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207 エミリーちゃんと合流

「待ってたよ、クウちゃんっ!」


 家の前で待ち構えていたエミリーちゃんが、私が馬車から降りるや否や全力で走って抱きついてきた。


「やっほー。手紙、届いてたんだね」

「うんっ! お父さんもいいって言ってくれたよっ!」

「そかー」


 オダンさんはウェルダンと組んで城郭都市アーレに向かった。

 道中だし、その途中で家に寄ったようだ。

 話はついている様子だった。


 というわけで、私たちは問題なくネミエの町に到着した。


 エミリーちゃんは、半袖半ズボンに帽子をかぶって、脇には大きな布袋の荷物も置いて準備は万端だ。


「エミリーのこと、よろしくお願いします」


 同じく家の前にいたお母さんが頭を下げてくる。

 大したお礼もできなくて申し訳ないのですがと恐縮しつつ、干し肉やパンの入った籠を渡してくれる。


「いえ、気にしないでください。こっちが勝手に誘ったことなので。それよりいきなりですみません。食べ物、ありがとうございます」


 お母さんと話すところでエミリーちゃんは私から離れて、降りてきたみんなにひとりずつ挨拶していった。

 フラウにも、きちんと初めましてと言えている。

 ホント、エミリーちゃんはしっかりしているね。


 一通りの挨拶を済ませて、出発。


 お母さんに見送られてネミエの町を出た。


 エミリーちゃんは意外にも興奮せず、窓から身を乗り出したりすることもなく、ちょこんと大人しく座っていた。


「エミリーちゃん、馬車とか旅、慣れてるんだね」


 私が声をかけてみると、


「ううん、二回目だよ。前にお父さんと帝都に行ったのが初めてだったし。屋根のある馬車は初めてなんだー。すごいねー、ガタガタしないし、涼しいし」

「へー。その割には落ち着いてると思って」

「わたし、知ってるよ? 馬車の中では静かにしていないと、みんなの迷惑になるんだよね? 馬車の中で騒ぐやつはゴブリンと同じだってお父さんが言っていたの」


 あ。


 馬車の中で大騒ぎしていたセラが、恥ずかしそうにうつむいた。


 ああ。


 ……ゴブリン……わたくしはゴブリン……。


 なんて、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声でつぶやいているよ。


「この馬車ではいいんだよー」


 セラのためにも、エミリーちゃんを言いくるめねば!


