173 かしこい精霊さん、保身を図る!
宴会もおわって、私たちはまた3人になった。
私とユイとナオだ。
ユイは滞在が許されて、ナオのとなりの部屋がもらえることになった。
ある意味、羨ましい。
2人で暮らせるなんて。
フラウは私もここに住んでいいと言ってくれたけど、それは辞退した。
私の家は帝都にある。
ふわふわ工房を放り出すつもりはない。
ユイは今、ナオからレクチャーを受けている。
カメとは?
うん。
どうでもいいっ!
私はそんな2人の近くで、必死にこれからのことを考えていた。
なんとか、怒られないようにせねば。
うーん。
そもそも私は、何のためにユイに会いに行ったんだっけ。
ああ、そうか。
なんか非難宣言が行われるとかで、それを止めに行ったのだ。
つまり。
任務は成功だね。
ユイはもう聖国にはいないし。
当分、戻らないだろうし。
もうこのまま放っておいていい気もするけど……。
それはそれで嫌な予感もする……。
お。
カメとは?のレクチャーがおわった。
「さて、ユイちゃんや。そろそろ真面目な話をしようか」
「え、なに……?」
思いっきり泣きそうな顔をされた。
ナオが非難するように赤い瞳で私のことを見つめた。
いや、うん。
同じような境遇だもんね。
わかるよ。
でも、私は悪役じゃないからね!?
「帝国のこと。非難宣言をするって聞いたけど、結局、やる予定だったの?」
そう。
昨夜はこの、肝心なことを話しそびれたのだ。
ユイも落ち着いたみたいだし、もう聞いても平気だろう。
「……えっと。エリカが何度も手紙を送ってくるから、どうしてもっていうならいいよとは言ったけど」
「ダメです」
「え?」
「はっきり断って下さい」
「えっと……」
「昨日も話したよね。私、帝国に住んでて、皇女とは大の仲良しだって。宣言なんてしたらほんとに怒るからね?」
「私、しないっ! しないから許してー!」
「ならばよし」
私は大いにうなずいた。
「まあ、もうここに来ちゃってるし、やるわけもないとは思ったけど」
「そうだよぉ……。私、もうカメだし……」
「でも、そういう噂が広がっててねー。
聖女が、帝国での精霊騒ぎはすべて嘘だって言ってるって。
ちなみにアレ、全部、本当だからね?
帝都の祝福は、精霊どころかアシス様の祝福で、スーパー上位互換だし。
私の友だちの皇女セラフィーヌは光の魔力を持っていて、私の指導でもう白魔法が使えるようになっているし。
陛下に祝福したのは、他でもない私だし。
そこんとこ、しっかりしときたいんだよねー」
「……えっと。
噂は全部本当だったんだ?」
「うん。恥ずかしながら、全部、私が関わってて、本当だよ」
「でも、あのね、クウ。……私、もうカメだし。……もうなんにもできないよ」
「ダメです」
「そんなぁ」
「そこだけはきちんとしてもらいます」
じゃないと私が怒られる。
私は褒められたい子なので、怒られるのは嫌なのだ。
「うう……。じゃあ、どうすればいいのぉ……?」
「うーん。どうしようかー」
問題はそこなんだよね。
ユイは当分、聖国には戻りたくないだろうし。
というか、表舞台にも出たくないだろうし。
とはいえ、ちゃんと否定してもらわないと困る。
「ナオ、なんかいいアイデアない?」
「簡単。動画」
「……動画?」
「会見を録画して、放映。この世界にはビデオカメラがある。少し前にフラウが昔の映像を見せてくれた」
「おお。そういえばあるよね。いいかも、それ! でも問題は、どうやって大勢の人に見せるかだねえ……」
生放送の配信網が帝国にはあるけど、けっこう準備は大変みたいだ。
それに、できれば、準備して仰々しく行うのではなくて、
いきなり突発的にやって、
「じゃ、そういうことなのでよろしく」
的な。
あーそうなんだーって、ポカンと納得できる感じにしたい。
その方が面白いよね、きっと。
「クウの銀魔法は?」
ナオが言う。
「銀魔法?」
「ライブスクリーン」
「あれって、そういう用途の魔法ではないんだよねえ。……あーでも、そうか。やればできるかも知れないよね」
生成や魔法で試してみた結果、私の能力は、意思の力で効果を変えることが可能だと判明している。
頑張れば私の魔法のスクリーンにも水晶球の中身を写せるかも知れない。
というわけで。
フラウから録画済みの水晶球を貸してもらった。
握りしめて、
この中の映像、映れ、映れ……。
私の銀魔法で映るんだ……。
と強く念じる。
そしてライブスクリーンを発動してみた。
すると、映った。
すごい。
現れたのは、床にまで黒髪を届かせた背の高い女性だ。
黒いドレスに身を包んでいる。
凍りつくような冷たい迫力があるのに、その表情はとても優しげだった。
場所は竜の里のホールだ。
映像からは声も聞こえる。
『フラウニール、ゼノリナータ。
私の可愛い子たち――。
私は旅に出ます。
もう帰ってくることのない、長い長い旅です。
どうかいつまでも幸せでいてください。
それだけがお母さんの願いです』
「……あの、フラウ。これって、もしかしてイスンニーナさん?」
一緒についてきたフラウにおそるおそるたずねた。
「うむ。である。クウちゃんの魔法で見ると、本当に――今、目の前にいるかのような感じになるのであるな」
フラウが目からこぼれた涙を拭う。
「これが――。そうなんだ――」
「……どういう人なの?」
何も知らないユイが、小声で聞いてきた。
「竜と精霊の母親で、魔道具制作の達人で、命を捨てて世界崩壊の危機を救った先代の闇の大精霊だよ」
「……命を捨てて、世界を、かぁ。すごい人なんだね」
映像がおわって、私は魔法を止めた。
貴重な水晶球はすぐにフラウに返す。
落として割ったりしたら、償いようのない品だ。
「よーし、これならやれそうだね! フラウ、悪いんだけど、これの録画用の魔道具を貸してもらえないかな」
「申し訳ないのであるが、大昔に壊れてしまって処分済みなのである」
「そかー」
落胆しつつ、でもすぐに私は1人の友達のことを思い出した。
セラのパーティーの時に壁際で知り合った女の子。
マリエ!
たしか実家は映像屋!
彼女にいろいろと手伝ってもらおう!
帝国と聖国の未来を決める大仕事だ!
やりがいマックス!
きっと大喜びしてくれるよね!
昨日は沢山の誤字脱字報告をありがとうございました。
自分でも見直しているつもりではいたのですが、あんなにたくさんあるとは……。
ご覧いただきありがとうございましたっ!
評価とブクマもよかったらよろしくお願いします\(^o^)/




