179 グリフォンの危機
マリエを送り届けて、竜の人たちと生成祭りをした後、私は竜の里から出た。
久々にザニデア山脈で素材集めをするためだ。
鉱物の在庫はまだ十分だけど、それでもなんだかんだでかなり使ったので、時間のある内に補充しようと決めた。
それに、白狼くんやグリフォンくんたちにも会いたかったし。
まずは聖なる山ティル・デナの近辺でミスリル鉱石を狙った。
掘る、掘る。
採掘ポイントを飛び回って掘り続けた。
朝から始めて昼まで頑張った。
さすがにミスリルはドロップ率が低くて大量には無理だったけど、それでも使った分の半分くらいは補充できた。
「よし、お昼にするかー」
どこで食べるかは、実はもう決めてある。
何夜かを白狼くんと過ごした思い出の場所、聖なる山ティル・デナからそれなりに離れた大きな岩の上だ。
「おーい! 白狼くーん! いるー? クウちゃんだよー! 遊びに来たよー!」
背後の森に声をかけてみる。
しばらく待つ。
反応はなかった。
残念。
仕方がないので1人で食べる。
今日のランチは、学院祭で買ったドワーフ料理だ。
まあ、ハンバーガーなんですけども。
パティが3枚も入っていて、とても肉肉しい。
しかもソースが特濃。
お酒をガバ飲みしながら美味しく頂いている姿が想像できる、まさにドワーフな感じのハンバーガーだった。
「あーそういえば、マクナルさん元気かなー」
前に城郭都市アーレで会った、ドワーフの鍛冶師さんのことを思い出す。
私の家のとなりに、まさかの弟さんが住んでいるんだよねー。
あれには驚いた。
機会があればそのことを教えてあげよう。
もう知ってるかもだけど。
アーレには、近い内に行くだろうし。
「ふう。ごちそうさま」
なんとか食べおえた。
私には量が多すぎて、完全にお腹が膨れてしまった。
というわけで、お昼寝たーいむ。
食って、寝る。
なんて幸せな時間なんだろうか。
岩の上に仰向けになって寝転ぶと、眩しい陽射しが閉じたまぶたを透かしてでも世界を真っ白に染める。
今、季節は夏。
普通ならこんな風に寝れば、日焼けで大変なことになる。
でも私は日焼けしない体質のようだ。
しかも、必要以上の暑さも感じていない。
ほどよい暑さだ。
たぶん、精霊の特性なのだろう。
よく知らないけど。
「精霊に生まれて……よかったねえ……」
ああ、意識が真っ白な光に溶けていく。
…………。
……。
目覚めると、いつものように大きな白い狼くんがそばにいてくれた。
「やっほー。久しぶりー」
声をかけても、相変わらず無視されるけど。
「来てくれたんだねー。ありがとねー。でも、暑くない……?」
返事はなかった。
まあ、いいや。
真っ白な毛に体を預けて、もう一眠り。
あれ。
なんか、毛が冷たくて心地よい。
魔力感知で確かめてみれば、なんと白狼くんは水と闇の2属性を持っていた。
さすがはザニデアの魔物だ。
すごいねー。
もふもふー。
すやー。
次に目を覚ますと、もう白狼くんはいなかった。
いつも通りだ。
「ありがとねー。またねー」
森に向かってお別れを告げて、私は飛び立つ。
かなり日は傾いてきたけど、まだ夕暮れにはなっていない。
もう一踏ん張り頑張ろう。
……まあ、昼から3時間は寝ていて、もう一踏ん張りも何もないのですが。
というわけで、採掘。
ざくざくと掘った。
移動しつつ掘っていく内、あたりは岩ばかりになる。
グリフォンくんたちのナワバリだ。
と、思っていたら――。
「ぴぃぃぃぃぃ!」
可愛らしい鳴き声を上げて、小さな子供のグリフォンくんが飛んできた。
前に私の頭の上に乗っかって、じゃれついてきたチビちゃんだ。
私の目の前に降りると、ぴーぴーと鳴く。
可愛らしいというよりは、必死な感じだ。
「どうしたの?」