「そうなの?」

「うん。だって私たちしかいないし。あと長旅になるから、じっとしていると体が固くなって病気になっちゃうし。騒ぐのが正しいんだよ」


 エコノミークラス症候群、だっけ。

 長時間同じ姿勢のままでいると血の流れが悪くなって血のかたまりが出来て、体がおかしくなること。


「……いいんだ?」

「うん」

「じゃあ、ちょっと外の景色、よく見てもいい?」

「いいよー」


 私がうなずくと、エミリーちゃんは窓から身を乗り出した。


「落ちないように気をつけてね」

「うん! 平気! 『身体強化』――ほら、これで落ちても、ほとんどダメージなんてない――よ……?」

「わあああああ! エミリーちゃん!」


 脱力して窓から転げ落ちかけたエミリーちゃんを私は慌てて支えた。

 セーフ。

 椅子に戻してあげる。


「ふにゅう……。ごめんねえ、クウちゃん……。失敗しちゃったぁ……」

「いや、ちゃんと成功してるよ!?」


 エミリーちゃんの体には強化魔法がたしかにかかっている。

 エミリーちゃんが自分でかけたものだ。


「……カッコよく見せたかったのにぃ。……うまくいくと、ちゃんと動けるんだよ」

「十分だよ!? いつの間にできるようになったの!?」


 本当に驚いた。

 一回でへろへろになってしまったとはいえ、発動させた事自体が立派だ。


「クウちゃんのおかげだよお……。フェアリーズリングと一緒に頑張っていたら、できるようになったんだぁ……」

「ふむ。その年齢で無詠唱とは、さすがはクウちゃんの友達であるな」

「今の……魔法ですよね? クウちゃんが使っている……」

「うん。そだよ」


 おそるおそる聞いてきたセラに私はうなずいた。


「エミリーちゃん……すごいです……。わたくしよりもずっとすごいです……」

「セラは、もう5回は使えるでしょ」


 私は笑った。


「それはそうですけど……。でも、わたくしはクウちゃんに見てもらって、アルビオにも見てもらっているんですよ……」


 エミリーちゃんにはMPの継続回復魔法をかけてあげた。

 しばらくすれば元気になるはずだ。


「クウちゃん……」


 私にもたれかかって、エミリーちゃんは溶けるように寝てしまった。


「クウちゃん、妾もくっつきたいのである」

「いいよー」

「やったのである」


 正直、2人にくっつかれると少し暑いけど、悪い気分ではない。

 好かれるって嬉しいね。


「うう。クウちゃんにくっつく場所がありません。かくなる上はっ! ゼノさんみたいに頭の上にっ!」


「――姫様、はしたないですよ」

「あ、はい。そうですよね」


 ずっと黙って座っていたシルエラさんが短く言った。

 セラは我に返ってくれたようだ。

 よかった。


「この旅では陛下から特に、姫様が度を越えてはしゃぎすぎてしまった場合は止めるようにと指示を受けております。申し訳ありませんが、差し出口を挟むことを、しばらくの間はお許し下さい」

「いえ……。そうしていただいたほうが、わたくしも助かります……。でも、シルエラも旅を楽しんでくれていいんですよ?」

「はい。機会があれば」

「ふふーっ! ならさ、旅の夜にあれやろう!」

「あれ、ですか?」


 セラが首を傾げる。


「うん。第三回大会!」

「……大会とは、なんのことであるか?」

「フラウは初参戦になるよね。シルエラさんを笑わせた人が勝ちの、SSRなスーパーコント祭り!」

「クウちゃん様、それは結構です」


 シルエラさんが冷たく言う。


「え?」

「クウちゃん様、それは結構です」


 2回言われた!


「いや、でも、盛り上がるよ?」

「それは帝都でもできることだと思います。せっかくの旅なのです。旅の空でしか出来ないことをお楽しみ下さい」

「……セラはどう思う?」

「わ、わたくしですかっ!? ……それは……その」


 なぜかセラは言いよどんでいる。

 やりたいよねっ!?


「芸を披露し合うよりは……みんなでおしゃべりしたり、みんなで、その……楽しいことをしたいというか……」

「……芸はダメ?」

「いえ、その……」

「そかー……」


 嫌なのね。

 ぐすん。


 いや、待って。

 待って待って!


「大丈夫、任せて、セラ!」

「クウちゃん……?」

「大丈夫! 私、かしこいから! 需要は理解したよ! こういうのはどう? 一晩だけの1人1芸! これなら一時間くらいでおわるし! 後は語りつくそう! 人生と青春と過去と未来と楽しいこと全部を!」

「クウちゃんっ!」

「うんっ!」


 セラとがっちり両方の手を握りあった。


「さすがはクウちゃんです! 私、わがままを言ってしまったかなと少し怖くなっていたのですけれど……。それも踏まえて完璧な作戦を出してくれるなんてっ! わたくし……ここまで来て尚、クウちゃんを見誤っていました……。すべての夜が芸大会になるのかと不安になってしまって……。さすがはクウちゃんです! 帝国一です! 大陸一です! 世界一です! いいえ、もはや宇宙一と言っても過言ではありませんっ!」

「もう、セラったらー。そんなに言われると照れちゃうよー」

「照れて下さいっ! わたくし、見ていますっ!」

「やだなー。もうー」


 私の左右では、相変わらずフラウとエミリーちゃんがくっついていた。

 よく見れば、フラウもいつの間にか寝ている。

 満面の笑顔だ。

 私ってそんなに心地いいんだろうか。

 なんか恥ずかしいね。


 シルエラさんは、もう知らん顔だ。

 いつも通りに気配を消して、静かに座っている。


 そんな中、ヒオリさんが首を伸ばして、私に話しかけてきた。


「店長、お楽しみのところ申し訳ないのですが、そろそろ今夜の宿をどうするのか聞いておきたいのですが――」

「ああ、そうだね」


 どうするかはもう決まっている。


「今夜は野宿して、テントを張ってキャンプするから。もう少ししたら、ちょいと空を飛んでいい場所がないか探してくるよ」

「わかりました。宿場に向かうのであれば、かなり飛ばさねばと思ったのですが、それでは普通に進みます」

「うん。お願いー」


 いつの間にか、太陽はかなり傾いていた。

 夜が近づいている。


「楽しみですね。わたくし、野外で寝るなんて生まれて初めてです」

「実は私も」

「クウちゃんも初めてなんですか?」

「野外で寝たことはあるんだけどね。その時は空に浮かんでたし。普通にキャンプするのは初めてなんだー」


 前世でもキャンプはしたことがなかった。

 休日はゲーム。

 それが私の人生だった。


「……テント、ちゃんと建てられるといいんだけど」

「わたくしもがんばりますねっ!」

「うん。がんばろー!」

「おー!」



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― 新着の感想 ―
[良い点] エミリーちゃん、姫騎士にクッコロな一撃!\(^p^)/!
2021/10/29 18:26 退会済み
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