199 セラとも旅のプランを考える
「ふえええん! わたくしも一緒に考えたかったですー!」
「ごめんごめん。今、考えよ、ね」
「はいっ!」
焦った。
いきなり泣かれたので、どうしようかと思った。
と思ったらころりと笑顔になった。
セラは実に感情豊かで可愛らしい。
思わず頭をなでたくなるね。
フラウが来た翌日の午後。
私はセラのところに遊びに来ていた。
正確には剣と魔法の指導に来たのだけれど、旅の話に盛り上がってしまって指導は横に置いている。
場所はいつもの願いの泉のほとり。
木陰のベンチだ。
「でも、竜に運んでもらって南の海岸まで一気に行っちゃうなんて、絶対に一生に一度だけの体験になりますね!」
「そだねー。一度だけかどうかはわからないけど」
意外と季節ごとにやっちゃう気もする。
「現地でのお泊りは、どうする予定なんですか?」
「帝都からじゃ今更予約も取れないし、現地に行って考えようかなーと。最悪、テントになるかなー」
「……テントというと、キャンプですか」
「嫌?」
「いえ、むしろ綺麗な海の近くでキャンプなんて素敵だと思います」
「晴れてさえいてくれれば、最高だよねー」
雨だったら泣けるけど。
「大丈夫ですっ! クウちゃんがいる限り、きっと晴れです」
「どして?」
「だって、キラキラしています! まさに星です! 星と言えば晴れに決まっているじゃないですかっ!」
「あ、ありがとー」
真正面から言われると、さすがに照れる。
「お食事は、現地で食材を手に入れて、焼いたりできれば最高ですねっ!」
「だね! バーベキューしたいね!」
「はいっ! ぜひしましょう! わたくし、海でどんなものが取れて、どういう風に準備するのか調べておきます!」
「うん。よろしくー」
セラ、魚から内臓を取り出したりできるのかな?
私はかなり苦手だけど。
「あと、できれば今日にでも、エミリーちゃんとアンジェちゃん、それとアーレに戻ったおじいさまにお手紙を出してはどうでしょうか」
「手紙、あるんだ?」
「はい。速達なら早馬で届けてもらえますし。事前に伝えておいた方が」
「私、書き方とかよくわからないから、手伝ってくれる?」
「はいっ! 今からわたくしの部屋に行って、ささっと書いちゃいましょう!」
そういうわけでセラの部屋に行った。
で、セラがさらさらと手紙を書いてくれた。
アンジェの住所は、以前の別れ際に教えてもらっているので問題なし。
エミリーちゃんの住所が不明で困った。
マップを開いて確かめたところ、地区名は判明したので、そこの地区に住むオダンの娘エミリー宛と書いた。
広い地区ではないし、きっとこれで届くよね。
ローゼントさんにはセラの名義で手紙を送ったので何の問題もないだろう。
確実に届くはずだ。
アーレについたらローゼントさんの家で私とセラは一泊する予定だ。
ぜひにと誘われていたしね。
エミリーちゃん、ヒオリさん、フラウは、さすがにローゼントさんの家に連れていくのは無理があるので、申し訳ないけれど宿屋に泊まってもらう。
旅はセラの提案で、アーレまでは国が街道用に管理するレンタル馬に引いてもらって行くことにした。
アーレまでは人目も多いだろうしね。
アーレを出たら少しだけ進んで、馬をこっそりと返却。
後は空の旅だ。
現地では基本、徒歩。
馬車は私のアイテム欄に収納。
馬車だと、帝都からアーレまでは3日かかる。
出発は5日後の朝に決めたから、アーレに着くのは8日後だね。
「じゃあ、シルエラさん、お願いします」
「はい。畏まりました」
手紙はシルエラさんが窓口まで出しに行ってくれた。
「じゃあ、私はそろそろ帰るね」
「できれば夕食をご一緒したいのですけれど……。今はフラウちゃんも来ているから無理ですよね」
「うん。ごめんね。今夜はフラウをいつものお店に連れて行ってあげるんだ」
「いいなぁ。羨ましいです。わたくしも行きたいです」
