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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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210 閑話・セラフィーヌも目を覚まして

 深夜、ふいにわたくしは目を覚ましました。

 ぼんやりと身を起こして、ほんの一瞬、びっくりします。


 わたくしがいるのは、いつもの部屋ではありませんでした。

 いつものベッドの中でもありません。


 わたくしは、セラフィーヌ・エルド・グレイア・バスティール。

 いつもは帝国皇女として大宮殿で暮らしています。


 すぐに現状は把握できます。


 今、わたくしは生まれて初めての旅に出ているのでした。

 ここは大宮殿ではないのです。

 テントの中なのです。


 ただ、それを理解しても違和感は残りました。

 同じテントで寝ていたはずの、クウちゃんとフラウちゃんの姿がないのです。


 テントの中には、わたくしとエミリーちゃんだけがいました。

 クウちゃんがいないからですよね。

 エミリーちゃんはわたくしの腰に抱きついていました。


 どうしましょう……。


 わたくしは少し悩んだ末、エミリーちゃんを揺さぶりました。


「……エミリーちゃん。……エミリーちゃん」

「んにゃあ?」


 エミリーちゃんが寝ぼけ眼でわたくしのことを見上げます。

 そして、跳ね起きました。


「魔法っ!? わたしも見るっ!」


 そういえば以前にもありましたよね。

 お父さまの演説会の夜、クウちゃんの家で、朝までクウちゃんに魔法を見せてもらったことがありました。


「いいえ……。ただ、クウちゃんとフラウちゃんがいないので、様子を見に行こうと思うのですけれど……」

「わたしも行くっ」

「はい」


 にっこり笑ってうなずきます。

 ひとりだけ残されるのは、寂しいですしね。


 わたくしたちはテントから出ました。


 驚きました。


 深夜の世界が、びっくりするほど明るいです。

 空には星と月があって、わたくしたちの体から影を伸ばします。


 空き地の縁にはフラウちゃんがいました。

 ひとりで静かに、斜面の先の川を見下ろしているようです。


 クウちゃんとゼノちゃんの姿はありませんでした。


「なんでしょうか……」

「行ってみよ……」


 エミリーちゃんに手を引かれて、わたくしは空き地の縁に立ちました。

 フラウちゃんのとなりです。

 わたくしたちがそばに来てもフラウちゃんは反応をしません。

 静かに、川に目を向けるばかりでした。


 わたくしも川を見下ろします。


 深夜――。


 川は煌めいていました。

 夜空よりも眩しいです。


「うわぁ。きれい」


 エミリーちゃんが声を漏らします。


 煌めきは、水面に浮かぶたくさんの金色の光でした。

 金色の光が、踊るように舞っているのです。

 まるで生きているように。


 その中にクウちゃんとゼノちゃんがいました。


 水面の上に浮かんで、金色の光と遊んでいます。


「……あの、これって」

「妖精なのである。ここはもしかしたら千年の昔、イスンニーナが愛した川なのかも知れぬのである。今となっては、知る術もないのであるが……。いずれにせよ、今は妖精たちの郷なのであるな」


