188 エリカの半生
お寿司を堪能した後は、お風呂に入った。
まったり。
その後はエリカの部屋に行く。
今夜はエリカの部屋で泊めてもらうことになった。
エリカの部屋は、まさに王女様の部屋。
豪華絢爛。
映画に出てきそうな感じだった。
部屋に入ったところで、エリカがお付きのメイドさんを下がらせる。
ようやく2人きりになった。
「これでやっと、前世からのことを話せますわね」
「王女様も大変だねー」
「大変ですけれど、充実した毎日ですわ」
「そかー」
「クウはずっと精霊界にいましたの? 名前を聞くこともありませんでしたが」
「ううん。私、こっちの世界に来たの実はまだ最近だし」
「そうなんですのね。ところで、ずっと気になっていたんですけれど、どうしてゲームのキャラクターになっていますの?」
「話せば簡単なんだけどね――」
聞かれたので、まずは私のことを話した。
すっかり後回しになって忘れかけていたけど、私が帝国に降りて、今は帝国で暮らしていることも伝えた。
もちろん、祝福のことも。
ナオとユイのことは、一旦横に置いた。
後で改めて話そう。
特にユイのことは、エリカにも大いに関係してくる。
丁寧に話した方がいいだろうし。
話を聞いたエリカは、しばらく無言で考えてから口を開いた。
「なるほど。そうでしたのね。帝都での祝福はアシスシェーラ様のお力で――。皇帝への祝福はクウの古代魔法だった――と」
「うん。そうなんだー。だからエリカ、訂正してほしいんだけど」
「わかりましたわ」
あっさりとエリカはうなずいた。
「わかってくれたの?」
あまりにあっさりとしているので思わず聞き返した。
「ええ。わたくし自身、昼にクウの古代魔法を受けておりますもの。疑う必要などありませんわよね」
「まあ、それはそうなんだけど……」
「ただしそのためには、帝国からの謝罪が必要ですわね。合わせて王国への工作をただちにやめていただきます」
エリカの口調は強い。
本気で帝国には腹を立てているようだ。
「うーん。そのことなんだけどねー」
どう言ったものか。
「私が思うに、帝国は王国にちょっかいなんてかけてないと思うよ?」
「どのような根拠がありますの?」
「えっとね。私、帝国の皇帝とはそれなりに面識があるし、内務卿の人ともそれなりにお話ししてきたんだけどね。そういうことする人たちじゃないんだよねえ。陛下なんて特に事なかれ主義だし」
私はすべてを知っているわけではない。
なので私やセラに見せる顔とは、まったく別の、もしかしたら裏の顔があるのかも知れないけど。
エリカにもそう言われてしまった。
うーん。
困ったね、これは。
困っていると、エリカが肩をすくめて笑った。
「ねえ、クウ。そういう話も大切だけど、まずは聞いてくれませんこと?」
「なにを?」
「決まっていますわ! このわたくしの華麗なる、11年の人生をです! もう話したくてうずうずしていますの!」
「そだね。ぜひ聞かせてよ」
エリカの半生は、まさに王女様の日々だった。
生まれた時から転生者として前世の記憶と意識があり、いち早く言葉を覚えて、礼儀作法を身に着けていった。
家族仲は良好。
とても愛されて育ててもらえたそうだ。
5歳の頃には早くもお茶会を開いて、同年代の女子とも仲良くなっていった。
「その頃に開いたのが、ローズガーデン――。王国で最高の人気を誇る、未成年女子だけの社交グループですの。当然、わたくしが主幹ですわ」
「5歳からやってたんだね……。派閥作り……」
「おーほっほっほ。先んずれば人を制す。ですの。来年から学校ですが、入学の瞬間から最大派閥のトップ確定ですわ。すでに、どのような形でわたくしを歓迎するか、打ち合わせも行っておりますのよ」
「さすがだねえ」
やっているとは思っていたけど。
「ただ、正直、敵がいなさすぎて退屈ではありますわね」
「そりゃあ、王女様だしねえ」
「とはいえ、気持ちよくはありますわね。最初から最強! アシスシェーラ様には感謝しかありませんわ」
「だねー」
私もアシス様には感謝せねば。
おかげさまで、気楽にふわふわ生きています。
「あと、様々な改革も提案しましたのよ。今でも思い出せますの。初めて町へ出た時には本当に驚きましたわ――」
「なにかあったの?」
「奴隷の女の子が鞭で叩かれていましたの。しかも、粗末な服を着せられて、痩せこけて今にも死にそうなのに。わたくし、驚いてしまって、あわてて騎士に命じて辞めさせようとしたのですけれど――。あれは主人の権利だから止めることはできません、とか言われてしまいましたの」
それで奴隷の制度改革を提案したそうだ。