「あはは。いつかね」
学院生になれば昼には行けるだろう。
あーそういえば、ゼノも誘った方がいいのかなぁ。
誘わなかったら怒るよねえ、きっと。
と思いつつ家に帰ったら、疲れた顔のヒオリさんの肩の上にゼノが乗っていて、私を見るや噛み付いてきた。
「クウ! 酷いじゃないか! 遊びに行くのにボクを誘わないなんて! フラウまで連れて行くのにどういうこと!?」
「えっと。実はこれから誘いに行こうと思ってたんだよ」
「ほんとに……?」
「うん」
まさに本当だ。
「……ならいいけどさ」
唇を尖らせつつも、ゼノは納得してくれた。
よかった。
「それで、行くよね?」
「もちろん! 面白そうだしね!」
「て、ことは、私、セラ、エミリーちゃん、アンジェ、フラウ、ヒオリさん、ゼノ。合計7人での旅か。あ、シルエラさんも来るだろうから8人か」
「なかなかの大所帯ですね」
「でもみんな小さいから馬車には乗れそうだね」
「そうですね。見た目だけでいえば、メイドの方以外は子供ばかりですし」
実際には、ゼノとフラウは1000歳オーバー。
ヒオリさんは400歳オーバー。
最近では完全に忘れているけど実は私も22歳だ。
「なんか、強盗とかに余裕で狙われそうだね」
カモネギだよね、私たち。
「強盗程度なら某1人で余裕なのでご安心を。店長達がやりすぎて騒動を大きくする心配はありません」
「いや、襲撃が怖いなーと思ったんだけど」
「え」
ヒオリさんに真顔で驚きの顔をされた。
その上でゼノが笑う。
「あははは! 世界最強の存在が、ニンゲンが怖いとか!」
「いやべつに私、世界最強じゃないし……」
「あのさ、クウ。大精霊を片手でひねる者が最強じゃなかったら、この世界のパワーバランスは完全崩壊だからね?」
「うーん。そう言われると、なんか私が変な存在みたいで嫌だなー」
「変な存在って……。精霊の長なんだからさー。堂々としてよねー」
「そかー」
まあ、そもそも前世から精霊としては最強だった。
精霊第一位だし。
あまり気にしてもしょうがないか。
「フラウが帰ってきたら私のオススメのお店に夕食を取りに行くんだけど、ゼノも来る?」
「もちろん、行く行くっ!」
「ちゃんと人間のふりをするんだよ」
「わかってるってー」
「ふわふわしたら駄目だからね?」
「わかってるってー」
何度か繰り返してしっかり理解させたところでフラウが帰ってきた。
「ただいまなのである」
「おかえりー。町はどうだった?」
「とても興味深く、新鮮な体験だったのである」
「それはよかった」
「というか、ゼノも来ていたであるか」
「うん。ボクも旅に行くから、よろしくね」
「それは嬉しいのである。1000年以来の初姉妹旅なのである」
「だねっ!」
「……あの、ゼノ殿とフラウ殿のご関係は?」
「ぜのりんね」
ぜのりんとは、ショートコント祭りの時の呼び名だ。
ゼノ、ヒオリさんにはそれでいくつもりなんだね。
まあ、いいけど。
「あ、はい。ぜのりんとフラウ殿のご関係は?」
ヒオリさんの肩の上から離れたゼノが、フラウのとなりに降り立つ。
「ボクたち、姉妹なんだ。同じお母さんに育てられた」
「で、ある。そういえばゼノ、妾は昨日、イスンニーナの影に触れたのである。とても懐かしい一時だったのである」
「……どういうこと?」
ここでフラウが、昼に大宮殿で聴いたというイスンニーナさんの曲のことをゼノに自慢げに語った。
私も知らなかったけど、セラのデビューパーティーで踊った曲のことだった。
「……ニンゲンの世界に、イスンニーナの影があるだなんて。
信じられないよ……。
本当なら、ボクも聴きたいな……。
ボクも聴きたいっ!
聴きたい聴きたい聴きたーい!」
「わかったわかったから。明日ね」
「うん! 楽しみ!」
聴きたい気持ちはわかるので、引き受けてしまった。
明日も忙しくなりそうだ。
199話\(^o^)/