「ぴぃぃ! ぴぃぴぃぴぃ!」
残念ながら鳴き声の内容はわからない。
「なにかあったの?」
「ぴぃぃ!」
だけど、なにかよからぬ事態がおきていることはわかる。
「いいよ。助けてあげる。連れていって」
「ぴぃ!」
今度は嬉しそうに鳴いて、チビちゃんが私に背を向けて飛んだ。
すごいね。
私の言葉、理解できているのかな。
私はうしろをついていく。
チビちゃんが連れていってくれたのは、岩山の洞窟だった。
中に入っていくと、グリフォンの巣がある。
そこにはお母さんグリフォンがいた。
私はすぐに、その大きな体に何本もの矢が刺さっていることに気づいた。
羽根には血が染みていた。
「どうしたの!? 人間にやられたの!?」
「ぐるるるる……」
苦しげに声を漏らす。
「ぴぃ! ぴぃ!」
「大丈夫だよ。任せて」
ソウルスロットに、白魔法、銀魔法、緑魔法をセット。
「昏睡」
まずは眠らせた。
次に銀魔法の物品操作で丁寧に矢を抜いていく。
途中で折れたりしないように、しっかりと矢先からつかむようなイメージで。
その後でヒール。
む。
よくなりきらない。
解毒。
むむ。
効果がなかった。
私は抜いた矢を見る。
黒い矢先が、はっきりと禍々しい。
アイテム欄に入れると「カースド・アロー:呪術生成された呪いの矢」と出た。
呪いか。
ということはリムーブカースだけど、通常魔法では不安が残る。
決めた。
こうなればもう目立ってもいいので、古代魔法だ。
究極回復魔法で光の柱を立てて、お母さんグリフォンを完全回復させた。
「ぐるるっ」
魔法の効果で意識も戻ったお母さんグリフォンが私に頭をこすりつけてくる。
でもすぐに身を返して洞窟を出ようとした。
「待って待って!」
私は慌ててそれを止めた。
「襲われたんだよね? 敵討ちにいくの?」
「ぐるるるるる!」
「ちがうの?」
「ぐる!」
「ぴぃー! ぴぃー!」
「もしかして、お父さんに何かあったの?」
「ぴぃ!」
洞窟には、お父さんグリフォンの姿がない。
「……もしかして、人間に捕まったとか?」
「ぐるる!」
「ぴぃ! ぴぃ!」
どうやらそのようだ。
お母さんグリフォンの目を見て、私は言った。
「わかった。私に任せてくれていいよ。私の言葉はわかるよね? いい? 相手は呪いの武器を持っているから、貴女が飛び込んでも、たぶん勝てない。だから、空の上から場所だけを教えて。あとは私に任せて。私を信じて」
「ぐるる……」
小さく鳴いて、お母さんグリフォンが私に頭を下げた。
わかってくれたようだ。
3人で洞窟を出た。
チビちゃんは残して行きたかったけど1人にするのも不安だ。
お母さんと一緒の方がいいだろう。
場所はハッキリしているようで、お母さんグリフォンはまっすぐに飛んでいく。
私は、必死なお母さんグリフォンと不安でいっぱいなチビちゃんを見て、怒りを感じずにはいられなかった。
人間どもめ……!
お父さんグリフォンに何かしていたら、ただでは済まさないからな!
とはいえ……。
一方では、冷静に考える部分もある。
何故なら人間側も、グリフォンに襲われて必死で迎撃しただけなのかも知れない。
話は聞く必要がある。
いずれにせよお父さんグリフォンは返してもらうけど。
たとえ死体でも返してもらう。
ただ、人間たちにとっては、間違いなく高価な「戦利品」だ。
返してくださいと言われて「はい、わかりました」とうなずくことはないだろう。
金銭で片がつくなら、それでもいい。
いくらでも払おう。
できれば、話の通じる人間たちであってほしい――。
私はそう願わずにはいられなかった。
今回からエリカ編です!
よろしくお願いします\(^o^)/
……シリアスに行くか、普通に落とすか、それが問題だ。




