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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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212 フロイト、再び(初対面は13話)





 宿場町が見えてきた。

 町は、川を越えた橋の向こう側だ。


 馬車が橋に差し掛かる。


「……ヒオリちゃん、わたし、平気そう?」

「はい。そのまま手綱は動かさず、馬に任せてお進みください」

「うん……」


 御者台からエミリーちゃんの緊張した声が聞こえる。

 今、馬車を操っているのはエミリーちゃんなのだ。

 がんばれ。


 私は開けた窓から身を乗り出し、温泉の匂いを感じつつ宿場町に目を向けていた。


 宿場町は、まさに温泉街な感じだった。

 橋を越えたT字路の左右、川の断崖沿いに、6軒の宿が建ち並んでいる。

 川原には源泉があって、もくもくと白い湯気が立ち昇っている。

 源泉から宿場町にはパイプが伸びていて、建物の中でも温泉は楽しめるようになっているようだ。


 川原には露天風呂もあって、そこはタダで入れるようだ。

 冒険者らしき厳つい男性の一団が、川を渡る橋から思いっきり丸見えなのに平然と全裸で浸かっていた。


「セラっ! セラっ! ほら、あれ見てあれっ!」

「なんでしょうか。って! やーん!」


 私はセラを呼び寄せて見せてあげた。

 ウブなセラは裸を観た途端、顔を真っ赤にして馬車に引っ込んだ。


 私に気づいた冒険者の男性が笑顔で手を振ってくる。

 全裸のまま。


 う。


 私は逃げるように馬車に引っ込んだ。

 目が合ったら急に恥ずかしくなった。


「もう、クウちゃんったら……。えっちなのはダメです……」

「えっちというか……。だって向こうが勝手に見せてただけだし……」

「わたくし、男性の裸なんて、生まれて初めて見てしまいました……」

「わ、私もなんだけどね……」


 恥ずかしながら。

 前世でも特にそういうことに縁はなかったし。


「2人とも愉快な反応なのである」

「あははは! ニンゲンの裸なんてどうでもいいのにねー。それより、これ、ピリッと辛くて美味しいねー」


 フラウとゼノは外に興味を示さず、アイテム欄から出してあげた帝都名物の姫様ドッグを食べていた。


 私はちらっと、窓の縁から顔を出して、もう一度だけ見てみた。

 するとまた気づかれて満面の笑顔で手を振られた。

 あわてて隠れた。

 ゼノにまた思いっきり笑われた。

 くぅぅぅ。

 クウちゃんだけにくぅぅぅ。

 ちがうんだよ別にエッチなアレじゃくて! ちょっとした好奇心というか源泉の様子が見たかっただけだから!

 我ながら必死に言い訳している内、馬車は橋を渡った。

 道は左右に分かれている。

 どちらにも、3軒の温泉宿が並んでいた。


「ついたよー!」


 御者台からエミリーちゃんの元気な声が届いた。


「エミリー殿、立派に御者を務めましたな」

「うん! よかった! 教えてくれてありがとう、ヒオリちゃん!」

「いえいえ」


 私は気を取り直して、コホンと息をついた。


「さて。宿を決めないとね」


「クウに任せるよー。ボク、ニンゲンの町のことはまだよくわからないし」

「で、ある」

「わたくしもクウちゃんにお任せします」


 3人にそう言われて、ならばと私は1人で馬車から降りた。

 タイミングよく客引きたちが寄ってきた。


 うちは安いよー。

 うちは魚料理が名物だよー。

 うちは綺麗だよー。

 うちはお風呂が自慢だよー。

 うちはー。


 ふむ。


 セールストークだけでは、どこがいいのかわからないね。

 客観的な情報がほしいところだ。

 というわけで、客引きのお姉さんに冒険者ギルドがあるかどうか聞いてみた。


「冒険者ギルドならここを左に曲がった奥に出張所があるけど……。護衛は、今は見つからないかも知れないよ」

「いえ、護衛は十分なんですけど。何かあったんですか?」

「最近、悪霊騒ぎがあってねえ……。冒険者は駆り出されているんだよ……っと。まあ気のせいだろうけど。ここは平和だし。せっかくの温泉を楽しんでいってよ。案内しますねーこちらでーす」


