198 旅のプランを考えようっ!
「ただいまー!」
「お帰りなさいませ、店長! ……て、店長? ……なにやら凄まじい闇の気配を感じるのですが……そちらのお方は?」
我が家に帰ると、お店にいたヒオリさんが笑顔で出迎えてくれて、
――固まった。
私が肩車しているフラウが原因だろう。
正確には、勝手に乗っかってきて重いんだけれども。
「ふむ。其方はハイエルフの巫女であるか。クウちゃんの関係者は、本当に面白い者ばかりなのである」
「この子はフラウニール。子供の姿をしているけど古代竜の長ね。しばらくうちで暮らすから仲良くしてあげてね」
「世話になるのである。妾のことは気軽にフラウと呼んでよいのである」
私に乗っかったまま、フラウが偉そうに胸を張った。
「あ、あの……。店長……。聞き間違いでなければ、今、古代竜と……」
ヒオリさんが震えた声で確認してくる。
「うん。そだよー」
ヒオリさんが倒れかけて、なんとかカウンターに身を預けた。
「どしたの? 大丈夫?」
「は、はい……。失礼しました。どうぞよろしくお願いします、フラウ殿」
「うむ」
「ところでヒオリさん」
私は店内を見回して言った。
「どうしたの、これ?」
なんと店内が空っぽだった。
棚しかなかった。
武器を飾るために置いた大きな犬のぬいぐるみも消えている。
「実は、すべて売れてしまいました」
「大きな犬も?」
「はい。いくらでもいいから売ってくれと言われましたので。ふっかけたのですが売れてしまいました。問題ありましたでしょうか?」
「ううん。売れたのなら嬉しい話なんだけど……。まさか全部売れるとは思ってなかったからびっくりした」
「某も驚きでした。予約希望の声もあったのですが、それは断っておきました」
ショーウィンドウの展示品まで売れていた。
「さすがはクウちゃん。大人気なのであるな」
「そだねー」
「今、帝都では、店長の商品が流行の最先端になってきているようです。特に店長の姿を模したぬいぐるみや店長の姿を描いたオルゴールやランプは、『精霊ちゃん』グッズとして大量の需要が期待できるかと」
そういえば、マリエが言ってたっけ。
精霊ちゃんぬいぐるみ、最近人気になっているって。
「んー。でも、それは困ったなぁ」
「どうかされたのですか?」
「実は、旅行に出ようと思ってねー。私、こっちの世界に来て初めての夏だし。夏といえば旅行だよねー」
「妾も行くのであるっ!」
「うん。いいよー。一緒に行こう」
「やったのである!」
「そ、某は……?」
「ヒオリさんは学院で仕事があるんじゃないの?」
「あると言えばありますが……」
「じゃあ、お留守番よろしくね」
「そ、そんなぁ」
ヒオリさんが崩れ落ちちゃった。
「あ、うん。来たいなら来てもいいけどね……」
「某も同行させていただきます! 今は夏休みですし、少しくらい休みを取っても問題はありません故!」
話しているとお客さんが来た。
在庫が尽きていることを伝えると素直にあきらめてくれたけど。
ふむ。
とりあえず、『本日休業』の看板を、お店の外に出しておいた。
人気になりすぎるのは、大変すぎるよね、正直……。
商売は、のんびり楽しくがいいし。
ヒオリさんに相談してみると、
「それならば、委託してしまえばよいのではないでしょうか」
「委託?」
「はい。ぬいぐるみやオルゴールやランプならば、店長の力を使わずとも職人が似たものを作れます。懇意にしているウェーバー氏などに頼めば、条件次第で引き受けてくれるのではないでしょうか」
「いいね、それ! そうしよう!」
うちは本家としてのんびりやって、大儲けはウェーバーさんに任せよう!