これも5歳の話だと言う。
「お父様を説得するのは苦労しましたのよ。でも最後は、長く丁寧に使い続けたほうがコストパフォーマンスがよくなることに納得していただいて、奴隷にも衣食住と最低限の尊厳を保障する法律を作ってくれましたの。あ、もちろん、使い続けるなんて人間に使う言葉でないことはわかっていますわよ? わたくし、将来的には、奴隷解放宣言を出したいと思っていますし」
「知ってる。ここに来る途中で、知り合った奴隷の子から聞いたよ」
「あら。そうですの」
「エリカのこと、尊敬しているみたいだったよ」
虎人族の女の子、ノノ。
故郷の森に逃がしてあげたけど、無事に家族とは再会できたのかなぁ。
できているといいけど。
「おーほっほっほ。奴隷にまで尊敬されてしまうなんて、さすがはわたくしですわね」
「……ていうか、エリカ」
「なんですの?」
「その高笑いとお嬢さま口調、完全に自然なんだね……」
「それは当然ですわ。わたくし、もう11歳ですのよ。喋り方に関しては、むしろ前世の口調こそ忘れてしまいましたわ」
「私のこと、覚えててくれてよかったよー」
「忘れるわけありませんでしょう? わたくしたち、大親友ですのに」
「そかー」
そう言ってもらえると嬉しい。
こちらの世界に来たのは、私にとっては、つい数ヶ月前のことだけど、エリカにとっては遠い昔だしね。
「でも本当に、ゲームキャラのクウを見た時には驚きましたけれど」
「あはは。だよねー」
この後もエリカの話は続いた。
消費税の導入を初めとした税制の改革を提案して、国庫を潤したこととか。
国土の再調査を提案して、ダンジョンや鉱山の発見を目指したりとか。
国民の生活も考えて、税を重くしすぎないようにお願いもしているという。
話を聞いていて、よくわかった。
エリカは提案しているだけで、実務には関わっていない。
自分で行っているのは帝国への非難だけだ。
あとはすべて、エリカの意を汲んで国王や兄たちがやっているようだった。
エリカには都合のよい結果だけを伝えているのだろう。
困ったものだ。
「ちなみに、エリカはトリスティンの商人とは取引しているの?」
「しているわけありませんわ。奴隷用の首輪とかを売りに来ている連中ですわよ。わたくしは関わりたくありませんわ」
本気で嫌そうにエリカは顔をしかめた。
嘘をついている様子はない。
「……でも、どうしてクウがそんなことを気にするんですの?」
「関わりがあってね」
私はここで、アイテム欄から黒塗りの剣を取り出した。
ソウルイーター。
使用者の魂を食らって相手に呪いを与える自滅武器だ。
「エリカ、これに見覚えは?」
「ありませんけれど……。なんですの、この禍々しい剣は……」
「ザニデア山脈に来た、王国の騎士が使っていた剣だよ」
「こんなものを!? 我が国の騎士が!?」
「うん」
「有りえませんわ! 王国騎士は光の許にあるのです!」
「ザニデア山脈の調査ってエリカが命じたんだよね?」
「帝国への間道探しと鉱脈調査は確かにわたくしの提案ですけれど……。このような暗黒の武器、わたくしは認めた覚えなどありませんの……」
うーん。
エリカに嘘をついている様子はない。
「お父さんやお兄さんは?」
「……調査隊を指揮するのは王太子たるカールお兄様ですけれど。……まさかお兄様がこのようなものを」
「聞いてみてもらえる?」
「わかりましたわ。でも、どうして、クウがこの剣を?」
「その時、ザニデアにいたんだよ、私。あそこの魔物とは仲がいいから」
「魔物と……?」
「うん。私、もう今は人間じゃなくて精霊だし」
「……そうなんですのね」
「だからできれば、ザニデアの奥に立ち入るのはやめてほしいんだよ。このままだと竜族を本気で怒らせるし」
「竜、ですの……?」
「うん。だってザニデアの奥は、竜の領域でしょ」
「……わかりましたわ」
「よかった。それでエリカは、本当にトリスティンとは関係がないんだよね?」
念の為に、もう一度聞いてみた。
「ええ。当然ですわ。トリスティンなどという神罰の落ちた闇の国家――。わたくしは嫌いですもの」
神罰ってなんだろうと思って聞いてみたら、アレだった。
以前、私がぶっ放した究極魔法――。
スターライト・ストライク。
実は、それも私なんだーはははは、と笑ったら、エリカに呆れた顔をされた。
「……詳しい話を、聞いてもいいのかしら?」
「うん。実はね――」
さて、そろそろナオとユイのことも話そう。
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