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186 エリカの宣言




「あのエリカ、そう言ってもらえるのはありがたいんだけども……」


 私はゆっくりとエリカを立たせた。


「どうしたんですの?」

「えっと、ね……」

「クウ?」

「人目が凄すぎて、さすがの私も戸惑うというか……」


 そう。


 今はパレードの最中なのだ。

 沿道には観客がぎっしり。

 前後には、楽団の人や踊り子の人や騎士の人がいっぱい。


 その大勢の人たちが、いきなりのエリカの行動に何事かと戸惑っている。


「なるほど。それはそうですわね」


 エリカが私から少し離れ、胸の前で2回、軽く手を叩いた。


 黒いスーツを着たメガネの男性がすっと現れる。


「わたくしから皆に伝えることができました。パレードを一旦中止させて、皆をここに集めなさい」

「――畏まりました」


 命じられて、男性は手際よく指示を出していく。


「彼はわたくしの筆頭執事ですの。有能ですのよ」

「みたいだねー。すごいねー」

「ふふ。でしょう」


 思いっきり自慢げな顔でエリカはうなずく。

 そういうとこ、変わってないね。


「クウ、馬車に乗りましょう」

「うん。了解」


 エリカに誘われて、私たちは馬車に乗った。

 並んで席に着いた。


「……ところでクウ」


 エリカが顔を寄せて、広げた扇で口元を隠しつつ小声でしゃべりかけてくる。


「……その姿、一緒に遊んでいたVRMMOのものですわよね。貴女、ゲームキャラに転生しましたの?」

「そだよ。今の私はクウ・マイヤなんだ。よろしくね」


 私も小声で答える。


「……確か、精霊族でしたわよね? 精霊第一位の精霊姫でしたかしら」

「うん。そだよ」

「……今の種族も、精霊なんですの?」

「うん。そだよ」

「……称号もそのままなんですの?」

「うん。そだよ」


 やっと納得してくれたのか、エリカは1人で何やら考え始めた。

 そのマイペースなところも変わらないねー。


 やがて連絡が届いたのか、楽団の演奏が止まった。

 みんなが集まってくる。


 しばらくすると、パレードをしていた道路も人で埋まった。


「さあ、クウ。立ちますわよ」

「うん」


 エリカに言われるまま、私は馬車の中で身を起こした。

 大きな馬車の上だ。

 自然と、みんなを見下ろす形になる。


 エリカが立ち上がると、下にいる騎士の隊長っぽい男性が大きな声を上げた。


「傾聴!

 これより、姫様が皆に向けてお話をされる!

 心して清聴するように!」


 一体なんだろか。

 国のことだよね、たぶん。


 私、無関係だし、お邪魔な気がするけど……。

 横にいちゃっていいんだろうか……。


「皆! わたくしが愛する王都の皆! 本日は、よくぞ集まってくれました!」


 エリカが演説を始める。

 まだ11歳とは思えない堂々とした態度だった。


 声も大きくて、遠くまで届いていそうだ。

 なのに怒鳴っているわけではなく、透き通っていて美しい声色だった。


 まさに王女さま。


 さすがだねえ、エリカ。


 私は感心してしまった。


「本日は皆を元気づけるパレードと言いましたが、ここで予定通りのサプライズを行わせていただきますの!」


 へー。

 これって予定通りなんだね。

 なにやるんだろ。


 ていうか、やっぱり私、お邪魔のような。


「紹介いたしますわ!

 この王都に舞い降りた真の精霊!

 本物の精霊!

 精霊第一位!

 精霊の姫!

 そして、ユイと共に並ぶわたくしの心の友!

 大親友!

 クウ・マイヤですわ!」


 ふむ。


 これってどう考えても私のことだよね。


 予定通りなんだ?


 エリカには未来予知の力でもあるのだろうか。

 たぶん、違うだろうけど。

 前世の通りのエリカなら、ただの思いつきを、さも当然のように計画通りと言っているだけだ。


 なんにしても。


 みんな、いきなりすぎてポカンとしちゃってるよ?


