表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

184/1359

184 ジルドリア王国へ




 雨の中、ジルドリア王国へと向かう。

 ザニデア山脈の山道沿いに行ってみることにした。


 まずは、騎士たちを下着一枚で捨てた場所に飛ぶ。

 騎士たちは、さすがにその場にはいなかった。

 目覚めて、帰路に着いたのだろう。


 かわりに眼下では、荷馬車がゆっくりと山道を進んでいた。

 4人の冒険者が護衛についていた。


 ザニデア山脈は広大だ。


 いくら魔物があまり出ない領域と言っても、帝国から王国へ、王国から帝国へ行くのは本当に大変だろう。

 私はいつものように『透化』して『浮遊』しているので気楽なものだけど。


 それでもやっぱり、いや、だからこそ、なのかな。


 人と物の流れはあるようだった。


 私は山を降りていく。


 やがて麓についた。


 関所があったけど、当然のように私は上空からスルー。


 見渡せば街道の先に、それなりに大きな町がある。

 まずはそこへ行ってみることにした。


 銀魔法の『飛行』で一気に到着。


 姿は消したまま、ふわふわと通りを進んだ。


 雨天のせいか、通りには人の姿がほとんどなかった。

 お店も閉まっている。


 なんだろ……。


 国境付近の町だというのに、活気がまるでない。

 帝国との仲が冷えているからかな……。


 誰かに話を聞いてみたいなぁ……。

 と、思っていたら、冒険者ギルドを見つけたので入ってみた。

 もちろんローブを羽織って、だ。


 中はがらんとしていた。

 冒険者が誰もいない。

 掲示板を見ても、依頼書がほとんど貼られていない。


 私は受付のお姉さんに話しかけてみた。


「こんにちはー」

「いらっしゃいませ。ご依頼ですか?」

「いいえ。私、帝国から来た冒険者なんですけど……」


 これでも人間の22歳なんだよ。

 魔術師なんだよ。

 若く見えるのは、エルフの血が混じっているからなんだよ。

 という設定を言いつつ、冒険者カードを見せる。


「これは失礼しました。お仕事をお探しですか?」

「いえ。王都に向かう途中なので、仕事探しではないんですけど……。とりあえず帝国のお金を王国のお金に替えたくて……」

「それでしたらこちらで承りますよ」

「じゃあ、お願いします」


 金貨2枚を両替してもらった。


「ところで、ここ、冒険者が誰もいないんですね。国境地帯なのに」

「みんな、自由広場にいるので」

「自由広場?」

「冒険者さんは、王国に来るのは久しぶりか、初めてのようですね」

「はい、初めてですけど……」

「町、活気がなくて驚かれたでしょう?」

「そうですね……」

「実は税金の関係で、みんな、お店を倉庫にしちゃってるんです。今は何をするにも自由広場なので、場所、教えますね」


 そういうとお姉さんは、カウンターに町の地図を広げた。

 指で示しながら教えてくれる。


「まずは、町の中央広場まで行ってください。行くと、人の出入りが激しい通りがひとつありますので、そこに入ってください。しばらく進むと川沿いに空き地があります。そこが自由広場です」

「ありがとうございます。でも、そういうのって、中央広場じゃないんですね」


 真ん中でやった方が便利そうだけど。


「町の中で商売をすると税金がかかるんですよ」

「なるほど」

「ちなみに川沿いの空き地は、あくまでも町の外で、決して町の中ではありません。そこは理解しておいてください」


 方便というやつだね。


 私がうなずくと、お姉さんは言葉を続けた。


「王国では、ほとんどの町に自由広場があるので覚えておくといいですよ。自由広場では消費税以外の税金がかからないので、小規模に商売をしている人は、もうそこでしか商売をしなくなっていますから」

「消費税って帝国にはなかったんですけど、ものを買う時に、毎回、税金が取られるということなんですか?」

「そ。面倒よねー」

「……なんか大変そうですね」

「みんな取るだけで別に納めてないから、意外とほくほくなんだけどね」


 肩をすくめてお姉さんが言った。


 いいのかそれでっ!

