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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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181 閑話・騎士達の末路



 俺達は騒ぐのをやめ、少女の挙動を油断なく観察する。


 ここはザニデア山脈。


 魔物の跋扈する超危険地帯だ。


 断じて、少女が1人で散歩に来る場所ではない。


「どうしたのかな、お嬢ちゃん」


 バラン隊長がゆっくりと立ち上がり、その空色の髪の少女に声をかけた。


「迷子になっちゃったかなー?」


 おどけた口ぶりだが、油断していないことはわかる。

 腰の剣をいつでも抜ける体勢だ。


 少女はゆっくりと歩いた。

 俺達の脇を通り過ぎ、テントの横、担架に乗せたグリフォンのところまで。


 俺達も身を起こした。


 少女がグリフォンに触れる。


「……よかった。……まだ助けられそう」


 少女がそうつぶやく。


 そうして、俺達の方に振り向いた。


「実は、この子を返してほしいの」

「この子とは……?」


 隊長がたずねる。


「この子、貴方たちが捕まえた、このグリフォン。いくら出せばいい?」

「それはお金のことか?」

「うん。言って。宝石やミスリルでもいいよ」

「そう言われてもなぁ……。お嬢ちゃんは手ぶらのようだが?」

「魔法のバッグがあるから――。たとえば、このミスリルのインゴットとか、20個までなら出せるけど」


 いつの間にか少女の手のひらには、虹色に輝く精製された金属の一塊があった。

 こちらに歩いてきて、バラン隊長にそれを渡す。


「……間違いない。ミスリルだ。これが20個もあるってのか?」

「うん。全部で、金貨2万枚くらいの価値になると思うけど、どうかな?」

「残念だがお嬢ちゃん――」


 隊長が礼儀正しくインゴットを少女に返す。


「たぶん、グリフォンはそれ以上――金貨3万枚にはなる。これ20個じゃ、交換することはできねーな」

「なら、追加で金貨2万枚を払うよ。それで相場以上だよね」

「それも現物はあるのかな?」

「うん。魔法のバッグに入ってるから」


 そう言って少女は、腰に下げたポーチに触れる。


「少し仲間と相談させてもらってもいいかな?」

「いいけど、急いでいるから早めにお願い」


「わかった。

 すぐに済ませる。

 ――おい、みんな、来い。

 おまえもだ」


 隊長が俺達をテントの裏にまで呼び寄せる。

 隊長は途中で腕をつかんで、奴隷の1人も連れてきた。

 最年少の獣人の少女だ。


「メナス、おまえ、首輪のはめ方はわかるな?」

「はい。一応は」


 メナスとは俺の名だ。

 隷属の首輪の使い方は、一応、講習で学んだ。


「おまえは敏捷性に優れる。俺があの娘としゃべっている間に回り込んで、うしろから首輪をはめろ」

「……あの少女に、ですか?」

「当然だ。他に誰がいる」


 隊長が奴隷の少女の腹に拳を突き入れた。

 短く息を吐いて、少女が倒れる。

 そうした上で、隊長は少女から支配の首輪を外した。


「これを使え」

「大丈夫なのでしょうか……? あれは、人間に化けた魔物では……?」

「かもしれんが、その時には殺してしまえばよい。あれだけの上物だ。捕縛できればさらに財産が増えるぞ」


 たしかに隊長の言う通りか。

 あの娘が亜人なら、相当の高値で売れるはずだ。

 それに違っていても俺達には黒塗りの剣がある。

 倒すのは容易いだろう。


 ジルドリアではトリスティンと違って、亜人や獣人にも市民権が与えられている。

 町や村で普通に暮らしていて、いきなり奴隷にされることはない。

 もしもそんなことをすれば重罪だ。

 奴隷になるのは、借金が返せなかったり、重罪を犯した時のみだ。

 条件は人間と変わらない。


 だが、辺境の荒野に住む獣人や亜人であれば話は別だ。

 彼らに市民権はない。

 そもそも王国に従属していない。

 捕縛して奴隷にできれば、それはそのまま捕まえた人間の資産となる。


「まずは取引に応じたふりをして、インゴットと金貨を出させる。

 首輪をつけるのはその後だ。

 いいな?」


「はい。わかりました」


 他の騎士達は俺の気配を隠すために、隊長の周囲でインゴットや金貨を見て大騒ぎして喜ぶことで作戦は決まった。


 俺達はテントの裏側から出て、少女の前にまで歩いた。


「話は決まった?」

「ああ、取引には応じさせてもらう」

「よかった」

「さあ、現物を出してもらおう」

「うん」


 少女がポーチに手を入れて、次から次へとインゴットを出していく。

 さらには、大量の金貨が入っているらしき革袋も。


「これで全部だよ」

「では、確認させてもらおう」


 隊長がインゴットを手に取り、革袋の中に金貨が詰まっていることを確かめる。


「さすがに正確な枚数まではわからんが、確かに金貨2万枚はありそうだ」


 おおお!

 ひゅうひゅう!


 まわりで騎士達が大きな声を上げて、囃し立てる。


「正直に言うと助かった!

 俺達も、この大きな獲物をどう運ぶか途方に暮れていたんだ!

 俺達は君との素晴らしい出会いに感謝しよう!」


 隊長が両手で、少女の両手を握った。


 今だ!