 舞っている金色の光が、妖精ということなのでしょうか。

 ここからでは姿までは見えませんが、たぶん、そうなのでしょう。


 クウちゃんとゼノちゃん――

 精霊に惹かれて、姿を現したということなのでしょうか。


「ねえ、フラウちゃん。わたしたちは行っちゃダメ?」

「やめておくのである。それは無粋なのである。妖精たちは基本的に、人間も魔物も恐れるのである」

「そっかー。わかった」


 エミリーちゃんは素直にうなずきました。


「綺麗ですね……」

「で、ある」

「妖精って、どんな存在なんですか?」

「魂を宿した自然なのである」

「……精霊とはちがうんですよね?」

「うむ。妖精は、自然の中に生まれて、この世界で生きるもの。精霊は、自然を司り、別世界に魂を置くもの、である」


 フラウちゃんの言葉は、正直、よくわかりませんでした。

 ただ心には残りました。


 そして、妖精とたわむれるクウちゃんを見ていて、私は思いました。

 ああ、やっぱりクウちゃんは精霊なんだなぁ……。

 と。


 そう思う気持ちは決してネガティブなものではないのですけれど、ほんの少しだけ寂しさも覚えます。

 クウちゃんがわたくしとはちがう領域にいるのだと、そう思えてしまって。

 同じ場所にいて、同じものを見ているのに。


 わたくしたちはしばらく景色を眺めた後、テントに戻りました。

 再び眠りについて。

 夜明け前の時間に、目を覚まします。


 外に出て川原を見下ろすと、砂利の上でクウちゃんとゼノちゃんが寝ていました。

 もう妖精さんたちの姿はありません。

 わたくしは斜面を降りて、2人の肩に手を起きます。


「クウちゃん、ゼノちゃん。こんなところで寝ていたら風邪を引きますよ」


 いくら夏とはいえ、夜明け前の川原はそれなりに冷えます。


 少し揺さぶると、2人は目を覚ましました。

 クウちゃんが笑って言います。


「いやー、昨日、川が光ってたから何かと思って見に行ったら、妖精さんたちがたくさんいてねー。思わず遊んじゃったんだよー」

「みたいですね」

「あれ? 知ってたんだ?」

「はい。わたくしたちも目が覚めたので、上から少し見ていました」

「そかー。気を使わせちゃったね」

「いえ。妖精さんたちは人間と魔物が苦手だとフラウちゃんも言っていたので」


「昔、妖精狩りがあったんだよ。魔道具の材料にするために。それでニンゲンの前に姿を現すことはなくなっちゃったみたいだね。イタズラ好きで、ニンゲンをからかうのが大好きな子たちだったんだけど」


 ゼノちゃんが少し淋しげに教えてくれます。


「そうなんですか……」

「あ、今はニンゲンからも忘れられて平和にやってるみたいだから、セラは別に気にしなくていいよ」

「はい……」


 昔というのがどれくらいの昔なのかによりますが、それは、わたくしの祖先が行っていたことなのかも知れません。

 なので、上手く気持ちを言葉にすることができませんでした。


 クウちゃんにもゼノちゃんにも、気にする様子はありませんでしたけれど。


 ヒオリさんとエミリーちゃんも起きてきました。


 朝の空気の中、しばらく川原でのんびりとしました。


 その後で朝食の支度です。


 昨日のエミリー先生とヒオリ先生の指導を基に、わたくしとクウちゃんが2人で朝食作りに挑戦しました。


 ヒオリさんとゼノちゃんとフラウちゃんは、その間にテントを片付けて、馬のお世話をするそうです。

 エミリーちゃんはわたくしたちの見学です。


 クウちゃんがアイテム欄から取り出すのは、白いつぶつぶでした。

 リゼス聖国で流行っている食べ物だそうです。

 お米というそうです。


 わたくしは食べたことがありません。

 たぶん、帝国では、ほとんど馴染みのない食材ではないでしょうか。

 エミリーちゃんも知らないと言いますし。


 大丈夫なのでしょうか……。

 そんな未知の食材。


 クウちゃんは自信満々ですけれど……。

 クウちゃんは、失敗する時でも自信満々なので……。


 クウちゃんがお米を洗い始めます。


 わたくしは火を起こします。

 やり方は、昨日、エミリー先生に教わりました。

 ちゃんと覚えています。

 なのでできるはずです。


 と、思ったのですけれど、火をつけるのは本当に大変でした。

 結局、手伝ってもらいました。

 次からは自分だけでもできるようになりたいです。


 お米は、炊いて食べるそうです。


 お鍋の中にお米と水を入れて、まずは一気に沸騰させます。

 沸騰したら弱火で15分。

 火加減は薪の量や鍋の位置を変えて、エミリーちゃんがやってくれました。


 加熱したら、次は20分ほど蒸らすそうです。

 これでしっかりと中まで火が通って、美味しく食べることができるはずだとクウちゃんは言っていました。


「クウちゃんは、作ったことがあるんですか?」

「うん。あるよー」

「そうなんですか。それなら安心ですね」

「自動だったけど」

「自動……ですか?」

「うん。ボタンを押して、後は待ってるだけで完成ー」

「そうなんですか。すごいですね」


 リゼス聖国には、便利な魔道具があるようです。


「だから、こうやって作るのは初めてなんだけど……。たぶん、たしか、私の知識的にはこれでいいはず……」


 少しだけ。


 ほんの少しだけ怪しい雲行きですが。


 いけませんっ!


 お友だちを信じないとっ!


 クウちゃんが失敗なんてするはずはないんですから!


 ……昨日、しましたけど。


「あ、いざとなれば、屋台の食べ物があるから。だから安心して、ね」


 クウちゃんが苦笑しつつ、そんなことを言ってきました。


 はうぅぅぅぅぅぅぅぅ!?


 わたくし、不安な顔をしてしまったようです!


 クウちゃんを!


 大切なお友だちを疑うだなんてっ!


「ああああっ! セ、セラっ! ご、ごめんねっ! 不安なのはわかるけど、なにも四つん這いになってうなだれなくてもっ!」


 わたくし……。


 お友だち失格です……。


「セラーっ!? 大丈夫! 大丈夫だからね!?」



 この後、完成したご飯は、少し焦げていたものの、ふっくらとしていて真っ白で甘くて美味しかったです。

 特に、クウちゃんが出してくれた、これもリゼス聖国で流行っている食べ物なのだそうですけれど――

 大根の漬物と一緒に食べると、甘味と塩味が重なり合って最高でした。

 異国の味もよいものですね。



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― 新着の感想 ―
[一言] >>クウちゃんは、失敗する時でも自信満々なので……。 真実!
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