 いいのかな。


 とりあえずエリカの演説は続くようなので、黙って聞くことにした。


「王国は今、未曾有の繁栄期を迎えています。

 わたくしの様々な献策により、経済は潤い、国庫は豊かになり――。

 兵達も士気も高まる一方です」


 なんか気のせいか……。

 見聞きしてきた王国の現状と、かなり違う気がするけど……。


「一方、愚かなる帝国の工作によって――。

 極一部とはいえ経済活動が妨害され――。

 あろうことか、精霊が出現したなどという嘘の噂まで流して――。

 わたくしの大親友――。

 聖女ユイリアの地位を落とそうとまで、していますの。

 許せることではありませんの」


 えっとね、エリカ。

 私がその、帝国に出現した嘘の精霊さんだよ。


 真っ先に言えばよかったね。


「さらには昨今!

 帝国の工作によって、聖女ユイリアが皇帝を認めたなどという――。

 有り得ない噂までもが王国に流れ始めています。

 騙されてはなりません!

 今こそ我々は――。

 大陸統一に向けて毒牙を突き立ててくる帝国を前に――。

 団結しなければならないのです!」


 いや、エリカ。


 私、それなりに知っているけど。

 帝国の皇帝陛下、はっきり言って事なかれ主義だよ。


 侵略戦争なんて考えるタイプじゃないよ。

 むしろ、何も起こしたくない、起こってくれるなと願うタイプだよ。


 今すぐに、ここで訂正した方がいいのかな?


 どうしよう。


「幸いにも王国には、このわたくしがいます!

 叡智の結晶たるこのわたくしが!

 このわたくしが本気で挑めば、帝国など赤子の手!

 さらに、神聖なる祈りによって――。

 精霊までもが今――。

 力を貸してくれると言っておりますの!」


 そんなこと言った覚えはないぞー。

 私は帝国の人間だからなー。

 精霊だけどー。


 そもそも自分のことを叡智の結晶って……。


 あ。


 私も自分のこと、叡智のかたまりとか言っていた気もするよ。

 さすがは幼なじみ。

 気が合うね。


 ここでエリカがひそひそと私に囁く。


「……クウ。派手な魔法をひとつ、使ってくださいますかしら? いかにも精霊っぽい魔法でお願いしますの」

「あのね、エリカ。大事な話なんだけどさ――」

「あとで聞きますわ。それよりお願いしますの。それで話を締めますから」


 んー。

 どうしようかー。


 たしかに今は、落ち着いて話せる環境ではないか。


「ああ、あれがいいですわ。ほら、あの、派手に光の柱が立つ古代魔法」

「エンシェント・ホーリーヒール?」

「今でも使えますの?」

「使えることは使えるけど……」

「では、それでお願いしますの」


 まあ、いいか。


 あとで説明して、訂正してもらおう。


 とりあえず、エンシェント・ホーリーヒールを発動させた。


 空から降りてきた光の柱が馬車を包む。


 驚きのあまり、まわりにいた人達が尻餅をついて倒れる。


 やがて光が消えた後、エリカは堂々と宣言した。


「真の精霊は、我らと共にあり!

 今、王国は、精霊によって祝福されたのです!

 皆も見たでしょう!

 これこそが真の――。

 真なる精霊の輝きなのです!」


 いくらかの沈黙を置いて。


 割れんばかりの歓声に、あたり一帯は包まれた。


 その様子を見てエリカが満足げにうなずく。


 私は、なんというか。

 うん。


 さすがはエリカだね……。

 変わっていない……。


 と、しみじみ思うのだった。




ついに10月!

投稿を始めて7ヶ月目突入!


我ながらよく毎日書いてるもんだ\(^o^)/

果たしてどこまでやれるのか\(^o^)/


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― 新着の感想 ―
ダメだろ...クウちゃん、ふわふわしすぎや...
[一言] 沢山の人の前でクウちゃんイコール精霊で自身の大親友とエリカが公言って当然帝国の間者もその場にいるから情報は皇帝やバルターさんはじめ限られた方々で共有されるでしょう ただ大親友発言に関してはセ…
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