 俺は素早く動いて、少女の首に支配の首輪をはめようとした。


 完璧なタイミングと――。

 完璧な動き――。


 の、筈だった。


 なのに俺は地面に倒され、背中を少女に踏みつけられた。

 しかも首輪を奪われていた。


「ねえ、これって奴隷にする首輪だよね? 私につけようとしていたの?」

「チッ。しゃーねーな」


 隊長が剣を抜いた。

 続けて、仲間達も剣を抜く。


 すべて、触れただけで相手に呪縛を与える黒塗りの剣だ。


「安心しろ。殺しはしねーよ。人間の世界では、お嬢ちゃんは高く売れるんだわ。あきらめて奴隷になりな。お嬢ちゃんくらいの上玉なら、辛いことなんてねーさ。毎日楽しく暮らせると思うぜ」


 隊長がしゃべりかける内、他の騎士達が静かに少女を取り囲んでいく。


「……君たちは騎士なんだよね?」

「ああ。ジルドリア王国の、ちゃんとした騎士さ」

「こんなことするんだ?」


 剣を向けられても、少女が魔物に変貌する様子はなかった。

 そのまま亜人の子のようだ。


「そりゃするさ。資源回収も俺達の仕事だ」

「私もグリフォンくんも、資源なんだ?」

「当然だろ? 魔物の死体は魔道具の素材にできるし、奴隷は牛よりも使い勝手のよい労働力だ。国を豊かにするには必要なのさ」

「……そかー」


 少女が悲しそうに夜空を仰ぐ。

 あきらめたのだろう。

 人間を信じすぎたのが運の尽きだったな。


 かわいそうではあるが、俺達も生きるために資源と金は必要だ。


 俺が覚えているのは、そこまでだった。




 …………。


 ……。




 足に痛みを感じて、俺は目を覚ました。


 目を開けると、強い陽射しが一杯に飛び込んできた。


 ワンワンワンワン!


 けたたましい犬の鳴き声が聞こえる。


 体が動かない。


 見れば、俺は何故か下着一枚で――。

 野良犬に足を噛まれ、引っ張られていた。


「くそっ! このっ!」


 必死に蹴飛ばして追い払う。


 まわりには5匹の野良犬がいて俺に威嚇している。


 立ち上がって身構える。

 たとえ下着一枚でも、野良犬ごときには負けない。


 だが幸運にも戦いにはならなかった。

 身構えて睨みつけたところで、野良犬達が下がってくれたのだ。


「くそ……」


 噛まれた足が痛む。

 病気の危険もある。

 帰ったら、すぐに水魔術師に診てもらう必要があるだろう。


 俺はあたりを見回す。


 ここは、ジルドリアから帝国へと続く、ザニデア山脈の山道のどこかだろう。


 そしてうしろを向いて、驚いた。


 隊長達がいた。


 みんな、下着一枚だった。

 道端で倒れている。

 意識はない様子だった。

 奴隷達の姿は、どこにもなかった。


 木札が掲げられていた。


 こいつらは凶暴な山賊です。

 逮捕していいよ。


 と、書いてある。


「隊長! みんな!」


 俺は急いで隊長と仲間達の頬を叩き、意識を取り戻させた。


 わけがわからないまま、とにかく撤退を決めた。


 下着一枚での移動だ。


 たまに旅商人とすれ違うのが、とても恥ずかしい。


 もっとも、相手の方から目を逸らし、俺達とは距離を取っていったが。


 途中で布を取り扱う商人と出会い、布を譲ってもらった。

 俺達は騎士だ。

 署名して、必ず金は払うと約束した。

 商人はジルドリア人で、話は簡単にまとまった。


 しかし、いったい、何が起きたのか。


 間違いなく、あの少女の仕業か。


 ただの亜人ではなかったのだろう。

 俺達は負けたのか。

 負けたなら、なぜ俺達は殺されていないのか。


 まったく意味がわからないが、とにかく帰還して報告する必要がある。

 奴隷も武具も荷物もすべて無くしたのだ。

 もはやどうにもならない。


 俺達は、除名か降格か左遷か……。

 あるいは再調査か。

 今後の事を考えると気は重くなるが。



「……なあ、おまえら、あの娘はなんだったと思う? 今の俺達は、あの娘に放り出されたんだよな、きっと」


 隊長がぼんやりとした声で俺達に聞いてきた。


「聖なる山ティル・デナに住む何者かでしょうか……?」

「まさか、精霊様か……?」


 仲間の1人、リックが言った。


 まさかとは思う。


 あの少女は、精霊様だったとでも言うのだろうか。


 否定しかけて俺は、


「そうかもな……」


 と、つぶやいた。


 なにしろ、すべてが現実離れしている。


 みんな、ぼんやりとしていた。


「なら俺達、精霊様の怒りを買っちまったのか……?」


 今度はトニーが言った。


「安心しろ。精霊様は、もうこの世界にいない」


 隊長が即座に否定する。


「ですが、帝国では精霊様が現れたと――」

「敵国の政治工作を信じるな。そんなだから付け込まれていくのだ」

「……申し訳ありません。失言でした」


「とは言うものの、実は俺も少しだけそう感じている。

 だが、あれは魔物だったのだ。

 俺達は魔物の幻術に惑わされたに違いない。

 俺はそう報告するつもりだ」


「……はい。……わかりました」


 トニーがうなずく。

 あわせて、俺達もうなずいた。


 ジルドリアでは、精霊関連の情報は帝国の政治工作だと断言されている。

 先日の演説会でも、かなり強い調子で国王陛下が否定されていた。

 精霊の存在を認めれば帝国の工作員だと言われかねない。



 かくして――。


 俺達の任務は失敗に終わった。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 盗賊と変わらない騎士をそのまま放置とかアホじゃね? [一言] クズに情けをかける奴は、それ以上のクズだよ。
[一言] 鑑定で「精霊の怒りに触れたもの」とかでてきたりして
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