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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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204 閑話・皇女セラフィーヌは笑っていたい





 もう、信じられません。

 クウちゃんったら、よりにもよってお兄さまに結婚相手を薦めるだなんて。

 わたくしはセラフィーヌ。

 お兄さまの妹です。

 なので文句を言う権利はあるはずです。


 わたくしは、クウちゃんこそがお兄さまのお嫁さんに相応しいと思っているんです。

 クウちゃんは、可愛くて綺麗で可憐で清楚で。

 明るくて陽気で前向きで。

 仕草のひとつひとつが絵になって。

 誰よりも信頼できて。

 誰よりも強くて。

 誰よりも優しくて。

 帝国一で大陸一で世界一で。

 なにより、わたくしの一番のお友だちなんですから。


 でも、はい……。


 ほんの少し。


 ほんの少しだけ。


 かしこさが足りないというか。

 思慮が浅いというか。


 そういう部分はありますけれども……。


 今、わたしとアリーシャお姉さまは、クウちゃんを連れて食堂の外に出たところです。

 本来であれば食事中に席を立つなど以ての外ですが、今回は例外です。

 お父さまもお母様も黙認してくれました。


 だってきっと、あの場では、クウちゃんもしゃべり辛いでしょうし。

 恋の話なんて。

 ここはわたくしとお姉さまだけで聞くべきです。


「さあ、クウちゃん。話してくださるわよね」


 お姉さまがクウちゃんを壁際に追い詰めて、優しく問います。


「な、なにをでしょうか……?」

「いきなり他国の姫をお兄さまに紹介するに至った経緯をです。エリカ王女と聖女ユイリアに頼まれたのですか?」

「えっと……。頼まれてはいないんですけどぉ……」

「では?」

「エリカが結婚相手を探していたので、ちょうどいいかなーと。ほ、ほらっ! お兄さまも探してるんですよね!? ちょうど大国同士だし! ぴったりかなーと思って推薦させていただきましてっ!」