早速、フラウを肩に乗せたまま行ってみた。
身体強化の魔法をかけて全力疾走すれば、たいした時間はかからない。
到着。
着いてみて驚いた。
ウェーバー商会の本社、そびえるほどに大きな建物だった。
中に入って受付のお姉さんにウェーバーさんに会えないか聞いてみたけど、にべもなく断られた。
と思ったら、上司が飛んできて奥に通された。
うん。
いつものパターンだね!
よかった!
しばらくするとウェーバーさんがやってきたので話をすると、快く二つ返事で生産と販売を引き受けてくれた。
それぞれ5個、見本の品を渡しておく。
ぬいぐるみについては、精霊ちゃんだけでなく、ウサギやアライグマなんかの人気商品も渡しておいた。
なんとウェーバーさん、売上の半分を私にくれると言ってきたけど、さすがに多すぎるのでそれは断った。
強引に1割で話をつけた。
大変すぎるから丸投げするだけだし、たくさんは貰えない。
タダでよかったくらいだ。
あとは、軽く雑談した。
話題は当然のようにユイのことだった。
快く引き受けてくれたお礼に、アイテム欄に入れたままだったユイの挨拶動画を取り出して見せてあげた。
見終わった後、ウェーバーさんは号泣した。
すぐに気を取り直してくれたからよかったけど、どうしていいのかわからなかったよその時は。
ともかく、これで一安心だ。
ウェーバーさんはすぐに全力で作業に取り掛かると言ってくれたし。
ウェーバー商会を出て、私とフラウは繁華街に戻った。
帰りは普通に歩いた。
途中で市場に寄って素材や屋台料理を買ったりもした。
家に帰ったのは夕方だった。
ヒオリさんが疲れた顔で待ってくれていた。
本日休業の看板を出していてもお店に入ってくるお客さんがいて、帰ってもらうのに難儀したらしい。
ごめんよ。
今夜は、フラウが屋台料理を食べたいというので、いつもの『陽気な白猫亭』には行かないで家の2階で食事を取った。
私は、巻いたお好み焼きっぽいものを食べつつ、旅の相談をする。
「ねえ、どこかオススメの海ってあるかな?」
「それならば、なんといっても南海岸です。特に、ランウエル海岸。透き通った遠浅の海に新雪のように真っ白な砂浜、潮風に揺れる木々すら美しく、まさに楽園のような場所と聞き及んでおります」
「へー。いいねー。そこにしようかー」
夏に行くには最高の場所に思える。
「精霊の息吹すら感じられそうなのであるな。妾も海にはほとんど触れたことがないので楽しみなのである」
「ただ……。帝都からだとかなり遠く、道中に魔物の出る森もあるため、バカンス先に選ばれることは滅多にありません……」
「何日くらいかかるの?」
「馬車に乗って無理せず進むのであれば、2週間は見るべきかと」
「そのくらいなら行けそうだね。決定っ!」
「往復だけでも大変な旅となりますが……」
「あ、帰りは私の魔法なんで。行きだけ考えればいいよー」
「なるほど。さすがは店長です」
「クウちゃんの転移の魔法には乗ったことがあるが、あれはすごいものである。どこにでも楽々なのであるな」
「移動先に転移陣しか選べないのが難だけどねー」
まあ、それでもすごいはすごいか。
「ちなみに行きであるが、妾が竜の姿で運んでもよいのである。馬車程度なら前足で壊さないように抱えて、余裕で飛べるのである。クウちゃんが魔法で姿を消してくれれば目立たないのである」
「それいいね! そうしようか! ドラゴン、空の旅!」
「空ですか……。危険では……?」
「短時間なら私も魔法で浮かせられるから、心配しなくても平気だよー」
少なくともゆっくり降りることはできる。
以前にセラと乗ったような丈夫な馬車に乗れば、さらに安心だ。
同じものを借りられないか、今度、陛下に聞いてみよう。
「いやぁ、面白くなってきたね!」
「出てきてよかったのである」
「そ、某は少しだけ不安もありますが……。斬新な体験にはなりそうですね……」
楽しみだ!
この日は遅くまで、旅のことを3人で話し合った。




