192 爆誕! カメの子3号!
「カメの子3号ですの! 初めまして! よろしくお願いしますわ!」
カメの甲羅を背負ったエリカが、竜の人たちを前に頭を深々と下げた。
私はその光景を、あきらめて見ていた。
うん。
こうなると思った。
幸いにもフラウの許可は貰えたので、エリカはしばらくの間、ナオとユイと共に竜の里で暮らすことになった。
すでにカメとしての心得はナオから指導を受けている。
夏がおわるまでには心身をリフレッシュさせて、王国に戻ってほしいものだ。
ともかく。
ついに、私たちはそろった。
共に転生した4人。
私と、ナオ、ユイ、エリカ。
今夜はフラウや竜のみんなとの宴会は遠慮させていただいて、幼なじみたちとの再会を喜ばせてもらうことにした。
まあ、4人だけになったところで、気の抜けたエリカがしくしくと泣き始めてしまったのですけれども。
「……もう嫌ですわ。
わたくし、一生懸命頑張ってきましたのよ。
それが全部、空回りだったなんて。
もう誰とも顔を合わせられませんわ」
「よしよし」
「私、エリカは頑張っていたと思うよ」
今、私の目の前では、3人のカメが身を寄せ合っていた。
なんだろうか。
私、すっかり入りそこねて1人でぽつん。
寂しい。
カメになった方がいい気がしてくる。
やがてエリカは気持ちを落ち着かせてくれた。
「ごめんなさい。ナオやユイも大変だったというのに、わたくし1人、みっともない姿を見せてしまって」
「いいのよ、気にしないで」
「エリカは来たばかり。しょうがない」
「そうそうっ! これからは、ふわふわ気楽にやっていこう!」
私が元気にそう言うと、3人にじっと見られた。
「……う。な、なんだろか?」
「苦労していないクウは気楽」
「羨ましいですわ」
「うん。そうだよね……。クウだけは平和だよね」
「まあ、平和と言えば平和だけど……。私だって苦労しているからね!?」
「ごめん。そうだよね。私を楽にさせてくれてありがとう」
「……わたくしもですわね。おかげで時間が作れたので、これからどうするのか真面目に考えますわ」
よかった。
ユイとエリカには私が頑張ったことをわかってもらえたみたいだ。
ナオには、さらに見つめられた。
「クウ」
「な、なに……?」
「私には確信がある」
「な、なんだろ?」
「クウならできる。クウならやれる。きっと私たちを幸せにしてくれる」
「そ、そうだよね、主人公だもん!」
「期待」
「期待!」
ま、まさかこれは。
前回、私がまんまと踊らされた……。
「「キ・タ・イ」」
「「キ・タ・イ」」
2人が息を揃えて手拍子を始めた。
「なんですの、一体?」
「エリカもやる。これはカメの仕事」
「わ、わかりましたわ……」
ええっ。
「「「キ・タ・イ」」」
「「「キ・タ・イ」」」
「「「キ・タ・イ」」」
「い、いや……。待ってね? さすがに期待が重すぎて乗れないよ? 自分の人生は自分で切り開こうね? 勇者と聖女と王女なんだからさ」
「……クウが冷たい。氷が凍る」
ナオが落胆の声をこぼす。
拍手が止んだ。
「アイスだけに?」
私がたずねると、ナオがすかさず無表情のままだけど答えてくれた。
「あーいいっすねー」
前世の呼吸だ。
「もちろん協力はするよ。でも、みんなも頑張ってね?」
「そうですわよね……。わかっていますの。ちょっと遊んでみただけですわ」
「私、もうずっとここでいいけど」
「同じく」
「カメとして生きるの?」
ユイとナオは、カメがお気に入りのようだ。
「カメ、けっこう快適だよ? なんにも考えなくていいし。ナオがいてくれるから全然寂しくないし。エリカも来てくれたし」
「仲良しカメ」
「うん♪」
いかん。
手をつないだユイとナオは、たぶん本気で言っている。
「エリカも、なんにも考えずにいよ? 楽しいよ」
「……わ、わたくしは」
ナオから差し伸べられた手をすぐには握らず、エリカは戸惑いを見せた。
が、がんばれ、王女さま。
「エリカ。一緒に甲羅、磨こう」
ユイまでもが聖女の微笑みで手を伸ばす。
ああ。
エリカが2人の手を取ってしまった。
「よ、よろしくお願いしますわ……。わ、わたくしも、甲羅を磨かせていただきますわ……」
「うん♪」
「歓迎」
3人がひしと抱き合う。
私、1人。
ぽつん。
「クウも」
ああ、ナオが私にも手を伸ばしてくれたよ。
「うん♪」
「クウもいらっしゃいな」
ユイとエリカまでもが、この寂しい私を誘ってくれたよ!
