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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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203/1359

203 楽しい夕食



 大宮殿の、豪華なディナーの時間となった。

 今夜はコースメニューではなく、気軽なビュッフェ形式だった。

 食堂に入ると色とりどりの食べ物が用意されていて、好きに取って食べることができるようになっていた。


 入室した時、ヒオリさんの目が見開いたのを私は見た。

 ヒオリさんの戦いはこれからだ……。

 打ち切りエンドではなくて、普段なら、きっと動けなくなるまで食べるのだろう。

 ただ今回は、難しい気もするけど。


 私たちと皇帝一家は同じ丸いテーブルに着いた。

 私はセラのとなりだ。

 演奏会からずっと一緒にいる。


 食堂にはバルターさんもいた。

 執事の人たちと一緒に壁際にいて目が合うと会釈してくれた。


 最初に陛下がワイングラスを掲げて声を上げる。


「人と精霊と竜との出会いに。乾杯」


「「「乾杯」」」


 続けてみんなが声をあわせた。


 私はくいっと水を飲む。


 ヒオリさんやフラウは、普通にワインだった。

 正直、羨ましい。

 見た目は変わらないどころかフラウなんて完全に年下の幼女なのに、大人の扱いを受けているとは。


 フラウがワインを飲むのを見たナルタスくんが無邪気にたずねる。


「フラウさんは、実際には何歳なんですか?」

「妾か? 1000歳は超えたのである」

「うわぁ。すごいんですね。見た目は僕より年下なのに」

「妾の姿は心の姿。長い年月を生きればこそ、すべてを新鮮に感じるために、こうした姿となるのである」

「竜なんですよね?」

「で、ある」

「やっぱり火を吹いたりするんですか?」


「こら、ナルタス」


 不躾な質問に陛下が注意するけど、フラウは「よいよい」と笑って答えた。


「そうであるな。妾も吹こうと思えば吹けるのである。ただ、妾は闇の属性故、得意というわけではないのである」

「闇の属性……。邪悪な竜なんですか?」


「ナルタス」


 陛下が再び注意する。

 フラウは余裕の態度でまたも笑った。


「構わないのである。しかし、皇子よ。闇と邪悪……人間の世界では混同されているようだが、それはまったく異なるものなのである」

「そうなんですか……?」

「うむ。詳しく説明してもよいが、妾はまず、あちらの豪華絢爛な食べ物を口にしてみたいのである」

「あ、なら、僕が食べ物の説明をします! いつも食べているので!」

「で、あるか。ならばお願いするのである」

「はいっ!」


 ナルタスくんを引き連れて、フラウは食べ物を取りに行った。

 ナルタスくんは竜に興味津々のようだねー。


 食堂には、柔らかな音楽が流れている。

 演奏会とは別の人たちだった。

 さすがは帝国。

 楽団ひとつ取っても、いくつものチームがあるみたいだ。


「セラ、私たちも行こっか」

「はい。クウちゃん」

「クウちゃん、セラフィーヌ、わたくしもご一緒していいかしら」

「はいっ!」

「もちろんです、お姉さま」


 3人で食べ物を取りに行った。


 見れば、陛下に皇妃様、それにお兄さまは、自分で取りに行かないでメイドさんにお願いするようだ。

 言えばやってくれるらしい。


 ヒオリさんはゆっくりと、今、ワインを飲み終えたところだ。

 気持ちを整えているのだろう。

 さあ、いよいよ、食の戦いが始まる……!

 と思ったら、


「ああ、賢者殿の分も頼む」


 と、陛下が言った。

 私たちと一緒に立ち上がらなかったので、気を利かせたようだ。

 かしこまりましたと一礼して、メイドさんがカウンターに来る。


 視界の隅に愕然とするヒオリさんを見たけど、すぐに自制したようだし気づかなかったことにしよう。


 というわけで私たちは好きなものを選んで取ってきた。


 ヒオリさんは陛下と皇妃様と学院のことを話していた。


「賢者殿の復帰以降、学院の風通しが随分とよくなった。感謝している」

「某も驚きました。まさか某の名を残したまま、10年以上も学院長不在の学科長3人体制で居るとは」

「互いに足を引っ張りあった挙げ句、誰も上に行けなくなっていたのだ。現状維持は出来ていたから手は出さないでおいたが――」

「ご安心ください。3人には、よく言い聞かせておきました。我が弟子達の失態、お恥ずかしい限りです」

「ふふ。ヒオリ様が戻ってきてくだされば安心ですね。わたくしも学生時代には随分と指導して頂いたものです」

「皇妃様のことはよく覚えていますよ。あれほどヤンチャだった女学生が、今や国で最高の淑女になられて」


 ふむう。

 ヒオリさん、学院では苦労していそうだ。

 学院での仕事って、実は私、まったく気にしていなかった。

 ヒオリさんが普通にしているから、まあ、学院でも普通にやっているんだよねって気軽に考えていたよ。


 ただまあ、ヒオリさんたちの会話に入る気はない。

 私、かしこい精霊さんだけど、難しい会話はとてもとても苦手なのだ。

 とてとてなのだ。

 と思ったところで、お兄さまと目が合った。


「あ、そう言えばお兄さま」

「なんだ?」

「もー。なんで嫌な顔をするんですかー?」

「していない。おまえの気のせいだ」

「ならいいですけど……」

「それで、なんだ?」

「えっと」


 どうしよう。

 実は声をかけてみただけで、話題までは考えていなかった。


 本日はお日柄もよく?