 あれ、なんか案内される流れになったけど。

 あ、ずるいぞ、と、他の人から非難の声が上がるけど、お姉さんは悪びれた様子もなくニカッと私に笑った。

 まあ、いいか。

 逞しいのは嫌いじゃないし、これも縁なのでお姉さんについていってみよう。


「うちは魚料理が自慢でねー。期待してくれていいよー」


 というわけでチェックイン。

 木造4階建ての旅宿だった。

 一階が食堂になっているのはお約束。


 馬と馬車を預けるスペースも、しっかりとある。

 馬くんには、ゆっくり休んでもらおう。

 明日も頑張ってもらわないといけない。


 お風呂は別館とのことだった。

 ちゃんと男女別でよかった。

 お風呂の脇には洗濯場もあって、好きに使っていいそうだ。


 私たちは3階の5人部屋に案内された。

 板張りの殺風景な部屋だ。

 窓際に椅子とテーブルが置いてあるだけで、他にはなにもなかった。


 布団がほしい時は、有料で貸してくれるそうだ。


 食事は夜と朝が出る。

 自慢の魚料理。


「食事は下で取るんだけど……。うーん。面倒な連中が来るかもだし、部屋にまで運んできてあげようか?」

「あ、いいですよー。普通に食べますので」

「いいの? 大丈夫?」

「平気だよー。私たち、こう見えても強いからー」

「ならいっか。護衛の人には、やりすぎないように言っておいてね? 相手が貴族のボンボンだと面倒なことになるし」

「りょうかーい」


 むしろ貴族のボンボンなんて、セラにちょっかいをかけたら人生終了になってしまう気もするけど。


「では、ごゆっくりー」


 お姉さんが部屋から出ていって、私たちだけになった。


「わーい♪ 綺麗な床だー♪」


 待ってましたとばかりにエミリーちゃんが床に転がる。


「わぁ。窓から見る景色、綺麗ですよー」


 私はセラと窓辺に行った。


「裸の人たち、さすがにここからだと見えないかー」

「もうっ! クウちゃんっ!」

「あはは」


「ねーねー、裸の人って、なぁに?」


 御者に必死だったエミリーちゃんは露天風呂に気づいていなかったようだ。


「えっとね、さっき、川原で――」

「わーわー! クウちゃん! ダメですダメですっ! エミリーちゃんはまだ子供なんですから男の人の裸なんてっ!」

「男の人の裸?」


 エミリーちゃんがこてりと首を傾げる。


「わーわー!」


 セラは、うん、なんていうか、よくわからないけど必死だ。


「わたし、別に平気だよ?」

「そなの?」


 私はたずねた。


「だって宴会の時、お父さんも他の人もよく服を脱ぐし。いつも見てるからぜんぜん恥ずかしくないよ?」

「そうなんだー」

「……い、いつも見ているなんて」


 あ。


 セラが固まった。


「ねえ、そんなことよりさー。夕食の時間までどうする? 森の探検は夜でいいよね」


 頭のうしろに手を組んでゼノがたずねてくる。


「町を見て歩こうか」

「クウちゃん、わたし、お休みしていていい? 疲れちゃった」

「うん。いいよー。ゆっくりしていて」


 エミリーちゃんは御者を頑張っていたしね。


「某も休憩させていただきます」

「ヒオリさんもお疲れ様。明日からは私も手伝うねー」


 するとエミリーちゃんがアクビをしつつ、明日もわたしがやるからクウちゃんはやらなくていいよーと言ってくる。

 将来に備えて、しっかり学んでおきたいそうだ。

 エミリーちゃんは、まだ8歳なのに、本当にしっかりしているねー。

 でも、そういうことなら、私がでしゃばるのはよくないか。

 エミリーちゃんにお任せしよう。


 というわけで。


 私とセラ、ゼノとフラウ、4人で散歩をした。

 もちろんシルエラさんもついてくる。


 私とセラはローブをかぶった。

 まあ、うん。

 メイド姿のシルエラさんがいて、人目につくゼノとフラウが一緒ではあまり意味はないかもだけど。

 でもセラには立場があるし、顔は見られないほうがいいだろう。


 宿場町は平和だった。

 私たちと同じように宿を取った旅の人たちが出歩いている。

 屋台が出ていて、温泉卵を売っていた。

 悪霊に怯えている様子はない。

 屋台のおじさんに聞いてみたら、大したことじゃないから気にしなくていいよと困った顔をされたけど。

 地元の人としては触れてほしくない話題のようだ。


 そうして日が暮れて夜になった。


 宿の一階の賑わしい食堂で、私たちは魚と山菜の料理に舌鼓を打った。

 ヒオリさんとエミリーちゃんも起きてきて一緒だ。

 料理は自慢するだけあった。

 特に、開いた川魚を油でカラッと揚げた料理が絶品だった。


 私たちは、満足して夕食を楽しんでいた。

 食堂は平和だった。

 絡んでくる人も喧嘩する人もいない。

 みんなそれぞれに楽しそうだ。


 そんな中、出来事は起きた。


 バンっ!


 と、乱暴にドアが開く。


 現れたのは、金属鎧に身を包んだ――一見して騎士な男だった。

 うしろには10人もの兵士がいる。


 私は騎士の顔に、思いっきり見覚えがあった。


 いかにも育ちがよさそうで、いかにも人を見下すことに慣れていそうな男だった。

 前髪を切り揃えたマッシュルームカット。

 いやらしく歪んだ目と口と高く伸びた鼻。

 うん、あれだ。

 典型的な貴族のボンボンだ。


 エミリーちゃんが、びくっと怯えるように身をすくめた。


「聞け! 今より不審者がいないかどうかの検査を行う! 大人しく我々の言うことを聞くように!」


 名前はたしかフロイトだったか。

 エミリーちゃんの住むネミエの町で好き放題していた罰として、今は騎士団で修行中のはずだけど。


 フロイトは、いやらしい顔で客を値踏みする。


「ほほう、ここは若い女が多いな。これは念入りに調べる必要がありそうだ」


 私は確信した。

 こいつ、あの頃と何も変わっていない。

 許さん。






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― 新着の感想 ―
[良い点] 親切タイトルありがとうございます\(^o^)/ 名前はしっかり忘れてました~\(^p^)/ 裸……このままじゃあ、かしこい(?)精霊さんが小学生男子になっちゃいそうですね~\(^p^)/…
2021/10/29 21:31 退会済み
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