「みんなー!」
私は飛び込んで、みんなとひしと抱き合った。
正直、嬉しい。
やっと輪に入ることができたよー!
この後は楽しい話だけをした。
まずは食べ物トーク。
エリカの宮廷料理の話も、ユイの聖堂料理の話も、ナオのサバイバル飯も、私の庶民なお食事事情も、すべて盛り上がった。
中でも私は実際に料理を取り出すことができたので、みんな喜んでくれた。
帝国の屋台料理から初めて、聖国の屋台料理、王国の屋台料理を、お腹がいっぱいになるまで食べ尽くした。
その後は、楽しかったことベスト5の発表会。
私の場合は、セラと出会ったこと、エミリーちゃんと出会ったこと、アンジェと出会ったこと、ブリジットさんと出会ったこと、メアリーさんと出会ったこと。
エリカはお友だちや家族。
ユイは一緒に仕事をしてきた人たち。
ナオは、平和な時代の、ニナ王女を始めとした、ド・ミの国の人たち。
みんな、誰かと一緒に生きてきた思い出ばかりだった。
話しつつ、笑いつつ。
みんながなにを思っていたのかはわからないけれど。
聞かなかったけれど。
いつか。
すべて。
上手くいけばいいな……。
と。
私は心から思った。
いや、うん。
納得できないこともありましたけれどね!
「よし! 宴もたけなわというところで! 久しぶりにこの私が披露しましょう! もはや伝説と呼んで差し支えない、究極にして至高の一発芸を! 異世界でさらに磨きをかけた我が一撃! どうか笑ってくださいませ!」
たっぷりと間をおいて。
今ここに。
まずはみんなに背を向けて。
振り向き。
両方の手を猫のように丸めて――。
「にくきゅうにゃ~ん」
からの!
四つん這いになって、
「おうま、ぱっかぱっか♪ おうま、ぱっかぱっか♪ 私はおーうーまー♪」
「君は鹿だよ! 僕と同じ鹿だよ!」
「え。そうなの?」
「うん。そうだよ!」
最後は立ち上がってポーズを決めて、
「鹿!」
以上、私の一人芝居。
ヒオリさんとゼノのパクリなんですけどね。
ウケませんでした。
「3点」
ナオが冷酷に告げる。
下がってる!
下がってるよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!
前、5点って言ったのにぃぃぃぃぃ!
でも、少しの間を置いて、エリカとユイはくすくす笑ってくれた。
「ふふ。クウは変わりませんのね。面白かったですわ」
「クウは変わらないよね。楽しい」
「何点だった?」
「100点ですわ」
「うん。100点、100点」
「やっほう! 満点!」
「クウ、真に受けてはいけない。2人の得点は、いうなれば友情点。果てしなく続く芸の道におわりはない。慢心したらそこで試合終了」
「……そ、そうだね。うん。心を引き締めて今後も精進していくよ」
私がそう言うと、ナオは力強くうなずいた。
ナオは厳しい。
しかし、いつの日にか。
笑わせてみせるよ!
私は固く誓い、その日の夜は、更けていくのだった。
ついに第1話に出てきた4人が揃いました\(^o^)/
192話かかりましたぁ\(^o^)/




