193 フラウのお願い
エリカが来た次の日は、竜の人たちに「ほしいもの作ります」の会を開いた。
なにしろエリカまでお世話になる。
しっかりとお礼をしておかねばならないだろう。
フラウには特に媚を売って、闇の属性結晶を使って生成したゼノとお揃いのナイトメアサイズを贈った。
喜んでもらえた。
エリカにはミスリルのアクセサリーをねだられた。
前にもう作らないと決めた気もするけど、国も違うしいいよね。
ということで一式作ってあげた。
ユイとナオは何も欲しがらなかったけど――。
ヒーラー用と魔法戦士用の装備を一式、生成して押し付けた。
竜の里は平和だけど。
何があるかはわからないし。
その時のために。
ユイの防具は、先日、フラウが貸してくれた古代の神子の聖衣に似せた。
まさに聖女って感じで、ユイにぴったりだったので。
そして、さらに一泊して。
翌朝、私は帝都に帰ることにした。
ナオとエリカとユイ、それにフラウが私を見送りに来てくれた。
「じゃあ、私、そろそろ帝国に帰らせてもらうけど――。ユイとエリカ、本当に送らなくていいの? 次に来るのは夏のおわりになるかもだけど……」
私にはやりたいことが多い。
まずはセラと一緒に、できれば途中でエミリーちゃんを拾って、アンジェが夏休みの内に城郭都市アーレに行きたい。
海にも行ってみたい。
あと、セラの祖父のローゼントさん、騎士団長のグラバムさん、魔術師団長のアルビオさん……。
約束しちゃった人たちのところに顔を出したい。
さらに、お店をもっと開きたい。
ぬいぐるみ、たくさん作らねば。
「それで結構ですわ。ああ、でも、ミスリルって本当に素敵ですわね。はめているだけで幸せが溢れますわ」
エリカは貴金属の魔力で早期に復活できそうだ。
遠からず、誰かにマウントを取りたくて仕方がなくなるだろうし。
「私はべつに……。また来てね、クウ」
「うん。またね、ユイ」
ユイは、まだしばらくかかるのかな。
復活してくれるといいけど。
ユイと挨拶を交わす横で、ナオがじっと私を見ていた。
「クウ」
「な、なに……?」
「私には確信がある」
「な、なんだろ?」
思わず私は身構えてしまう。
「私達の冒険はこれからだ」
「えっと。クウちゃん先生の次回作にご期待ください、的な?」
しまった!
気づいた時には遅かった。
「期待」
ナオが静かに、手のひらを胸の前に持ち上げた。
ユイが静かに、それに合わせる。
「「キ・タ・イ」」
「「キ・タ・イ」」
「え。あ、やるんですのね」
あわててエリカが後に続いた。
「「「キ・タ・イ」」」
「「「キ・タ・イ」」」
「いや、それ、ノリでやってるだけでなんの意味もないよね……?」
「バレた」
ナオが、獣耳をピョコッとさせて手拍子をやめた。
「なんにしてもクウ、帝都での生活、頑張って。私は頑張ってカメを磨く」
「う、うん。ナオも頑張ってね」
「私も頑張って磨くね! カメを!」
「う、うん。ユイも頑張ってね」
「わたくしもしばらくは、カメを磨かせていただきますわ」
「う、うん。エリカも頑張ってね」
正直、カメは磨かなくていいと思うけど……。
何も頑張らないよりはいいの、かな?
3人と別れを済ませたところで、私はフラウに向き合った。
「フラウ、本当にありがとう。迷惑かけてごめんね。3人のこと、しばらくの間、よろしくお願いします」
「それは構わないのである」
「何かあったら、遠慮せずに言ってね? 力になるから」
「実はお願いしたいことがあるのであるが……」
「うん。いいよ」
ここまでお世話になっているのだ。
できることなら聞こう。
「実は、クウちゃんが住む人間の都に連れていってほしいのである」
「いいよー。せっかくだからしばらく遊んでいきなよ」
それくらいお安いご用だ。
フラウは、頭に角がついているだけで、見た目はほとんど人間だしね。
町を歩いても違和感はないだろう。
黒塗りの剣についても一段落ついたしね。
量産はできないようだし、エリカが調査を中止してくれた。
トリスティン方面でも私が究極魔法で瘴気の谷をクレーターに変えて以降、黒い儀式をしている様子はないとのことだ。
見回り体制も強化された。
人間がいれば、不意打ちと遠隔攻撃で全力駆除だ。
「ありがたいのである。精霊が現れ、創造神アシスシェーラの祝福を受けた都には、実はとても興味があったのである」
「お忍びってことでいいんだよね?」
「そこはクウちゃんの都合に合わせるのである」
「そかー」
どうしようね。
「私、帝国の皇帝陛下とはそれなりに知り合いなんだけど、いろいろあるごとにけっこう怒られてるんだよね。なのでフラウが来るなら、一応、言っておいた方がいいかなとも思うんだけど……」
言わない方がいい気もする。
迷うところだ。
「言ってくれて構わないのである。会談が必要ならするのである」
「いいの?」
「相手が敵対するならば、焼き払うのみであるが」
「そ、その時には私がどうにかするから! 焼き払わないでね!? 私の家もあるし友だちもいるからっ!」
「それなら任せるのである」
「うん。任せて! じゃあ、ちょっと聞いてくるから待ってて! いいならすぐに帝都に招待するよっ! エリカ、ユイ、ナオ、元気でね!」
あわただしくお別れして、『帰還』
帝国の大宮殿に出た。
そのまま飛んで、陛下の執務室の外へ。
時間的にはそろそろ……。
あ、来た。
今日はバルターさんと2人だ。
目が合ったので手を振ると、思いっきりため息をつかれた。
手招きしてもらえたのですり抜けて中に入る。
「またしても急用か?」
「はい。実は、竜の里の長、古代竜のフラウニールが帝都に来たいと言っているんです。招待していいですよね?」
「おまえは何を言っている……?」
「あ、いえ。なので竜の里の長の古代竜が、帝都に来たいって……。あ、ちゃんと人の姿で来ますし私の家に泊まるので、問題ないですよ?」
「クウちゃん、まずは落ち着いて、ゆっくりと理由から話してもらえますかな?」
バルターさんに促されて、私は言われるまま説明した。
「……なるほど。観光がしたいだけなのだな」
話を聞いた陛下が静かに言う。
「はい。もし、お話がしたいのなら、応じるとは言っていましたけど……」
「それは先日のエリカ王女と一緒に来るのか?」
「いえ。エリカはしばらく、ユイと一緒にいると思うので……。すぐに招待したいのはフラウだけです」
「ユイとは、聖女のことだな?」
「はい」
「聖女は女神の化身となったと聞いているが……。どこにいるのだ?」
「えっと……。あの……」
言っていいんだろうか。
いや。
うん。
言わないほうがいいよね、竜の里でカメになっています。
なんてことは……。
「すみません、機密事項なんです」
「この皇帝たる俺にもか?」
睨まれた!
「えっと……。じゃあ、どうしてもっていうなら言いますけど……。今、勇者と一緒に修行中と言いますか……」
カメの。
「待て。勇者とはなんだ?」
「この世界で魔王を倒せるただ1人の人間ですよね?」
「おとぎ話に出てくるアレか?」
「そうなんですか?」
「おまえは魔王がいると言うのか?」
「いなければいないでいいと思いますけど……。いないんですよね?」
「質問を質問で返すな。俺が聞いているのだ」
「と、言われても……。私、ただの精霊だし、そのあたりは知らないんですよ」
本当にわからないから、どうしようもない。