 と、突っ込みかけたけど、やめた。


「最近は変な税金が増えて面倒になっているから――。あ、冒険者は報酬の10%を源泉徴収されるから報酬額が表記より低くても怒っちゃダメだからね?」


 これも帝国にはなかった税金だ。


 消費税といい、前世の気配を感じずにはいられないね。

 きっとエリカの発案だろう。


「もっとも、それが嫌でみんな、自由広場で個人的に依頼を受けるようになっちゃってねー。ギルドへの依頼にも手数料に加えて税金がかかるから、依頼者の方も自由広場に行くばかりだし。今じゃギルドの職員も、休憩時間を利用して、ほとんど自由広場で個人取引のお手伝いなのよ」


 ふむ。


 それってまたも方便で、税金を払いたくないからギルドがそのまま自由広場で活動しているだけだよね。

 余計なことだから言わないけど。


 この後、お姉さんに王都近くのダンジョンの場所を教えてもらった。

 王都に行く前に、転移陣はゲットしないとね。


 お礼を言って、私はギルドを出た。


 自由広場に行ってみる。


 川沿いの空き地はすぐに見つかった。


 空き地というか……。

 うん。

 完全な商業施設だったけど。


 柱と天井だけの体育館くらいの建物が、でーんと2つ並んで建っていた。

 中にはたくさんの人がいた。

 明るい声が聞こえる。

 町中の閑散っぷりが信じられない賑わいだ。


 たくさんの仮設売店があって、たくさんの商品が取引されている。



「冒険者ギルドはこちらでーす! 御用の方はどうぞー!」


 とか、


「商業ギルドはここでーす! 大口の取引を希望の方は、ご相談くださーい!」

「お困りのことがあれば、衛兵待機所にどうぞー!」


 とか、たくさんの呼び声が聞こえる。


 町中の施設が集まっている感じだ。

 普通に衛兵さんもいて、治安を守っている。


 領主に隠れて、こっそりやっているわけではなさそうだ。

 かなり堂々としている。


 まあ、いいか。

 深く考えても仕方がない。


 私は屋台巡りだ。


 王国の食べ物を、いろいろ見ていこう。


 聖国では、ユイの影響を思いっきり受けて、和食がかなりあったけど。

 王国ではどうだろうか。


 と思ったけど、よく考えたらエリカは洋食大好きな子だった。


 屋台に「薔薇姫様考案!」の看板を掲げたエリカリータっていうピザがあった。

 トマトソースの上にチーズとバジルの葉を載せたピザだ。

 うん。

 前世で見たことのあるピザだ。


 買って食べてみた。

 味はよかった。

 まさにマルゲリータ。

 うん、どうしても笑えてくるのは仕方ないよね!


 エリカリータって……。


 よく名付けたものだ。


「ねえ、おばさん、これってエリカ王女様がホントに考えたものなの?」


 子供のフリをして無邪気に聞いてみた。

 まあ、子供なんだけど。


「うん、そうだよ。薔薇姫様は料理を作るのが大好きでね。新しいレシピを考えては無料で公開してくれているんだ」

「へー。偉いんだねー」

「そうだよー。偉くて美しいお方なんだ。……本当に、料理だけ作っていてくれれば素晴らしいお方なんだけどねえ……」


 ここまで言っておばさんは失言に気づいたようだ。

 慌てて言い直す。


「っと、思わず旦那の悪口に話がそれちまったよ! 最近、仲が悪くてねえ!」


 笑ってごまかすので、私も合わせて笑った。

 詳しい話は、さすがに聞けないか。


 まあ、町の様子を見れば、だいたい察することはできる。


 エリカ……。


 いろいろ頑張ってはいるみたいだけど……。


 私の気のせいじゃなければ……。

 庶民の実生活には、まったく触れていないんだろうね……。


 盛大に空回りしている……。

 気がする……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] これは、かしこい精霊さんの出番だな! かしこさをフルに発揮して・・・なんかするのだww
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