして、採掘。
熟練度が低くて採掘ポイントを目視することはできないので、手当たり次第に周囲の岩壁にツルハシを当てた。
5回目で成功。
心地よい音と共に岩が砕ける。
青銅石が落ちた。
ステータス画面を見ると熟練度も小数点以下だけど少し上がっている。
よし、いいね。
ミニマップを頼りにポイントを探して私は採掘を繰り返す。
ツルハシが壊れたらまた作る。
そうしていると、一匹のオオトカゲが岩陰から姿を現した。
「うぉっ!」
私はびっくりして身構えた。
ただ、敵感知に反応はない。
「や、やっほー。うるさかった? ごめんね」
「…………」
オオトカゲくんは私のことをしばらく見つめた後、身を返すと岩陰へと戻った。
凶暴そうな顔立ちだったけど、大人しい子のようだ。
飛んでいるとワイバーンが寄ってくることもあった。
彼らは私に近づいて、きゅるるる、と挨拶しては離れていく。
襲ってくる様子はない。
この世界のワイバーンは人懐っこいんだねえ。
さらに岩の上から真っ白な巨大狼が見下ろしていることもあった。
威厳のある姿だった。
この一帯のボスかも知れない。
襲ってくることはなく、やがて身を返して姿を消したけど。
うん。
みんな大人しい。
私は思う存分、採掘することができた。
採掘ポイントは時間経過で復活する。
見つけた5箇所を、休憩を挟みつつ飛んで周回した。
「……ふう」
気がつくと空が赤く焼けていた。
夕方だ。
さて。
今夜はどうしよう。
さらに、喉が乾いたけど水がない。
我ながら準備不足もいいところだ。
ソウルスロットを変更。
生成技能の鍛冶でブロンズインゴットからバケツを製作。
バケツを持って空を飛ぶ。
ゲームではいらない調度品の筆頭だったバケツくん。
熟練度上げで大量に作られてはそのまま処分されるだけの子だったけれど。
あってよかった!
ありがとう!
川を探す。
お、谷底に水の流れを発見。
降りてバケツで汲み上げる。
「――生成、ミネラルウォーター」
ソウルスロットに生成技能の調理をセットして浄化すれば飲料水の完成だ。
がっつり飲んで生き返った。
「いやー、素材さえあれば、なんでもできるね、私!」
そうこうしている内に日が暮れた。
夜。
空には月と星が輝く。
「……せめてテントがほしい。素材さえあれば」
高い岩の上に座って、星を眺めた。
大宮殿でもらってきたパンと干し肉とフルーツを食べる。
美味しい。
さすがは大宮殿の食材。
「そうだ」
ステータスを確認してみる。
わずか3しかなかった採掘の熟練度が30まで上がっている。
素晴らしい。
30あれば鉄鉱石も確実にミニマップにポイント表示される。
鉄鉱石があれば鉄の武具を作ることができる。
ちなみに熟練度はレベルと同じで120まで上がる。
なので先は長い。
とはいえ、このペースで上げられるのならば、遠からず貴重な鉱石の採掘ポイントを見ることができるようになりそうだ。
「明日は、もう少しとんがり山に近づいて掘ってみるか」
たぶん、とんがり山に近づけば近づくほど、採掘に必要な熟練度は上がる。
少しずつ進んで熟練度を上げていこう。
アイテム欄には青銅石が120個。
今日は頑張った。
この120個だけでも、かなりの仕事はできる。
ちなみにゲームで他種族なら、確実にもっとたくさん取れた。
精霊は筋力と体力がないので、どうしても途中で疲れて休憩が必要になるのだ。
熟練度が上がれば、マシにはなっていくけど。
でも、まあ、十分な成果だ。
でも満足はしない。
次は鉄鉱石を掘る。
うん。
頑張ろう。
そして最後には、とんがり山で何かひとつはレアな石を掘りたい。
夜の景色の中でも、とんがり山はそびえている。
夜空よりも暗く、くっきりと。
「ぐるるるるる……」
とんがり山を眺めていると、うしろから獣の唸り声が聞こえた。
敵感知に反応はない。
振り向くと、真っ白な巨大狼がいた。
採掘中に見たボスっぽい子だ。