 いやそれは駄目だウィルになってしまう。


 あ、そうだ。

 いいネタがあった。


「ジルドリア王国のエリカ王女って知っていますか?」

「……知っているが、それがどうした?」

「あ、いえ。知っているなら丁度いいんですけど……。お兄さま的に、エリカ王女ってどう思いますか?」

「どう思うとは……?」


 思いっきり警戒した顔で聞かれた。


「あ、いえ。結婚相手として。エリカにも、まだ婚約者がいないって言うので」

「…………」


 あれ。

 お兄さまが沈黙してしまった。

 気のせいか、陛下たちまで黙ってしまった。


 ふむ。


 …………。


 あ。


 そうか。


 そうだった。



 私、気づいた。


 かしこいので、気づいたよ……。


「あ、いえっ! 別に深い意味はないんですよ!? ただ、もしも実は可愛いなー素敵だなーと思っているなら、紹介してあげてもいいかなーというか、一応、念の為に聞いてみただけというかっ!」


 くううう!


 クウちゃんだけにくううう!


 お姉さまやセラの視線までもが気のせいか冷たい!


 エリカって、帝国では浪費王女として知られているんだよね!

 幼い頃から贅沢放題で国庫を傾けているって!

 エリカ本人はちゃんと財政改革したつもりで、悪意なく余裕を持ってやっているだけの様子だったけれども!


 そもそも私、エリカが帝国に来たら絶対にお姉さまやディレーナさんと揉めるって確信していたのにぃぃぃぃ!

 なぜ薦めたぁぁぁぁ!


 いやうん、反射的に「いいね!」と思ったんだよー。

 話題としてー!


 今や楽しそうにしているのは、未だにのんびりとカウンターで料理を選んでいるナルタスくんとフラウだけだ。


「クウ」


 お兄さまが静かに口を開いた。


「は、はいっ!」

「おまえは、ジルドリアの薔薇姫とは親しいのか?」

「はい……。それなりには……」


 前世の幼なじみですので。


「今の発言は、薔薇姫の意を汲んだものなのか?」

「えっと……。いえ、そういうわけでは……。と言いますか……。もしよければというご提案だけでして……」


 私がしどろもどろに言い訳を頑張っていると……。

 お兄さまが、深い深いため息をついた。


「あ、えっと! ならリゼス聖国の聖女ユイとかはどうですか? 可愛いし愛されてるし超お買い得物件ですよ!?」


 劣勢を覆すべく私は次の矢を放った。

 ユイならば、ため息をつかれることはないだろう。

 なにしろ愛され聖女だ。

 今はカメだけど。


「おまえは、リゼスの聖女ユイリアとも親しいのか?」

「はい……。それなりには……」


 前世の幼なじみですので。


「では、言っておこう」


 お兄さまがわざわざ席を立って、私のところに来た。

 私が向き合うと、肩に手を乗せてくる。


「頼むから何もするな」

「はい?」

「……頼むから何もするな」


 首を傾げると、同じ言葉を繰り返された。


 え。

 なんで?


 婚約問題で苦労してるんだよね?

 たしかにエリカは問題だけど、ユイならいいと思うんだけど。

 性格はいいし、人望はあるし、浪費しないし。

 オススメだよ?


「――クウちゃん」

「ん?」


 いつの間にかアリーシャお姉さまもそばに来ていた。


「さあ、美味しいものを取りに行きましょうか。セラも行きますわよ」

「はい。そうですねっ!」

「え、あの……。取ってきたばかりなのですけれども……」


 セラとアリーシャお姉さまに腕を取られて、私は席を立った。


「いいからいきますわよ」

「ほら、クウちゃんっ!」

「は、はい……」


 ふむ。


「お兄さま、後はおまかせください。ここではなんですから、別の場所で詳しい話を聞いてきますわ」

「……ああ、アリーシャ。任せた」


 両腕をつかまれていると連行されている気分だけど。

 気のせいだよね。




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― 新着の感想 ―
[一言] ドナドナ~ドナ〜
[良い点] おお! ナルタスくん\(^o^)/ 大人びて見えてたナルタスくん、竜に興味津々で子供っぽくなっちゃったね\(^o^)/ お預け猫かぶりひおりん不憫なり\(^p^)/ クウちゃん確保ーー…
2021/10/20 17:07 退会済み
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