 お姉さまが深いため息をついてしまいました。

 気持ちはわかりますけれども。


 帝国と王国は歴史的にザニデア山脈での利権を巡って対立してきました。

 現在は特に険悪で、戦争の噂すらまことしやかに流れています。

 わたくしの耳にも入ってくるほどです。

 そんな時期に結婚なんて、とてもではありませんが現実的ではありません。


 それに、エリカ王女の評判はあまりよくありません。

 贅沢ばかりしている方のようです。

 そんな人が皇妃になったら、帝国でも贅沢ばかりするに決まっています。

 クウちゃんには申し訳ないのですけれど、よくない人選です。

 気軽に推薦と言われれば、疲れを感じもします。


「あの、クウちゃんはそれでいいんですか?」


 わたくしはクウちゃんにたずねました。


「うん。なんで?」

「それは……その……。なんというか……」


 クウちゃんは、お兄さまのことをどう思っているのでしょうか。

 気になります。


「幸せになってくれればいいなーとは思ったけど……。あ、うんっ! でもね! 大丈夫! 大丈夫だから安心して!」

「……なにがですか?」

「えっと、私も実は途中で気づいてね! で、やっぱりそういうのはなしってことで話はつけておいたから!」

「婚約話ですか?」

「うん! えっと。そうそう! 今度、エリカが帝国に来るんだけどね、この目で見極めるってって言ってたから――」

「……クウちゃん」


 ああ、もう。

 わたくしまで悲しい声を出してしまいました。


 クウちゃんの言い方では、まるでお兄さまがエリカ王女に品定めされるようです。

 まるで、ではなくて。

 そのままなのでしょうけれど。


 ここで気を取り直したお姉さまがクウちゃんに聞きます。


「リゼス聖国の聖女ユイリアも、お兄さまとの婚約を望まれたのかしら?」

「いえ、そっちは私がノリで言っただけです。そういう話をしたことはないです」


 大陸中で敬愛されて帝国にも信者が多い聖女様との婚約話を、クウちゃんはノリだけで言ったそうです。

 帝国に嫁ぐなんてことになれば……。

 どうなるんでしょうか。

 まったくわかりません。


「あ、でも、私が言えば、ユイは話を聞いてくれると思うので。よかったら話、進めてみちゃいますか?」

「……お兄さまも言っていたでしょう。何もしなくていい、と」

「はい。でも。せっかくですし」

「クウちゃん」

「は、はい?」


 お姉さまがゆっくりと丁寧にクウちゃんに言って聞かせます。

 内容は、私が感じた懸念とだいたい同じです。


「わかってくれたかしら?」

「は、はい……。なんとなく……」

「よかったわ。さあ、夕食に戻りましょう」


 この後は普通に夕食を楽しみました。


 夕食後、古代竜さまと賢者さまは帰宅することになりました。

 夜空の中。

 奥庭園で。

 誠意として真の姿を見せる。

 と――。

 古代竜さまは、幼女の姿から巨大な黒竜へと姿を変えられました。

 あまりにも巨大な――。

 魔物と呼ぶにはあまりに荘厳な、神聖さすら感じる、黒く輝いたお姿でした。


 私は正直、腰を抜かしそうになりました。

 クウちゃんが支えてくれなければ、倒れていたと思います。


 竜は神の使いである。


 物語では、そう語られることが多くあります。

 わたくしは、それは物語だけの虚構ではないのだと、この時、理解しました。


 古代竜さまが賢者さまを乗せて、夜空へ飛び立ちます。


 私たちはそれを見送りました。


 クウちゃんは今夜は久しぶりにわたくしとお泊りです。

 本当に久しぶりなので、とても嬉しいです。


 その前にお風呂で、またお母さまとお姉さまの玩具にされていましたけれど。

 クウちゃんが可愛いのはわかりますが、よくないと思います。


 夜、わたくしの部屋で、クウちゃんと2人だけになりました。

 そうするとクウちゃんが言います。


「……私、バカなのかなぁ」


 って。


「ごめんね、セラ。迷惑ばっかりかけて……」


 って。


 あああああっ!


 ちがうんです!


 誰も迷惑だなんて思ってないんです!


 わたくしは慌てて否定しかけましたけれど……。

 やめました。


 だって、わたくしたちはお友だちなんです。

 信頼しているのは当たり前なんです。

 だから、わたくしは素直な気持ちで言いました。


「わたくし、クウちゃんと一緒で今日も楽しかったです」

「私も楽しかった。演奏、すごかったよね」

「はい! 奥庭園の雰囲気にぴったりでしたよね! クウちゃんは何度も寝そうになっていましたけれど」

「だってー、あれはー、音楽と私の眠りのリズムがぴったりでー」

「あはは」


 わたくしが思わず笑ってしまうと、クウちゃんも笑いました。

 わたくしはクウちゃんが大好きなんです。

 一緒に笑っているだけで、本当に幸せになれます。


 将来のことは、わたくしも考えなくてはいけないのでしょう。

 わたくしは一体、どう生きるべきなのか。


 道は見えていそうで、正直、何も見えていません。


 不安になることも多いです。


 光の力なんて、本当にわたくしに使いこなせるのかどうか。

 同い年なのに、すでに大陸中で信奉されている聖女ユイリアと並び立つ存在になんてなれるはずかない……って。

 いつか、何か。

 大きな出来事が起こった時。

 何もできずに震えて、失望されるだけの自分を、つい考えてしまいます。

 弱気になることは、とても多いです。


 つい、クウちゃんに頼りたくなってしまいます。


 でもその度に自分に言い聞かせます。


 わたくしたちは友だちなのです。

 一緒に笑い合うために、今日も頑張ろう、って。


 大人になってからも。

 ずっと一緒に笑い合えるように。


 クウちゃんには宿敵がいます。

 普段はおくびにも出さないけど、わたくしは知っています。


 巨大な、世界を包む闇。


 クウちゃんを一度は殺した相手――。


 それが何なのかはわかりません。

 気になりますがクウちゃんには聞いていません。


 いっそ、お父さまに相談しようかと思ったこともありますけれど――。

 まだしていません。

 クウちゃんの秘密を漏らすわけにはいきませんし。


 クウちゃんは、いつでも楽しそうです。

 そんな宿敵なんて、いないかのように生活しています。

 クウちゃんのそばにいると、実は本当にいないのでは、とも思ってしまいます。

 だけどきっと。

 クウちゃんの心の中には。

 その宿敵は存在しているはずです。

 ただ表に出さないだけで。

 なのに、わたくしが質問などして、表に出させていいわけはありません。


 わたくしは決意するのみです。

 その時――。

 助けられる自分になろう、と。


 この夜も、クウちゃんとはいろいろなことをおしゃべりしました。

 わたくしのことも。

 クウちゃんのことも。

 旅のことも。

 楽しかったです。




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― 新着の感想 ―
>その時――。 >助けられる自分になろう、と。 転生トラックには誰も勝てないのだ><
[一言] クウちゃんに俗世のしがらみは…… ガールズとのキャッキャウフフがお似合いですぞっ\(^o^)/
2021/10/20 17:36 退会済み
管理
[良い点] クウちゃんさま「私はかしこい精霊さん」 [気になる点] セラ「かしこさが足りない、思慮が浅い」 [一言] そんな!?クウちゃんさまは、かしこくない精霊さんだったなんて!?\(^o^)/
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